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    くじょ

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    快新。MMORPGパロディ。
    過去に途中まで書いたものを大幅リメイク。
    ※まだ快斗は出てきません。
    ※元の作品とは所々で設定が異なります。
    ※今後、登場人物も変わります(予定)
    ※6月30日あわせで発行予定(予定は未定)

    #快新
    fastNew

    MMORPGパロ。進捗① くるくると回りながら光りを放つゲートから、ひとりの少年が姿を現した。
     ゲートは、商店や宿屋など、プレイヤーがゲーム内で必要なものを買い揃えたりいわゆる生活を送るための場所――タウンの中心部から少し外れた小高い丘の上にひっそりと佇んでいる。このゲートはエネミーが出現するフィールドやダンジョン、もしくは現実世界(リアルワールド)からこの仮想現実(『サイバーワールド』)へのログイン時に使用するプレイヤーキャラクターの転送用のゲートとして利用されている。
     姿を現した少年の名前は、工藤新一。
     まるで詰め襟のようなデザインをした衣装は上下ともに黒を基調にしていて、首元を中心に要所々々に施された繊細で美しい金色の装飾が際立っている。さらに背中には、足首ほどまであるマントが重く垂れ下がっていて、風が吹くとゆっくりとなびく。
     何もなくただ広々と地平線の果まで広がる荒野のフィールドから帰還した工藤は、ふう、と一息つく。それまでに彼が居た人気のないフィールドとは違い、タウンの外れにあるにも関わらず、誰かしらがひっきりなしに行き交っている光景を目の当たりにして、街に帰ってきたのだと実感する。
     振り返り、フィールドと街の広場とを繋ぐゲートを無言のままじっと見つめる工藤のもとへ、彼がタウンに帰ってくるのを待っていましたとでもいうように、色黒のひとりの少年が声をかけた。
     年の頃は工藤と同じで、彼の名は服部平次。濃紺の着物に漆黒の袴をベースにして、金色の装飾が施されている。その装飾は工藤のものと比べて控えめで、動きを邪魔しないような作りになっている。
     大げさに左右に手を振って小躍りでもするように、平次が駆け寄ってくる。その光景に工藤は、げっと顔をしかめて彼に背を向けるが、しかし、平次がその程度で諦めるはずがない。気づかなかったふりをして逃げようとする工藤を追いかけて、前に立ちふさがる。
    「よお、工藤。探したで。どこ行っとったんや? 今日もなんやけったいな報告がBBS(ゲーム内掲示板)に上がっとったで……って、まさか、そのフィールドに行っとったんか?」
     名前を呼ばれただけではなく、目の前に立ちふさがれてしまえば、さすがにそれ以上は知らぬ存ぜぬで他人のふりをして無視することはできない。
    「大声で名前を呼ぶのはやめろって言っただろう」
     工藤は、はあ、と大きくひとつため息を付いて、じとりと睨むような視線を平次に向けた。
    「また、バグについての調査か?」
    「ああ。小さなものが一瞬、ノイズが走るようなものを見たって噂を聞いたからな」
     情報源はゲーム内に設置されているBBS。各エリアに配置されているタウンの一角に設置されている掲示板を通して、プレイヤー同士が情報を共有することができる。その中に最近、ゲームの仕様ではない奇妙な現象――バグについての情報が書き込まれるようになった。
     バグについてならプレイヤー同士の交流の場であるBBSに書き込むのではなくゲームの運営に真っ先に報告をあげるところをそうしないのは、正直なところ不思議でならないのだが、わざわざ正式に運営まで報告をあげるよりもこうして不確かな噂話としたほうが気が楽なのだろう。
     その中でも工藤は、その名前こそ知られていないものの、頻発するバグを調査しているプレイヤーがいるとしてちょっとした噂になっているらしい。曰く、バグについてなら、運営に報告を上げるよりもBBSに書き込んだほうが早いというのが、最近のプレイヤー間でのもっぱらの噂になっている。
