Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    くじょ

    @kujoxyz

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ⛲ 🚿 🌋 🛁
    POIPOI 14

    くじょ

    ☆quiet follow

    快新。MMORPGパロディ。
    過去に途中まで書いたものを大幅リメイク。
    ※元の作品とは所々で設定が異なります。
    ※登場人物の変更もあります。
    ※6月30日あわせで発行予定(予定は未定)
    ※※まだ快斗が出てきません(次から出る予定)

    #快新
    fastNew

    MMORPGパロ。進捗④ 眠りについたときにはほぼ明け方になっていたということもあって、目を覚ますころには太陽がすっかり天高く昇りきっている。朝一番に服部に声をかけて行こうと思っていたのに、これでは朝一番どころか、すでに昼も目前という時間だ。
     明け方に眠ったとはいえふかふかのベッドで眠った体はすっかり体力も気力も満タンまで回復している。ステータス上では疲れは取れたものの、まだ眠気が残っていて体が重だるい。軽快に動かない体をずるずると引きずりながらキッチンへ向かい、冷蔵庫の中を覗く。中によく冷えたアイスコーヒーを見つけると、それを取り出してグラスに注いだ。
     なみなみと注いだ黒い液体の中に、今度は冷凍庫から取り出した氷をひとつずつ落として入れる。表面に浮かんだそれがゆっくりと溶けてゆくのを眺めながら、キンキンによく冷えたアイスコーヒーを喉を鳴らしながら飲み干した。グラスの中に液体がなくなったことで、カラン、と氷が涼し気な音を立てる。
     アイスコーヒーを飲み干して、他に何か食べ物はないものかと、もう一度冷蔵庫を覗き込む。しかし覗き込んだ冷蔵庫の中身は、アイスコーヒーのボトル以外にはなにもない。
    「メシ、何もないな……」
     料理は全くできなくても、完成した料理そのものがあれば食べることくらいはできる。ところが今日はそれすらない。空っぽの冷蔵庫の中を覗き込んで、ここしばらく食べるものの調達を忘れていたことを思い出した。つい先日、食堂でもあるポアロで食べた特性カラスミパスタがかなり久しぶりの食事だった気がする。
     新一自身のステータスを表示して、空腹ゲージを確認する。ゲージはまだ一割ほど減っただけで安全を示す緑色で表示されている。ステータスだけで見れば空腹ゲージの減りは比較的緩やかで、なにも毎日のように食事をしなければすぐに空腹になるだとか栄養が足りなくなるだとかそういった症状がダイレクトに現れることはない。空腹を示すゲージが満たされていないことによる弊害は、ダメージを受けたときに回復するための時間と、治癒用の道具を使ったときの回復量が減ると言った程度。加えて、多少なりとも俊敏性や機敏性、機動力が落ちるといった感覚はあるけれど、段階的に落ちるのではなく緩やかに減ってゆくのであまり違和感を感じたことはない。
     まだしばらくは、空腹について放っておいても平気だろう。確認したステータスの値を改めて頭に浮かべた新一は、何も入っていない冷蔵庫を満たすことよりも、昨晩見つけた廃教会の確認をすることを優先した。

