「でも……そんなの間違ってる!」
思っていたより大きな声が出て、慌てて口元を手で覆った。ここは病室からそんなに離れていない。他のみんなが起きてきたらまずい気がする。
「どうしてだ?強くなりたくないのか?」
「……っ」
強くなりたいに決まってる。だけど。
「与えられた力なんて」
「……また来る」
風丸はそれだけ呟いて振り向きもせず行ってしまった。
名前を呼んで腕を掴んで、思い直せ、と言ったら運命は変えられたんだろうか。
まとまらない思考の中、足音を立てないように病室に戻った。
「ねぇ」
後ろから松野の声がした。暗いせいで顔は見えない。
「今、風丸と話してたよね」
「……あぁ」
どうやら松野は起きていたらしい。
「僕は強くなりたいよ。ここにいるみんなもそう思ってる。半田だって強くなりたいと思ってるよね?」
「当たり前だ。でも」
「分かってるよ。他から得た力なんて間違ってることくらい」
「……」
「でもさ、今の僕たちにはなんの力もないよ」
「マックスは風丸が正しいっていうのか!?」
「風丸の気持ちも分からないわけじゃないってこと」
「……もうどうしたらいいのかわからないんだ」
「力があったら風丸を止められたかもしれないね」
「え?」
俺に力があったら風丸を止められた?風丸のあの苦しげな顔を見ずに済んだ?
「……ごめん、何でも無いよ」
「助けられたのかな」
「半田?」
「俺に力があったら風丸を助けられたのかな」
「……」
「なぁ。もしその力を、守るために使うなら許されると思うか?」
「守るために……?」
これは裏切り?
違う。俺は、仲間を助けたかっただけだ。
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「これは俺たちの意志だよな?」
確認するように松野に問いかける。
「何でそんなこと訊くの?」
「操られてるみたいだから」
「これは僕たちの意志だよ」
きっぱりと松野が言いきった。
「そう、だよな」
少し俯いた俺の顔を松野がそっと手でつつみこむ。
「操られてなんかない。これは僕たちの意志」
松野が呪文のように繰り返す。
「俺たちの……意志」
「まぁ円堂はきっとそんなの信じないだろうけどね」
円堂に対しての嫌味なのか、自分たちの意志だと言い聞かせる自分に対してか、松野が自嘲的な笑みを浮かべた。
「じゃあ、行こうか」
「あぁ」
黒いマントを翻しグラウンドの土を踏みつける。曇天の空を見上げて握る拳に力を込めた。
「俺たちは、」
自分の意志でここにいる。