抜粋 幼少期のことを思い出す。甘やかなメロディが、母の微笑みと共にある。母は私に、フリルのついたワンピースを着せるのが好きだった。純白のサマードレスで、短い夏を楽しむ。
「あなたが女の子でよかったわ」
口癖のように母は言う。ほとんど二人きりの生活で、男の子だったらどうしようかと思ったと。
「とっても可愛い。妖精さんみたい」
きれいな母の言葉に、私は首をふる。母のほうがきれいだと伝えると、笑顔になった母は私を抱きしめ、頬を触れさせた。
父の部屋にはレコードプレイヤーがあった。厳しいオーケストラが流れている。私は座る父の正面に立ち、表情を引き締めて言葉を聞く。母が選んだ服は、男子めいたシャツとサスペンダーのズボンだ。
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