    「呼び出したかて、いつでもそうすぐにホイホイ来ると思うなよ」
     アイスコーヒーを飲み干したあとにまずしたのは、服部へのコンタクト。いやコンタクトというよりも一方的な連絡と表現したほうが正しいか。親しいプレイヤー同士でフレンド登録をすることでクローズドな場で個人的にやり取りすることができるようになる。それを使って服部を今日の午後一時に呼び出した。
     日時も集合場所も一方的に告げただけで、たしかにその文面には彼の予定を尋ねることや同意を得るような文面は記載しなかった覚えがある。彼からの了承か否かの返事も確認していなかった。
     彼に言われてメッセージ欄を確認すると、通知を表すベルのマークの右上に赤丸に白抜きの数字が『1』と表示されていて、新着の連絡事項が一件あることを示している。開いてみると案の定、目の前に立つ彼からの返事で、了解と謎の生物が敬礼しているスタンプが送られてきていた。
    「でも、来たじゃねえか」
    「そら今日はたまたま暇やったからな。たまたまやで」
    「暇じゃない時があるのか?」
    「俺かて、工藤以外にもダチくらい居てるわ」
     服部の口から飛び出した予想外の言葉に、新一が目を丸くする。
    「え、居るのか?」
    「おう」
    「俺が声をかけたら絶対来るから、てっきりぼっちなのかと……」
    「失礼な奴やな」
     一度や二度のことなら、たまたま都合がついたのだろうと思っていた。ところが、なにせ服部は、新一の呼び出しに何度も応じている。むしろ一度も彼から断わられたことがない。それも先の日にちを指定して予定を開けてほしいと連絡しているのではなく、その日の朝に、それどころか連絡して一時間後に呼び出したことだってある。そんなときですら、服部は新一の呼び出しに応じた。
     だからこそ、彼はひとりで自由気ままにプレイしているのだろうと思いこんでいた。
    「ちゅーか、呼び出しといて自分の方が来るのが遅いってどういうこっちゃ」
    「まさかオメーが俺と出かけるのをそんなに楽しみにしているとは思わなかったんだよ」
     新一のほうが到着が遅かったと言うが、それでも待ち合わせに指定した一時には ギリギリ間に合っている。それよりも早い時間から服部が待っていたというだけのこと。
    「それで、今日はどこに行くんや……って聞きたいところなんやけど……」
     タイミングを見計らったかのように、ぐう、と服部の腹が鳴った。
     まだ昼食を食べていないという服部に付き合って、ポアロへ向かう。
    「よお、姉ちゃん! 今日のオススメ何か聞いてもええ?」
    「あら。服部くんに、工藤くん。いらっしゃい」
     店内に入って真っ先に出迎えてくれたのは、ポアロの看板娘である梓。
    「一番奥のカウンターなら空いているんだけど、良いかしら?」
     昼を過ぎたばかりの店内はまだ混み合っていて、お世辞にもすごく広いとは言えない店内はほとんどの席が客で埋まっている。案内されて店の奥へ進むと、彼女の言う通り一番奥から二席、カウンター席が空いていた。
     席に座るよりも早く、服部が二人分の日替わりランチを注文する。
    「それで、また気になる報告でもあったんか?」
     出された水を飲んで、それから本題に言及する。前回彼を呼び出したのは数日前。これまでよりも早いペースに、疑問を覚えるのは当然といえば当然のこと。
    「それが昨日……」
     とはいえ、説明しようにも昨日見た廃教会のフィールドをどう説明したらよいものか。あの場所が他のフィールドと明確に何が違うのか、なぜわざわざ服部を呼び出して向かいたいのかと問われると困る。それと同時に、新一からの前情報なしにあの光景を見たときの彼の反応を見たいとも思った。
    「昨日? 昨日もどっか行って、今日も行こうっちゅうんか。精力的やな」
    「あー、ああ。そうなんだけど……」
     ぎょっと驚いた顔を見せる服部に、やっぱり話すのは廃教会を見せてからにしようと言葉を濁す。どう言い含めて現地まで連れて行こうか、フル回転で頭を働かせていると、カウンターの前に人が立つ気配がした。
     気配に気づいて顔を上げるとそこには梓が立っていて、両手に持った皿を新一と服部のそれぞれの前に置く。
    「はいどうぞ。今日の日替わりランチは、昔ながらの定番オムライスのセットよ」
     ふっくらと滑らかな弧を描いたオムライスは、つやつやと美味しそうな色をしている。オムライスが乗った皿の隣にはサラダとスープが次々と置かれた。
    「食後はコーヒーで良いかしら?」
    「俺、アイスコーヒーが良いです」
    「俺も」
    「アイスコーヒーね、かしこまりました」
     ふふ、と梓が笑う。にこにことみるからに上機嫌そうな彼女に、何か笑うようなことがあったのかと尋ねると、さらに笑みを深くした。
    「工藤くんの空腹ゲージ、赤色まで減る前にご飯を食べに来てくれたから、えらいなあって思ったのよ」
     長いこと新一がこのポアロを訪れていない期間は心配しているのだと言う梓の気持ちは、さしずめ不摂生を繰り返す弟を見ているようだという。心配だから定期的に顔を見せてねと念を押したところで、他の客に呼ばれた彼女は新一たちの前から去っていった。
    「ほんで、その昨日行ったっちゅうフィールドに何かあったんか?」
     食事が運ばれてきて一度は中断した話題を再び戻される。
     あの廃教会で何があったのか。話をしようとして言葉に詰まる。
    「あー、いや、直接見たほうが良い……かも」
     曖昧な答えしか返さない新一に、服部もまた、ふうんとだけ返す。詳しく話せと言ってそれ以上のことを聞いてこない服部の反応に、新一は意外そうに目をしばたかせた。
    「ん、なんや?」
    「いや、詳しく聞かねえの?」
    「聞いて欲しいんか? だったらそう――」
    「あー、いや。見てもらったほうが良いと、思う」
    「そんならそれ食って、はよう行くで」
     そうしている間も、オムライスをすくう服部の手は止まらない。ひとりでさっさと自分の分のランチを平らげると、梓を呼んで食後にと頼んでいたアイスコーヒーを注文した。