     もっとも、そのおかげでこうして工藤にも情報が回ってくるのだから、ゲームで過ごす日々の時間を退屈せずに済んでいる。最近はもっぱら工藤がひとりでバグの情報を収集しては調査に乗り出していて、服部は、そんな工藤を知る数少ない人物である。
     風が強く吹いて、砂埃が舞い上がる。
     道を歩く人々の足で踏み固められただけで舗装などされていない街の中は、風が吹くたび、ばたばたと人が動くたび、地面から細かい砂が舞い上がる。そのおかげでそこそこの人通りがある日中は常に砂が舞い上がり、足元は黄色くモヤがかかっているようで砂っぽい。
     そんな街の中心部には、人々が集まり、プレイヤー同士の交流の場ともなっている噴水広場が存在する。工藤の身長よりも遙か高く、見上げるほどの高さのある噴水のモニュメントは天に向かって大きく曲線を描いていて、そこから噴射される霧状のミストが周囲に降り注ぎ、こころなしか涼しく感じる。
     そんな広場の入り口の脇に、丸太と木の板を組み合わせて作られた掲示板が設置されている。実際に目に見えている掲示板には数枚の紙が貼られていて、最近の日付と時間とともに、大まかな内容が表示されている。
     もちろん、寄せられた情報は表示されているそれらが全てというわけではない。工藤と服部のふたりが掲示板の前に立ち、右手を伸ばしてタップするアクションを起こす。すると、目の前のなにもないはずの空間に文字が浮かぶ。光のように文字が浮かんで並び、情報の数々が一覧になって表示された。
    「なあ、服部」
     そのうちのひとつをタップする。一覧の上に重なるように新たに文字がポップアップして詳細が表示される。表示された情報に一通り目を通した工藤が、一瞬、本当にほんの一瞬だけ表情が鋭くなって、すぐにフッと不敵な笑みを浮かべる。それからすぐに、表示された情報のすべてを閉じた。
    「これから一箇所、行ってみたい場所があるんだけど……服部も一緒に来るだろう?」
     いつもそうするように、工藤が軽い口調で誘う。途端に、それまで工藤を見て笑顔を見せていた服部の顔が急激に渋いものへと変化した。
     ついてくるだろうと振り返ることもせず先を歩く工藤の後ろを、なんだかんだと小言のように口では小さな文句を言いながらも追いかける。服部は、こうしてあちらこちらへとひとりで自由に行動する工藤を制限することはしない。それどころか、誘われるままについて行っては、必要とあれば協力までする。
     今回も、工藤からの要請にYESの返事をして、嬉々としてついて行くと決めた。
    「それじゃあ、行くぜ」
    「おう!」
     工藤を上回るほどのやる気に満ちた勢いの良い返事。なにが楽しいのか、服部を誘うとなぜかいつもにこにこと楽しそうにしている。そんなにもバグを見るのが楽しいのかとも思うが、いつものことなのでもう慣れてしまったし、いちいち指摘することはしない。あまり気にしないようにしている。
     向かう先は、掲示板を経由してアクセスしたBBSに書き込まれた場所。街のはずれに設置されているゲートに向かってそのキーワードを宣言すると、目的の場所へ移動することができる。
     今回報告が上がっていたのは、フィールドの先にあるダンジョンの中。敵となるエネミーが頻繁に登場する代わりに、レアアイテムも入手することができるという場所。その最深部のエリアへ行く直前に突然ノイズが走り、タウンへ強制送還されたというものだった。
     そんな状態でふたりそろってゲートの前に立つ。キーワードを高らかに宣言すると、あっという間に報告の上がっていたフィールドへと移動した。

     転送されたのは、一面に大きく美しい湖が広がる湖畔のフィールド。
     くるくると回る転送装置を背にして、目の前に広がる光景に、ほう、と感嘆が漏れる。湖の水面はきらきらと太陽の光を反射して光り、森は美しく生え揃った木々が生き生きと緑づいている。
     すう、と大きく息を吸い込めば、肺いっぱいに澄んだ空気が埋め尽くす。雲ひとつない太陽が差す明かりと、ひやりと心持ち冷えた空気が肌に触れて、なんとも気持ちが良い。
