表情というものは例えば別の土地に生きる者同士といった言葉の通じない者の間にも意思疎通を可能にしうるものだという。生きた時代を異にする者同士でも同じものを、そして魔貌とも呼ばれるほどの絶世の美を誇る顔であろうと、もちろん等しくそれを有している。
「だからなぁ、もうちょっとこう…にこっ、と。難しければやや爽やかめに…フッ…、こんな感じでどうだろう?」
故にこそフィン・マックールはどうにも躍起になっていた。
手本として目の前の男に次々に変化に富んだ笑顔を見せては期待の眼差しをきらめかせる。
「そうは言われましても…、……っ、…どうです…?」
「〜〜ッ不合格!かたい、かたすぎる!何故だ、どうして…!?」
せがまれていた彼の部下であるディルムッドは困ったようなぎこちない笑顔を返して何度目になるかもわからない駄目出しを受けた。
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