     転送ゲートの前に立って手をかざす。
     例の廃教会のフィールドに繋がるキーワードがリストに登録されていることは、昨日の時点で確認を済ませてある。改めて確認しても、登録したキーワードがリストの中に存在する。ほっと安心したような、昨日のことはやはり夢でも幻でもなかったことを再認識させられたような、複雑な気持ちが支配する。
    「昨日、俺が行ったフィールドに素直に着けば、そんなに危険はないはず。でも、おめーと一緒に行っても同じ場所に繋がるのか、同じ場所でも俺ひとりの時と条件まで一緒なのかもわからねえから……油断するなよ」
    「ほお。誰に向かってモノ言うとんねん」
     念のためを思って服部に注意を促すが、そんな新一の親切心など意にも介さないとばかりに、はっ、と鼻で笑われる。そこまで言うほど自身があるというのなら、彼の心配は不要ということだろう。
     頼もしい返事に新一も決意を固める。
     転送ゲートに向き直ると、リストの中から選択したキーワードをかざす。服部とふたりで一緒に飛ぶことを選択すると、あっという間にふたり揃って光りに包まれた。
     転送時の負荷はない。
     一瞬にして光りに包まれていた視界が色を取り戻す。両足でしっかりと地面を捉えて降り立つと、そこは広大な荒野が広がっていた。
    「これが、工藤の言っとったっちゅうフィールドか?」
     木のひとつ、岩のひとつすらない、見渡す限りあまりにも何もない荒野。何もなさすぎて地平線まで見渡すことができる中心に、新一と服部のふたりは降り立ったらしい。振り返れば、唯一の建造物――どころか、凹凸物とも言える転送ゲートが、相変わらず光を放ちながらくるくるとマイペースに回っている。
     目の前に広がる見たこともない光景に、思わず後ろを振り返り、転送ゲートが消えていないことにほっと胸をなでおろしたのは、新一。
    「いや、ここじゃねえ」
    「そうやろうな」
     新一の様子を反応を見て、服部は肩をすくめた。
     見たところ、ただただだだっ広いだけの荒野が広がっている特異なフィールドとはいえ、新一があえて服部を呼び出してまで出向くような場所とは思えなかった。
    「なあ、工藤。おまえ最近おかしいで」
     遠くに見える太陽が、徐々に高度を落としてゆく。よいしょ、と服部がその場に腰を下ろして、隣に立つ新一を見上げる。服部が座ったことには気付いたものの、新一はその場で立ったまま、服部を振り返ることもせずにただひたすらに太陽を見つめていた。
     新一が積極的に服部をフィールドへ誘うようになってからというもの、どうにも新一の口から出る言葉と、いままさに服部自身の目に映っている状況というものが合致しないことが増えた。最初こそは単純に気のせいだとか、見間違いだとか、見落としかとも思ったが、その頻度があまりにも高い。
     自称『工藤の一番の親友』を自負する服部としては、この異変は黙って見逃すわけにはいかない。
    「あー、やっぱりそう見えるよなあ」
     服部に指摘されては、さすがの新一も認めざるを得ない。一応ごまかそうと思えばやってできなくはないだろうが、彼に対してそれをしたくないと思ってしまった。その瞳は太陽に向けられたまま、どこか遠くをぼうっと見つめている。
     ふたりの間に沈黙が落ちる。
     しばらく黙っていたあとで、ようやく新一が重い口を開いた。
    「他言無用で頼みたいんだが……」
    「なんや、脅されとるんか?」
     新一が声を潜めて、重々しく口を開く。ただならぬ彼の雰囲気に、服部にも緊張が走り身構える。他言無用だと言うのは、新一が望んだことなのか、それともどこかしらに脅されているとでも言うのか。後者だとしたら服部自身も覚悟を決めて聞く必要がある。
     しかしそんな服部の予想に反して、「事件か?」と問う彼の言葉に対しては、新一は首を横に振って否定した。
    「いや、そういうわけじゃねえんだけど……」
     珍しく口ごもる新一の煮えきらない態度に、服部が首を傾げる。そんな彼を横目に見て、また太陽へ視線を戻してから新一は続ける。
    「正直、何が起きているのかはわからない。ただむやみに他人に話を広げるのはしたくないんだ」
     だから内緒にしていてほしい。服部なら、新一の要請に応えてくれるだろう。それにこれから新一が彼に見せようとしているものは、中々にショッキングなものだと思う。そう思うものの、説明するよりも実際に見てもらったほうが早い。
    「絶対にこっちに来るなよ」
     そう念を押して、懐にとりつけたのホルスターからハンドガンを引き抜く。ずっと使用している武器ということもあり扱いには慣れたもので、流れるように手早くロックを解除すると、右手で握ったまま銃口を自身のこめかみに向ける。その手に一切の震えはなくて、怯えからの迷いも感じられない。
    「工藤、何を――」
     懐からハンドガンを取り出したときは、何をするのかまったく理解ができていなかった。ロックを解除して、トリガーに人差し指をかけたところで、新一が誰かを撃つ気なのだろうと気付いた。誰を撃つつもりなのか。そんなものは推理するまでもない。
     いまこの場所には、新一本人と、それから服部のふたりしかいないのだから。
     新一はPK(プレイヤーキラー)だったのか。一度も予想したことがなかったその可能性に気を取られていて、ほんの一瞬、反応が遅れた。
     その隙に、新一が手にしたハンドガンは、その銃口を彼自身のこめかみへと向けられる。新一のその行動で、彼がPKではないと誤解は解けたのだが、いまはそんなことは問題ではない。
     気づいて止めようと手を伸ばすが、平次が静止するよりもトリガーにかけられた新一の指に力がこもるほうが早い。
    「来るな! 絶対に、来るんじゃねえ」
     叫んだのと同時に、パンッ、と乾いた音が響いた。
     ぐらり。自身の頭をハンドガンで撃ち抜いた新一の体が傾く。
    「工藤!」