     バグの調査を理由に訪れていなければ、ピクニック用具を一式広げてのんびりしたいと思うほど、美しい景色が広がっていた。
    「きれいだな……」
     まさかこんなにも美しい場所に問題のあるダンジョンがあるとは、言われたところで微塵も感じられない。情報がなければ、当然気づくことなどできず、むしろこうして情報を元に訪れたとしても、にわかには信じ難い。それほどまでに、他に無数にある通常のフィールドと比べて何の違いもそこに見出すことはできない。
     転送先のフィールドでしばらく待機していても、特になにも変化が起きる気配はない。至って平和でのどかな風景はそのままに、今のところは敵であるエネミーですらも出てくる様子がなくて、なにか手がかりはないものかと、服部とふたり、手分けをして湖のまわりをぐるりと見て回る。
     しかし、隅々まで見て回ったことで、ところどころから隠しアイテムが見つかった程度で、それ以上に不思議なこと、不自然なことはなにも起こらなかった。
     平和なフィールドの捜索を一通り終えたところで、手がかりになりそうなものが何も見つからなかったことに少なからず落胆する。
     できることならば事前に少しでも情報を収集したかったところだが仕方がない。
     問題は湖の端に建てられた祠で、問題のバグが起きたという場所へ向かうには、その影にある入り口から、地下へと繋がるダンジョンへ進む必要がある。
    「……行くか」
     ぽっかりと暗い口を開いた入り口をくぐると、湖のすぐ横にあるという立地条件がそうしているのか、地下へと続くダンジョンは暗く、じめじめと湿っている。ところどころの地面には水たまりができているし、ダンジョンの天井部分からは、ぽたりぽたりと水滴が滴り落ちている。壁となって洞窟嬢のダンジョンを支えている岩肌に手で触れると、じっとりと湿った水分が手のひらへと伝わった。
    「えらい辛気臭いダンジョンやのう」
     げえ、と服部があからさまに不快感を表情としてあらわにする。湿った岩肌に触れた手のひらが相当不快だったのだろう、手についた水分をごしごしと袴になすりつけるよう擦る。足元も濡れているため、すべらないよう一歩、また一歩と慎重に歩みを進める。そのたびに、ぐちゃりぐちゃりと湿ってぬかるんだ地面に足を取られた。
     服部の言う通り、眼を見張るような美しさの地上の湖畔周りとは真逆で、こちらのダンジョンは、お世辞にもあまり気持ちの良いものではない。
     太陽の明かりとともに熱も届かないダンジョンの中はひやりと冷えていて、涼しいというよりも肌寒い。先に立った新一は、十分に周囲を警戒しながらもどんどんと先へ進む。ダンジョンの中はジメジメとして陰鬱とした雰囲気だというのに、それに反して新一の足取りは軽い。
    「楽しそうやな?」
    「そうか?」
     いまにもスキップを始めそうな工藤の足取りに、服部は何がそんなにも楽しいのかと首を傾げる。しかし、指摘された工藤としては自覚がないため、服部がそうするように工藤もまた、真似をするように首を傾げた。
    「ああ、楽しそうや。いつものしんどそうな顔つきやない」
     服部に指摘されて、ぱちぱちと目を瞬かせる。そんなこと考えたこともなかったが、しかし、これまでに調査してきたバグ報告があったフィールドの数々は、どれもこれも転送されてフィールドに降り立ったその瞬間から重苦しい空気を全身で感じていた。
     一歩前に進むだけでも気力がみるみるうちに削られてゆくフィールドは、常に、いますぐにでも帰りたいと心が折れそうになるほどのプレッシャーと戦って調査していたことは記憶に新しい。
     それに比べるとこのフィールドは、BBSのバグ報告はデマだったか、もしくはゲートから転送されたフィールドが間違っているのではないかと思うほど、空気が軽い。
     報告こそあったものの、これまでなら感じていたバグの気配というものが感じられなくて、間違ってはいないかと若干の焦りを感じる。
     以前にも同じような状況があった。
