お子様ランチと大男 玄関の戸が、勝手に開いた。その表現は正しくは無いのだが、幼い津美紀にはそう思えたのだ。
珍しく――おそらく初めて母が留守番を頼んできたのは、ほんの三十分ほど前の事だ。保育園から帰宅する途中で、母の持つ携帯電話が鳴った。二言、三言の会話を終えた母は帰路を急ぎ、申し訳なさそうに津美紀に言ったのだ。少しだけ留守番をしていて欲しい、と。
常日頃から、誰が訪問してきても出なくていい、とは言い聞かされていた。しかし、誰かが入ってきた時にどうすればいいのかについては、ついぞ聞いたことが無かった。津美紀は恐る恐る玄関を覗き込み、目に飛び込んできた光景に凍りついてしまった。
狭い玄関で物音も立てずに靴を脱ぐ大柄な男。その腕には小さな男の子が抱えられていて、足元には見慣れたスーパーの袋。時折母が観ているドラマの、悪人と善人を足しただけのような風貌に、津美紀の思考は追いつかない。
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