     目の前で友人が頭を撃ち抜いたというのは、中々にショックな絵面だ。倒れる新一を地面に倒れ込む前になんとか支えて、そっと寝かせる。寝かせてやるのが柔らかいベッドの上じゃなくて硬い地面の上なのが残念なのだが、そのまま突っ伏すよりははるかにマシのはず。
     インベントリ内に回復用のアイテムは何があっただろうか。手持ちの道具の中から、回復用のアイテムをひとつ取り出す。あくまでもダメージを受けた傷を癒やすためのアイテムで、自身で頭を撃ち抜いた新一に効果があるとは限らない。しかし何も試さないではいられるはずがない。
     使用しようとして、しかしその直前に腕を掴まれた。
    「え?」
    「ぐ……っ、やめ……っ」
     痛いほど強く腕を掴まれた服部が、ほんの一瞬だけその痛みに顔を歪ませて、それからすぐに掴まれた腕の先を見て、予想外のまさかの展開に驚きに目を見開いた。
    「工藤……?」
     倒れたときは真っ青な顔色をしていたというのに、血色が良いとまではまだ言えないものの、血の気がなかった彼の顔に血色が戻りつつある。
     自動回復のスキルだろうか。いやしかし新一がそんなスキルを持っているだなんて彼の口からは一度も聞いたことがない。それに自動回復のスキルはちょっとしたダメージの回復を担うもので、今回の彼が受けた――というか自分で自身に負わせた瀕死レベルのダメージを回復できるほどの力は持っていないはず。
     というか、ハンドガンでこめかみから自身の頭を撃ち抜いたのだ。服部の早とちりでもなければ、あれはどう見ても瀕死ですらなかったはず。
    「ん……、大丈夫、だ」
     こめかみまでゼロ距離でハンドガンを放った衝撃はさすがに大きい。自傷趣味はないのでハンドガンで頭を撃ったのは初めてのことだし、あそこまで衝撃が強いとは、完全に油断した。挙げ句、一瞬とはいえ意識まで失うとは。完全な失態だ。
     意識が戻ってすぐに動けるほど体が言うことを聞かなかったのも誤算のひとつ。
     ようやく動けるようになって、うんと両手を大きく伸ばす。体の感触を確かめてみるが、つい数分前に頭を撃ち抜いて気を失ったとは思えないほど、違和感なくすっかり回復を遂げている。
     そんな新一の様子を、服部はただ目を丸くして、ぽかんと間抜けに口を開いたまま見つめていた。
    「まっ。ちょお、まて。え、な……ええ……」
     ようやく口を開いたかと思えば、動揺でまともに言葉になっていない。それほどの衝撃だったという何よりもの証拠なのだが、それはそうだろう。なにせ親友が目の前で頭を撃ち抜いたと思ったら、何事もなかったかのようにこうして話をしているのだから。
    「信じられねえよな」
     ハンドガンの基礎ダメージは、一から十までの十段階評価のうち九程度。それだけでも十分すぎる威力を持っているのだが、新一が使用しているものは、武器商人である沖矢が彼のために最大限の能力を引き出せるようステータスを調整したスペシャルな一点モノ。そのため、基礎ダメージの評価などあてにならない。
     ダンジョンのボスをはじめとしたエネミーなどはそれでも一撃で倒すことなどとうていできないが、防具で固めているならともかく、新一のように生身の状態のプレイヤーなら一撃で瀕死までダメージを食らうのに十分すぎるほどの威力があるのだ。
    「攻撃されれば痛いことに変わりはないが、ダメージは受けないし、体力ゲージは減らないんだ」
     ほら、と見せられた体力ゲージは、彼が言う通りに緑色で表示されていて、そのゲージは満タンの状態から一ミリたりとも減っていない。ハンドガンで頭を撃ち抜いて倒れた瞬間にそこを確認していなかったので、ダメージを一切受けないという彼の主張がその通りなのかの判別は、残念ながらつけられない。
     しかし新一が言うのだからと、それだけで服部の中では信用する方向で彼からの報告を飲み込んだ。
    「気付いたのは、バグフィールドのボスにやられたときだな。胴の真ん中、腰のあたりで真っ二つに切られたってのに、何もダメージがなかったんだ」
     右手で手刀を作って、トントンと腰のあたりへ手をあてる。スッと横に引いて切られたモーションを再現して見せると、服部が苦々しく顔を歪めた。
     そんな服部に気づいて、その上で声をワントーンあげて明るく振る舞う。
    「最近、バグやノイズに遭遇することが増えたなあとは思っていたんだ」
     まさか、新一自身が不死の体になるとは思っていなかったが。
     肩を竦めて、おどけるようにあっけらかんと言い放つ。
     加えて、どうやら高確率でバグに遭遇するという新一とは真逆で、服部は絶対にバグに遭遇しないらしいというこれまでの見解も添える。
     言葉だけで理解できたのか否か、ふむふむと服部が腕を組んだまましきりに相槌を打ってうなづく。しばらくそうしてから、何かを思いついたかのようにポンと手を叩く。興味津々に目を輝かせて尋ねたのは、新一が見てきたという服部の目には見えないフィールドについてだった。
    「工藤が俺を連れて行こうとしたのは、どんなフィールドやったんや?」
    「それは、いつのことを言ってるんだ?」
     いつのこと――その言葉は、予定と違うフィールドに飛ばされるという現象が起きたのが今日に始まったことではないと示している。
     思い返せば、服部が新一に誘われて出向いたフィールドは数知れず。服部にとってはあまりにも普段と同じフィールドすぎて印象から薄れているが、そのすべてにおいて、新一はあとでもう一度同じフィールドへ飛んだときには、必ずバグに遭遇してきた。
    「あー、それならとりあえず今日。工藤が飛ぶ予定やったフィールドについて聞かせてくれんか」
     幸い、他にこのフィールドに来るプレイヤーの気配は感じられない。服部のリクエストに応えて、昨日行ったばかりでまだ記憶に新しい廃教会のフィールドの様子と、そこで遭遇した不思議な現象について話をした。
     話を終えると、はあ、と感嘆のため息が漏れる。もっと大きなリアクションがあるのかもとぼんやりと考えていたものだから、ずいぶんとあっさりとしたリアクションに拍子抜けした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    くじょ