     BBSに書き込まれたバグの噂。その報告を見たとき、たまたま服部と一緒に居たからという理由で、彼と一緒にフィールドへ繰り出したことがある。それも、一度ではなく、似たような状況で何度か一緒に調査へ向かうことがあった。
     何度か調査にでかけたいずれのときも、BBSに報告がああった場所までたどり着いたところで、至って普通の、それこそ他とは何も変わりのないダンジョンが広がっていただけだった。
     調査に訪れたのがダンジョンだったなら、簡単なものだったり、複雑に入り組んだものだったり。フィールドだったとしても、降り立ったときから感じる重苦しい嫌な予感というのがなかったり。つまりは本当にただ何の変哲もないフィールドであり、ダンジョンが広がっていた。何の変哲もないのだから当然、ダンジョンの最奥にあるボスの部屋に配置されていたボスだって特別異変はなかったし、通常使用できる攻撃で普通に、それもあっけないほどにあっさりと倒すことだってできた。
     それだけではない。念の為を思って倒したボスからドロップしたアイテムも、ボスを討伐したことで得ることができるボーナスアイテムもすべて、特におかしな点は見られなかった。それらはすべて、フィールドやダンジョンの攻略に付き合ってくれた服部への礼として渡してしまったので、それ以上詳しく調べることはしなかった。
     とはいえ、あとで服部から聞いた話では、特に何かしらの異常がおきることもなく、他のアイテムと同じように使用することができたという。最初に使うときこそ慎重に、恐る恐る使用したものの、いまとなってはもう、どれがバグとして報告が上がった場所から得たアイテムかの区別はついていないらしい。
     服部と一緒にフィールドへ向かうと、バグに遭遇しない。
     にわかには信じがたいことではるが、工藤自身がたてた仮説を信じるしかない。それ以外に説明がつかないのだから。
     今回も服部が一緒に来ているということは、同じような結果になるのだろう。それを確かめて確信を得るためという目的だってある。
    「――来るで」
     服部の声に、はっと視線を上げる。
     向かう先をまっすぐに睨むように見据えて、太刀に手をかける服部の視線を追って、工藤もまた、先へ視線を向ける。
     そこには、地面と、そこから立ち上がるように、金色の魔法陣がふたりの行く手を塞いでいた。フィールドやダンジョンでふいに現れる金色の魔法陣は、通常、アイテム、もしくは敵となるエネミーが召喚される場所を示している。回避したければ道を引き返して別のルートをとる必要がある。
     回避することもできるが、ふたりの選択は――
    「準備はええか?」
    「当然」
     服部は抜刀のための構えを、近接攻撃をする服部を援護するため、工藤はその手の中に召喚したハンドガンを構えた。
     ぽたりぽたりと水が滴り落ちるほど湿ったこのダンジョンなら、出現するエネミーの属性は炎ではないはず。大抵の場合、プレイヤーの武器や防具、敵となるエネミーにはそれぞれ、炎や水などの属性が付帯している。属性の相性によって多少なりとも有利や不利がある。特に敵のエネミーの場合は、その土地に生息しているという状況から、フィールドやダンジョンの特性から、その属性を推測できることが多い。
     そういったことから考えると、こうしてジメジメと湿った洞窟のようなダンジョンに召喚されるエネミーならば、水の属性だろうか。もっとも、この予想だって例外が多くて完璧なものではない。ごく稀なことだろうが、以前に水中のフィールドに炎の属性を持ったエネミーが現れたことだってある。水中エリアで炎属性の攻撃を食らったときはさすがに驚いたことを思い出す。
     つまり、エリアの特性は一応の目安になるとはいえ、必ずしもその性質に出現エネミーが依存するとは限らないということ。とはいえ、このダンジョンの程度ならば、属性の相性によっては苦戦を強いられるものの、いまの工藤と服部が手を組めば勝てないということはない。
     覚悟を決めて、目の前のエリアいっぱいに広がっている魔法陣へ足を踏み入れる。
     途端に、魔法陣から放たれた強い光りがあたり一面を包み込む。
