たくさんのおまえ:司レオ ふと霊感が湧いた時。どうぞ、とコピー用紙を差し出された。自前のせっかちから思考の袋小路に陥った時。噛んで含めるように丁寧な説明がなされた。作曲に夢中になって周りが見えなくなった時。『霊感』の収束を待って叱責を受けた。
同じESビルで活動する、アイドルであったり、プロデューサー、はたまた社員であったり――顔を覚えていたりいなかったりする、たくさんの人たちとの、そんな触れ合いの中で。
折々、ふわりと香るように、思考の端を過ぎる姿があった。
鮮やかな赤い髪の青年。我らが王さま。
(ああ、スオ〜みたいだ)
♪
「ふふ、月ぴ〜ってば、最近そればっか」
膝の上の黒いかたまりが動いて、揶揄うような響きでもって言葉を紡いだ。
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