    PROGRESS快新。MMORPGパロディ。
    過去に途中まで書いたものを大幅リメイク。
    ※元の作品とは所々で設定が異なります。
    ※登場人物の変更もあります。
    ※6月30日あわせで発行予定(予定は未定)
    ※※まだ快斗が出てきません(次から出る予定)
    MMORPGパロ。進捗④ 眠りについたときにはほぼ明け方になっていたということもあって、目を覚ますころには太陽がすっかり天高く昇りきっている。朝一番に服部に声をかけて行こうと思っていたのに、これでは朝一番どころか、すでに昼も目前という時間だ。
     明け方に眠ったとはいえふかふかのベッドで眠った体はすっかり体力も気力も満タンまで回復している。ステータス上では疲れは取れたものの、まだ眠気が残っていて体が重だるい。軽快に動かない体をずるずると引きずりながらキッチンへ向かい、冷蔵庫の中を覗く。中によく冷えたアイスコーヒーを見つけると、それを取り出してグラスに注いだ。
     なみなみと注いだ黒い液体の中に、今度は冷凍庫から取り出した氷をひとつずつ落として入れる。表面に浮かんだそれがゆっくりと溶けてゆくのを眺めながら、キンキンによく冷えたアイスコーヒーを喉を鳴らしながら飲み干した。グラスの中に液体がなくなったことで、カラン、と氷が涼し気な音を立てる。
    8466

    related works