     戦闘に入る直前、エネミーが召喚される瞬間は、何度体験しても緊張する。ましてやこのダンジョンは、バグの報告があった場所で、調査のために来ているのだ。緊張から、ハンドガンのグリップを握る手に力がこもる。
     いつの間にか、無意識のうちに息を詰めてしまっていたのに気づいて、ふうとゆっくりと息を吐き出す。意識して呼吸をすると、それだけでも高揚する気分が落ち着くから不思議だ。
     集中力を高めて、まっすぐに前を見据える。魔法陣があった場所へ睨むように視線を向けたところで、タイミングを見計らったかのように光りが弾けた。
     ――ケケケケ……
     ――ケタケタケタ。
     耳につくような、甲高く奇妙で不快な笑い声を上げながら、ゴブリンを模した小さく奇妙な姿をしたエネミーが数匹、消えた魔法陣の金色の光りの代わりに姿を現した。
     数匹いるとはいえ、召喚されたのは、ゴブリン。ゲームのエネミーとして設定されている中では序盤から登場する、比較的弱い部類に入るエネミーだ。これを見越していたわけではなかったが、結果として構えた武器がハンドガンでよかった。
     まずは一匹。素早く狙いを定めて、トリガーを引く。ドンッという発砲音とともに発射された銃弾はまっすぐに標的へ向かって飛んでゆき、召喚されたゴブリンのうちの一匹へ見事に的中した。
     ゴブリンにも互いに仲間意識はあるようで、工藤が放った銃弾がその一匹を貫くと、ゴブリンたちの間に一気に動揺が走る。
     ほんの一瞬、動揺が走った瞬間に動きが止まったところを狙って、服部がゴブリンの群れの中へと飛び込む。
     着地とともに抜刀する。
     その刃が、周囲のゴブリンたちを薙ぎ払い、見事に一掃した。
    「さすが、刀の扱いはお手の物だな」
     ぱちぱちぱちと工藤が拍手を送る。
     服部が日本刀を扱うその腕を工藤は認めているし、心から称賛してはいるのだが、なにせひとりきりの拍手はどうにも間が抜けた音がする。
    「これくらい、抜刀スキルを磨けば誰でもできるわ」
     素直にふんぞり返って喜ぶかと思いきや、意外とそうではないらしくて、複雑そうな表情を見せた服部がふいとそっぽを向く。そんな服部の反応が意外で、工藤はにやりと不敵な笑みを浮かべると、そっぽを向いてしまった服部を追いかけた。
    「なんだよ。珍しく俺が褒めてやってんだから、喜べよ」
    「珍しくって、工藤それ、自分で言って寂しくないんか?」
    「うるせえ」
    「ほーん、工藤くんは素直じゃないですなあ? そんな工藤くんが俺の腕が良いって認めてくれるなんて、嬉しいなあ」
     服部だけではなく、工藤もまた、同じように素直じゃない似た者同士。そういうところがある種で気があっているといえるのだろう。軽口をたたき合いながらも嬉しくてつい口角があがる。それは工藤も同じだった。

     一難去ってまた一難。
     奥へ進むとまた、ふたりの行く手を阻むように新たな魔法陣が現れる。
     とはいえ、難というにはあまり手応えはないものではあるが、数が多くなればそれだけ面倒ではある。近くに回避ルートがあるならまだしも、今回の魔法陣は一本道の真ん中に出現したため、魔法陣の脇を通って回避できそうにはなくて、さらに他の道を通ろうにもずっと一本道で、分岐があったのはずいぶんと前のこと。戻るよりも、魔法陣を解除して進んだほうが早いだろう。
     戦闘準備のために、ふたり揃って身構える。服部は刀、工藤はハンドガンで、構えた武器はふたりそろって先程と同じもの。
    「行くで」
    「ああ」
     ふたりともそれぞれが武器を構えたことを確認してから、服部が先陣を切る。金色の光りで魔法陣が描かれているエリアに踏み込むとまた、強い光に包まれる。
     光りが弾けるように霧散すると、その中心には、ひとつの宝箱が現れた。
    「なんや、宝箱か」
     抜刀の姿勢で構えていた服部が、出現した宝箱を前に構えを解く。
     先ほどまでの緊張感はどこへやら、軽い足取りですたすたとその宝箱に近づく服部の後ろで、工藤はまだハンドガンを構えたまま狙いを定めている。
