with my…… : 司レオ【Knightsのスタジオ・ソロ曲の歌詞を各々作詞しながら】
スタジオの炬燵の上には、それぞれの歌詞の草案が何枚も重なっていて、普段のレオをとやかく言えないような状態だ。互いに持ち寄ったソロ楽曲用の歌詞を確認し、かつ意見を交換する……つまるところ、それぞれが考えてきた歌詞の読み合わせをすることが、本日のユニットとしての活動内容だった。
「かさくんさあ……」
泉の手元――B罫のルーズリーフには、整った文字が整然と並んでいる。
それは、司自身が作詞した、彼のソロ曲となる楽曲の歌詞だった。
「はい、瀬名先輩、何か問題がありましたか?」
「問題、っていうか……」
自覚がないだけなのか、はたまた泉自身の考えすぎなのか。きょとりとした丸い瞳に、どう伝えようか考えあぐねていると、目の端から勢いよくオレンジ色が飛び込んできた。
「どうしたどうした、歯切れ悪いなセナ! スオ〜って作詞初めてなんだろ? おれはけっこういい感じだと思うけどっ?」
歌詞を読んでは『霊感』を刺激され、しばらく作曲をしてはまた歌詞を読み……という忙しない往還を繰り返しているレオは、どうやら今は読む方に徹しているらしい。「よちよちよくできましたね〜」なんて絡んでは、「子ども扱いはやめて下さいと言っているでしょう!」と怒られる。目の前で繰り広げられる、そんな普段のやり取りを横目で眺めながら。
「……いや、別に良いんだけどさぁ、あんたらがそんな感じなら」
♪
【レコーディング現場・泉の収録直後】
朱桜司は立ち尽くしていた。
収録を終え、スタジオを一歩出た泉は、廊下のど真ん中でそんな光景に遭遇した。
どこかぼんやりとした様子でぽつんと立っている後輩は、普段は背筋を伸ばしてきびきびと動いているためか、別人のようにすら見える。
あっ。
そんな小さな声を上げて、ようやく司はこちらに気付いたようだった。
「お疲れさまでした、瀬名先輩」
「なに? 随分と殊勝じゃん」
どこか取り繕うような雰囲気を感じつつも、そんな態度を取られれば少しばかり気分が良い。
「そう言えば、そっちは普段よりちょっと時間かかってたんじゃない? まあ、ソロ初めてだし仕方ないけど、何かあったの?」
純粋に、気がかりなことがあるのならばアドバイスでも、と思っての問いかけだった。しかし、ぎくりと音が聞こえるようなぎこちなさで硬直する姿を見て、泉は意識的に鋭く目を細めた。
「……かさくん?」
詰問モード、とでも言うべき彼の変貌に、司の肩は反射的に跳ねる。
「あっ、いえ、えーーーと、その」
話しますちゃんと話しますから、と頬に伸ばされた指を避けながら彼が言うことには。
「作ったときは必死で、考えてもみなかったんですが、その、なんだか、ちゃんと歌うと、Leaderに向けた歌詞になってしまっている、ように、思えて……」
鮮やかな髪にも負けない真っ赤な頬を見て、泉は呆然と呟くしかなかった。
「えっ、今? 今なの」
♪
【ライブ会場: リハーサル直後】
月永レオは立ち尽くしていた。
作曲をすることもなく、『霊感』を求めて徘徊することもなく。
それだけでもなかなかの異常事態だというのに、ステージを見上げて一人ぽつんと立つ彼の頬は、すでにライブの熱狂の中にいるような鮮やかな色をまとっている。
「どうしたの『王さま』、体調悪いならスタッフに……」
「あっいや! 違うちがう! 違うんだセナ!」
レオはバッと両腕を勢いよく突き出したかと思うと、赤い顔のままじたばたと腕を振った。
「違うんだけど! 違うんだけど……!」
そのまま覚束ない言葉を続けることには。
「その、なんか……ライブに向けてしごいてる時はぜんぜん気にならなかったんだけど」
瞬間、泉の頭に、しばらく前に見た後輩の姿が鮮明に思い起こされた。
「リハでちゃんとスオ〜の歌聞いたら、なんか、なんか……おれに向けた歌みたいな気がして……?」
「もーーーっ、だから言ったじゃぁん‼」
【終】
自信満々にレオくんに跪きながらWMH歌う司くんを見てみたい気持ちもあります。