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    bintatyan

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    付き合ってる滝安
    エロくないけど会話が不健全

    #滝安

    このあとすること恋人のことをいやらしい目で見るのはむしろ健全だ、と滝川は思う。誰彼構わずエロいなと思うようなケダモノよりかはずいぶん一途でいじらしいことではないか。だが、最近の己はさすがに度が過ぎているように思えてならなかった。
    クッションを抱え込んて床に転がっている安原は、至って普段通りにTシャツとゆったりとしたハーフパンツという部屋着姿で、図書館で借りてきたらしい仏教の歴史がどうのこうのいう分厚い本を眺めている。せっかく安原の部屋に2人きりだというのになぜ、と思うのだが、安原は「分からないことや気になることがあったらすぐその道の人に聞けるのって有り難いですね」と満足げで、その表情は悪くない。
    そんなわけで、たまに質問が投げかけられるのをなるべく丁寧に答えてやっていた。
    そもそも、だ。
    仕事が長引いて仮眠をとる暇もなく安原と約束していた時間になってしまったためにそのまま部屋を訪ねたら、顔を見るなり「とりあえず僕の言うこと聞いてもらいます」と即シャワーを浴びさせられてそのままベッドに放り込まれた。これが3時間前の出来事だ。
    そのまま2時間半ほどぐっすりと深く眠り、空腹感で目覚めると安原はうつ伏せで床に転がって本を読んでいた。大学が夏休みに入った安原は、3年生で就活も始まっているとはいえ時間を気にして動く必要のある時期でもないのでできる範囲でスケジュールを滝川の休みに合わせて開けてくれている。会うために都合をつけてくれたのだろうに疲れた滝川を休ませるのを優先してくれたのだった。
    そんなデキる男安原と寝起きの滝川の協議の結果、以前行ったことのある近所の定食屋で昼食をとろうということになったので、開店時間までの間は「いまいちわからないところがあるので寝直さないなら解説お願いします、先生」と請われて教師役を担うことになった。あと10分もしたら多少の身支度を整えて家を出るのがいいだろう、と考えながらも、薄く柔らかい夏用の生地の部屋着に包まれ形が露わな太ももや、露出したふくらはぎを見つめてしまう。
    安原は日頃、バイト先が渋谷に居を構えるオフィスということもありスーツとまではいかずとも大学生の私服としては少し固い格好をしていることが多い。無地かストライプのシャツにセンタープレスの入ったチノパン程度のものなので私服としてもおかしなところはないのだが、元々は彼はもう少しカジュアルなものを着ていた。それこそ、Tシャツにパーカー、ボトムにセンタープレスなど入っていないような。バイトを始めてから意識して着るものを変えたのに違いなかった。
    スクエアな服も似合う。というか、今となってはそういうほうが彼らしくすら感じる。――が、だからこそカジュアルで全く気取らない服を着ている安原というのが妙に可愛く思えてしまうようになった。
    着慣れて萎えた服で、寝癖のついた頭のまま手探りで眼鏡を探すような、健全の塊のような朝の安原に対して簡単に欲情してしまう己がなんとも情けなく気恥ずかしい。
    「なあ修」
    「はい」
    本から視線を外して、振り向く。緩やかな襟ぐりからはくっきりと浮き出た鎖骨がのぞいている。
    「こっちこない?」
    「ベッドに?……法生さん、お腹空いてるんですよね」
    「うん」
    「このあとお昼食べに行きますよね?」
    「そだよ」
    「じゃあ、あなたがなんだかやらしい顔してるのは僕の気の所為なのかな」
    笑いながら流し目をくれる安原に、不満ならそんな表情を見せてくれるなよと思いながらなおも手招く。
    「お前がやらしいこと考えてるからそう見えるんじゃないの。俺がどーいうつもりかは来てみれば分かる」
    ふむ、とほんの少し考えたふりをして安原は起き上がり、ベッドに座る。その腰に腕を回してTシャツの裾から指を潜り込ませ、薄い腹を撫でた。
    「やっぱり不埒ですね」
    「ついうっかり手が滑った」
    「びっくりするくらい白々しいなぁ」
    ヘソに人差し指の爪先を引っ掛け、その周りの皮膚を他の指の腹でやんわりと撫でる。痩せすぎているというわけでもないが、肉はあまりないぺたんこの腹。
    「ちょっと……いたずらしないで」
    「な、飯食ってる間ずっと考えてて。このあと俺とやらしいことするって。……お前が良いなら、俺んちに移動しない?」
    「……」
    安原は学生向けの安い部屋を借りていて、声や物音は筒抜けとは言わないが完全に遮断してくれるものでもない。それで、挿入を伴うセックスは大抵滝川の住まいで行われていた。つまりこれは『今日は最後までしたい』という誘いだ。
    「……実は今朝、隣がしばらく実家に帰省するんだって荷物抱えて出かけていったんです」
    「河合くんか」
    「そう」
    安原の部屋の右隣は河合肇といういかにも真面目そうな男子学生で、滝川も安原の部屋に出入りするうちに何度か顔を合わせたことがある。もう片方、左隣はつい先日大学を中退して部屋を引き払ったらしかった。急なことだったのでなにかと思ったら『高柳瑛太氏はバイト先の先輩と行ったキャバクラでとある嬢にのめり込み、バイト代や親からの仕送りを使い込むどころか借金までして貢ぐようになったのを同じく東京で暮らしていた兄に気付かれて親に実家に連れ戻されたようです。まあ、噂の継ぎ接ぎだし裏取りもしてないので真偽は定かではないですけど』というのが安原の調査結果である。すっかり探偵が板についているようだ。
    「……ゴムとローション、まだあるっけ?」
    「注文しておいたの、届いてます」
    「買っといてくれたんだ」
    どちらもこの部屋ではあまり使わないので、食事を終えたら帰りにでも調達するかと考えたのだが、手回しが良い。安原は異様なほどに気が利く男なのでさして不思議ではないが、とヘソを爪先でカリカリと引っ掻きながら返事を待っていると、安原は小声で囁くように行った。
    「河合が今日から帰省するの、前から聞いて知ってたんです。だから、たまにはここでするのもいいな、と思って」
    「……飯食いに行くのやめて今すぐ抱きたい」
    「だめ。大人しく美味しい定食を食べながら、考えててください。このあと僕とやらしいことするんだ、って……ね、この狭いベッドで明るいうちからするの、いいでしょ」
    ひそやかな甘い声で言って、安原は指先で滝川の頬を撫でた。
    大学生が夏季休暇中に恋人を部屋に連れ込んで昼間から不健全なことをするのもむしろ健全だよな、と滝川は至極勝手に決め込んで、起き上がった。
    まずは昼食、そしてこの部屋に帰ってきたら、この部屋着を着せたまま彼を抱くのだ。先ほど戯れに先生と呼ばれたのも悪くなかったが、そういうプレイはまた別の機会に改めて。
    我ながら鏡を見なくてもわかるようなニヤケ面を引き締めるために、洗面所に向かった。
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