    「ミミックかも知れねえ。気をつけろよ」
     工藤の指摘に、服部がピタリと足を止めた。ついでに伸ばしていた手も引っ込める。宝箱に擬態したエネミー、ミミック。その可能性をすっかり失念していたと、振り返った服部の表情が語っている。
     触れないという選択肢も取れなくはないが、体力に余裕があるのにその選択肢をとるなんてことをするはずがない。
    「ミミックだったら撃ち抜いてやるよ」
     宝箱を開けるためには、武器を格納しなければならない。武器を構えたまま開けることができれば便利なのだが、そんな仕様なのだから仕方がない。
     ハンドガンの照準を宝箱にしっかりと合わせて構える。そんな工藤の射線に入らないよう注意をしながら、服部が宝箱に触れる。
     緊張が走るとともに、構えるトリガーの指にぐっと力をこめる。
     宝箱を睨む工藤の視線の先で、服部の手が宝箱を開いた。
    「ホンマモンの宝箱みたいやな」
     警戒したものの、今回は本物の宝箱だった。ギイ、と蝶番の金属が軋む音がして、重そうな蓋が開く。中には、今となってはほとんど使い道のないナイフが入っていた。
    「ナイフ一本か。シケとんな」
     警戒していたからこその、肩透かし感がすごい。
     とはいえ、こうしていつも前線に立つ服部が初手の攻撃を食らうという危険にさらされていることを考えると、平和に終わって良かったのかもしれない。
     奥へ進むにつれて、現れる敵の集団も徐々に勢力を増してゆく。一撃で倒しきれないようになり、敵から反撃されるようになり、それらをうまく躱しながら攻撃する。迷路のように入り組んだダンジョンをマッピングしながら奥へ奥へと進んでゆくと、その先に、さらに下へと続く階段を発見した。
    「まだまだ奥があるっちゅうことか」
     階層になっているダンジョンはそれほど珍しいものではない。しかし、階層がひとつ変わるごとに敵の出現パターンや、攻撃パターンは違うし、攻撃力や防御力と行ったステータスは大幅に増強される。不安に思うなら、階段を見つけても先へ進まずそのまま引き返すというのも手だろう。
     しかし、ふたりにとってこのまま引き返してリタイアするなどという選択肢はない。
    「いくぞ」
     いつでも武器を構えることができるよう準備だけはして、警戒しながら一歩ずつ階段を降りる。降りた先にはこれまでに比べて一段と広い部屋が広がっていて、その中央には、ここまでのダンジョンには見なかった大きさの、モンスターと言うにふさわしい大きさのエネミーの姿があった。
     全身を毛で覆われたモンスターは、部屋の中心で体を丸めてぐうぐうと眠っている。
     一歩、部屋へ足を踏み入れるが、この部屋もまた、何の違和感も感じられない。どう見てもダンジョンのボスエリアに踏み込んだというのに、ここでも何も感じないということは、つまり、バグが起きなかったということ。
     またもや服部と一緒のときにバグに遭遇しなかったということになる。
    「あいつがこのダンジョンのボスっちゅうことか」
     刀を構える服部に、工藤もハッとする。まずは目の前に現れた大きなエネミーを倒すのが先決。考え事は後でもできる。先程よりもずいぶんと広い部屋と大きなエネミーに、持ってきたハンドガンの残弾を頭に浮かべる。残弾数はあまり余裕があるとは言えなくて心もとないが、それはあくまでも工藤がひとりでこの場所にいた場合のこと。いまは服部が一緒にいるので、そこまで心配はしていない。
     今回のようにあまり高レベルではないフィールドへ繰り出すとき、多勢に無勢の乱戦ならともかく、こうしてエネミーが一体だけのときは工藤の出る膜はほとんどない。服部の攻撃が入りやすいようエネミーの動きを制限したり、誘導するための補助行為が大半。しかしそれが割と重要な役割をしていて、経験上、最短の時間で攻略するにはそれが最も効率が良い。
