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    浬-かいり-

    @Kairi_HLSY

    ガルパ⇒ハロハピの愛され末っ子な奥沢が好き。奥沢右固定。主食はかおみさ。
    プロセカ⇒今のところみずえなだけの予定。

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    かおみさ

    #ガルパ
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    #かおみさ
    loftyPeak

    鈍感な君にはストレートな告白を「あの、薫さん。今ちょっといい?」


     眉を下げた表情の美咲に呼び止められたのは、CiRCLEでの練習後のことだった。その声音や表情から、どうやら落ち着いた場所で話した方が良いだろうと判断し、外のカフェに腰を据えて話をすることにした。
     期間限定で販売していたホットチョコレートを二つ買ってテーブルに置くと、「すみません」って申し訳なさそうな美咲が頭を下げた。気にすることはないと微笑んで、彼女の向かいの席に座る。


    「……えっと、相談っていうか、なんというか」


     歯切れ悪く切り出した美咲は、小さな箱を取り出してテーブルに置いた。ピンク色にラッピングされ、赤いリボンが付けられた可愛らしい箱だった。
     本日は2月14日、バレンタインデー。つまりこれは、チョコレートの類であると容易に想像がつく。


    「貰ったんです、これ」


     そう言う美咲の足元には、チョコレートの箱や袋が詰め込まれた紙袋。それでもこのピンク色の箱のみを話題にするということは、どうやらチョコを貰ったこと自体に問題がある訳ではないらしい。


    「……その、薫さんは、チョコたくさん貰うじゃないですか。で、全員にお礼してますよね?」


     ピンク色の箱を手に取った美咲が、それをくるくると回し眺めながら、私の方にちらりと視線を向けた。
     そうだねと頷けば、美咲は困ったように溜息を吐いて箱を此方に差し出した。


    「……誰がくれたか分からないチョコには、どうしてます?」


     そのままピンク色の箱を受け取る。箱の側面や裏を見るけれど、成る程、差出人らしきものは見当たらない。よくよく見れば開けたような形跡があるから、中身も開けてみたのだろう。それでも差出人は分からなかったと。


    「最初はあたし宛じゃないのかなって思って、でも、」


     美咲がラッピングを剥がす。裸になった箱の隅は、可愛らしいミッシェルが控えめに描かれていた。


    「部室のロッカーに入ってたんです、これ。ミッシェルが描いてあるってことはあたし宛かなって、思って」


     テニス部の部室は、当然ながらテニス部員しか入れない。ハロハピの象徴であるミッシェルが描かれているということは、このチョコは紛う事無き美咲へ宛てたものだろう、ということになる。
     そのままパカっと、箱の蓋を開ける。


    「誰からか分からない手作りのチョコって怖いけど、でもあたしを想って作ってくれたものだから無下にもできないし、でもこれじゃお礼も出来ないし、どうすればいいのかなって」


     箱の中身は様々な形の一口チョコレートだった。シンプルに丸や四角いものもあれば、クマや星という可愛らしい形のものもある。
     そしてその隅っこに、肩身が狭そうにハート型のチョコレートが収まっていた。
     宛名の無い、こっそりロッカーへ入れられたチョコレート。


     ———私の中で一つの可能性が上がる。


    (この差出人は、もしかして美咲のことが……、)


    「ねえ薫さん、こういう時ってどうすればいいのかな」


     真剣なブルーグレーの瞳が真っ直ぐに私を射抜く。
     この目は、チョコレートをくれた相手のことを真剣に考えている目だ。相手を傷付けないように、悲しい想いをさせないように、必死に思考を巡らせているんだ。こういうお人好しなところは、実に美咲らしくて———同時に、そんな風に想われている相手が少し羨ましくなってしまって、ちくりと胸が痛む。


     きっとこのチョコレートの差出人は、美咲に対して私と同じ気持ちを抱いている。差出人が分からないとは言え、行動に移したこの子と、尻込みして移さなかった私。考えれば考えるほどに、焦りが募る。


    「…………その子はきっと、お返しとかは考えていないのだと思う。美咲に食べてもらえたら、それで嬉しいんじゃないかな」


     彼女の気持ちを代弁するように。でも答えは決して言わないように。そんなずるい手を取った自分が信じられなくなるけれど、でも納得する自分も居て。


    「ふぅん……? そういうもんなんですかね」


     首を傾げる美咲に私は頷く。きっとこの子は、あと一歩の勇気が無かったのだろう。想いをチョコレートに乗せても、名を明かす勇気までは無かったのだろう。


    「ああ、私もきっと、この子と同じ気持ちを知っているからね」


     え、と固まる美咲の頰に手を添える。此方を向かせれば、先程まで私の知らぬ誰かのことを考えていたブルーグレーの瞳の中には私一人が映っていた。


    「同じ、気持ちって?」


     美咲は、人の気持ちには敏感なくせに自分への好意に対してはひどく鈍感だ。それをもどかしく思っていたけれど、今この時だけは救いのようにも感じられた。
     どうかその想いに気付かないままでいて。
     私の気持ちだけを、受け止めてほしい。


    「私は、美咲が———、」


     まるで後出しジャンケンみたいに、焦りに駆られたかのように気持ちを伝える、嫉妬深くてずるい私のことを、どうか許してほしい。
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