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    HayateFuunn

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    千夜一夜のときにシリウスがヴィクの父、オズワルドの親友ifで勢いでかきかけてるのが出てきた

    オズおじがヤバいひと

    己を見て少し怯えたような、警戒しているような顔をしていたことを思い返しながら、シリウスはロストガーデンへの帰路をゆっくりと歩いていた。
    「……ヴァレンタイン、ね。愛を宛がうなんて、皮肉なことを」
    見上げた夜空に月はない。確か今日は新月だった。
    「いつか、太陽さえ侵食してみせよう」
    シリウスの独り言を聞く者は誰もおらず、その姿も夜闇に溶けた。



    1月9日。
    青年は、産婦人科の待合室で両手を合わせ、必死に祈っていた。
    前日の夕方から分娩室に消えた愛するひとと、これから生まれてくる天使の無事を祈り続けた。
    日付を超えて一時間。窓の外では淡い白がちらつきだす。
    そして同時に聞こえた少し小さな産声に、青年ははっと顔を上げた。
    やがて開いた分娩室の扉から出てきた医師に飛びつく勢いで立ち上がる。
    「おめでとうございます、無事に生まれましたよ。男の子です」
    その言葉に、青年は膝をついて涙を流した。
    この年最初の雪と共に夫婦の元に舞い降りた天使は、ヴィクターと名付けられた。
    妻の、母の腕の中で眠る小さな我が子を、青年は心から愛した。
    淡い星屑色の髪は妻と同じ、翡翠の瞳は青年と同じで、雪のように肌の白い愛らしい子。
    「この子はどんな風に育つだろう、何を好きになるだろう? 君と同じように音楽を愛するだろうか、僕と同じように科学を愛するだろうか? どちらでもいい、どちらでもなくてもいいな。この子が夢中になれるものがあって、楽しんでくれたらそれでいい」
    「ふふ、まだ生まれたばかりなのに、気が早いですよ。でも、そうですね。辛いことも悲しいこともあるでしょうけど、困難も乗り越えて最後にこの子が勝利を掴むの。ねえ、ヴィクター?」
    眠っていたはずの赤ん坊が、母の呼びかけに応えるようにふと目を開けた。
    大きくて落ちてしまいそうだと、青年はいつも咄嗟に両手を差し出してしまう。
    その青年の指を、小さなぷくぷくとした手が触れて、天使がふにゃりと笑う。
    「……! 見た、見たかい、今の? 僕に笑ってくれたよね」
    「ふふ、ええ、見ていましたよ。ヴィクター、このひとが貴方のお父さんですよ」
    日の光が差し込む病室で、星屑の髪は光を透かして流れ、宝石の瞳はきらきらと輝く。
    幸せの絶頂だ。青年は心の底からそう思っていた。



    「……?」
    ヴィクターはチームの部屋で目が覚めた。
    確か、久しぶりに穏やかにポップコーンパーティをして過ごして、帰りにキースと少し語らって、そのまま眠ったのだった。
    久々に、しっかりと眠れたような気はする。夢を見て、目覚めてしまったが。
    起き上がり時計を確認すれば明け方の五時を少し回ったところで、ノヴァのラボで眠ってしまったマリオンはいなかった。
    淡く光を放つサブスタンスのコレクションたちが間接照明のように、ヴィクターを緩く照らす。
    夢を見ていた。
    あまりにも眩しくて、柔らかな夢だ。
    夢というよりは、引き出しの奥底に埋もれていた記憶だろうか。
    生まれたばかりの自分と、抱き上げる母、微笑む父。
    きっと、一般的に幸せと称される穏やかな時間。
    両親はどちらも、物心つく前に亡くなった。ほぼ覚えていないから、祖母にそう聞いている。
    両親の素顔は、記憶の中でも曖昧だった。それは仕方のないことだと思いはするのだが、けれどどこか、心の奥にそれだけではない何かが引っかかる。
    思い出そうとしてみても、もう夢の内容すら忘れかけてしまっている。
    オズワルドの夢を見たときはその言葉のひとつひとつを今も思い出せるというのに、それほどまでに両親への思い入れが薄いのだと、分かってはいたが改めて思い知る。
    我ながら薄情だと少し乾いた笑みがこぼれる。曲がりなりにも両親で、夢で見る限り二人は赤ん坊を愛していたように思う。
    もし、彼らがまだ存命だったら。少なくとも、もう少し長く生きていたら。また何か違ったのだろうか。
    それは、オズワルドに対しても言えることだが。
    たらればをいくら考えても仕方がないし、目が覚めてしまったので起き上がりリビングへ出る。
    部屋は暗く、ルーキー二人もまだ寝ている。今日もパトロールがあったが、ヴィクターがパトロールに復帰するのは週明けからと決まった。
    今日も街を守る三人のために朝食でも作っておいてやろうと思い立ちキッチンへ立つ。
    不定期の食事会も、必要ないと思っていたのに案外悪くはなかったから。