     それこそいま目の前にいるボス程度なら、服部ひとりの力で十分に倒すことができる。それならば、相対的に攻撃力のステータスで劣る工藤がボスの注目を集めれば、服部は攻撃がしやすくなる。道中の宝箱で拾ったばかりのナイフがこんな場面で早速役に立つとは。見つけたときにハズレだななんて思って悪かったと心の中で謝罪をしながら、それを手にとって構える。
     まだすやすやとのんきに寝息を立てているボスモンスターの正面に立って、狙いを定める。ボスのエリアへ踏み込んだことを示すように、未だに寝ている巨体の頭の上にぐんと長く伸びた赤色の体力ゲージが表示される。赤色の体力ゲージは敵を示している。
     音も立てず投擲したナイフが、眠っているモンスターの眉間に見事に刺さった。
    「ああっ、工藤! せっかくぐーすかおねんねしてるところを叩いたろう思ったのに! なんで起こすんや!」
     睡眠を邪魔され、強制的に起こされたモンスターが怒りをあらわにする。狙われたのは、工藤の思惑とは違って、目を覚ましたときに目の前に立っていた服部。大きな体躯を起こしながら繰り出される大振りの攻撃を、後ろへ飛び退いてなんとか避けることができたものの、不意打ちでうっかりあの攻撃を食らってしまえば、いくら服部でも無傷ではいられない。むしろそころこのダメージを食らうのではないだろうか。
    「ちょっ、まてっ! なんで俺が狙われるんや!」
     狙われたことに驚いてぎゃあぎゃあと叫びながらも、持ち前の運動神経と反射神経で攻撃を交わして逃げ回る。
     もう一発、今度はハンドガンを構えて、トリガーを引く。
     今度はモンスターの死角部分から、側頭部を狙う。攻撃してダメージを与えるというよりは、狙いは今度こそボスモンスターの注意をひくこと。
     工藤の狙い通りにハンドガンの銃弾を受けたモンスターの興味は、目の前にいる服部よりも工藤へと向く。その隙を見逃さなかった服部が、視線から外れたことで死角になった場所から一気に距離を詰める。懐に潜り込むと、下からすくい上げるように服部が愛刀を大きく振り上げる。とどめとばかりに服部の攻撃がその巨体を真っ二つに切り裂くと、敵の体力ゲージが目減りして行き、ゼロになるのとともに、ボスが消滅するエフェクトとともにその巨体が跡形もなく消えた。
     やはり、今回も何も異常が認められなかった。
     念には念を入れて、他に隠し部屋がないものかと慎重に調べたけれど何かあるはずもなく、ごく普通のダンジョン内にあるボス用の部屋が広がっているのみ。しばらく観察したものの、これ以上は何もないだろうと判断して、ボス攻略後に現れる転送用ゲートを使って元いたベイカタウンへ戻った。
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    くじょ

    PROGRESS快新。MMORPGパロディ。
    過去に途中まで書いたものを大幅リメイク。
    ※元の作品とは所々で設定が異なります。
    ※登場人物の変更もあります。
    ※6月30日あわせで発行予定(予定は未定)
    ※※まだ快斗が出てきません(次から出る予定)
    MMORPGパロ。進捗④ 眠りについたときにはほぼ明け方になっていたということもあって、目を覚ますころには太陽がすっかり天高く昇りきっている。朝一番に服部に声をかけて行こうと思っていたのに、これでは朝一番どころか、すでに昼も目前という時間だ。
     明け方に眠ったとはいえふかふかのベッドで眠った体はすっかり体力も気力も満タンまで回復している。ステータス上では疲れは取れたものの、まだ眠気が残っていて体が重だるい。軽快に動かない体をずるずると引きずりながらキッチンへ向かい、冷蔵庫の中を覗く。中によく冷えたアイスコーヒーを見つけると、それを取り出してグラスに注いだ。
     なみなみと注いだ黒い液体の中に、今度は冷凍庫から取り出した氷をひとつずつ落として入れる。表面に浮かんだそれがゆっくりと溶けてゆくのを眺めながら、キンキンによく冷えたアイスコーヒーを喉を鳴らしながら飲み干した。グラスの中に液体がなくなったことで、カラン、と氷が涼し気な音を立てる。
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