    「可愛いだろう、僕の子どもだよ」
    「君がそこまで子煩悩な男だとは思わなかったな」
    青年は所属している研究所で、親友でありライバルである男に、今日も今日とて我が子自慢を繰り広げていた。
    スマートフォンの待受は妻と子どものツーショット、アルバムはほんの少しの差異しかない赤ん坊の連写の山。
    連日見せつけられる写真に、男は肩をすくめて話を聞いてやるのだ。
    「君のところももうすぐだろう? 君も子どもが生まれれば分かるよ」
    「そうかもしれないね。その時は、私の話も聞いてくれよ」
    「もちろん。子どもたち、仲良しになってくれるといいなあ。そっちは名前は決めているのかい?」
    「さて……あれこれ一緒に考えてはいるんだが、どれもなかなかしっくりこないんだよ。まあ、楽しみにしていてくれ。……あ、反応が変わったな」
    男の呟きで、青年ははっとして子煩悩の父から科学に準ずる研究員の顔へと戻る。
    「以前の実験と違うな……やはりこの個体は特定の物質にのみ変化を与えるのだろうか、それとも、まだ何か条件が……」
    彼らの目の前には、形を変えた金属と淡く発光する鉱物に似た形のサブスタンスがあった。



    「……ッ、――ヴィ……!」
    愛しい妻と、我が子の名を呼ぼうとするも、潰された喉はまともな声を発しない。
    大切な星屑がどす黒い赤に染められていく。今すぐ流れる赤を止めなければと焦るのに、指先ひとつまともに動かせない。
    泣いている声が聞こえる。僕たちの天使、あの子が泣いている。
    せめて、あの子だけでも守らなくては。
    「……し、て……、どう、して……っ!」
    目の前に立つ、我が子を抱いて佇む男を、地に伏した青年は憎悪の籠った碧い眼で睨む。
    額から流れる血と混じり赤く染まっていく瞳を、男は冷めた目で見下ろした。
    「ヴィ……ター……、かえ、せ……!」
    大切な我が子が、ヴィクターが泣いている。ああ泣かないで、抱きしめて、大丈夫だよと言ってあげたい。
    なのにどうして、この手は動かない。体は鉛のように重く、彼女ももうぴくりとも動かない。
    どうして、どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして――
    「赤ん坊を、殺しはしないさ。きちんと『両親』を宛がい、時が来れば私が引き取り我が子と共に研究部の未来を担う双翼となるよう教育を施そう。安心しなさい」
    男の言葉に、青年の中で何かが切れた。
    違う、そんな言葉を聞きたいのではない。望んでいたのはただ、愛する家族と、お前と、お前の子どもと共に、生きること。ただそれだけだったのに。
    「――オズワルドッ!」
    オズワルドはもはや青年に目もくれず、赤ん坊を抱いたまま踵を返す。
    「――……、――!」
    青年の恨みのこもった声にならない断末魔だけがその場に残された。
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