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    ハロウィンキスヴィク(文字Ver)

    死神。
    文字通り死を司る神。
    寿命を迎える者を安全に冥府へ送り届ける役目を持ち、抗う場合は手に持つ大鎌で命を刈り取ることもある。
    人間も動物も、草木さえ、生けるすべてのものには寿命があり、皆最期はこの神に相見える。
    ――イレギュラーを除いて。



    「はぁ……こう毎日毎日死人が出ちゃ、死神が何柱いても足りねえよ」
    暗い森の奥、木々を軽々と飛び越えながらめくれそうになるフードをおさえ、男は深くため息をつく。
    『世界には人間だけでも約70億人いる。毎日誕生と死を繰り返している現状は正しい在り方だ』
    「うるせえなあ、正論はいらねえんだよ今」
    近くをパタパタと飛ぶ蝙蝠の言葉に悪態をつき、太い枝に飛び乗ったところで男は一度立ち止まる。
    「で、その人手不足……いや、神手不足? の最中に管轄外の『怪物』を刈れとか……」
    『その存在が確認されたのは五年前だ。とある人間の科学者が、人の死の超越に躍起になった。その実験の末造りだされたのが件の『怪物』だ。複数の死体の皮膚や臓器を用いたもので、死者への冒涜とも取れる』
    「ふぅん……。刈るべきはその人間のほうじゃねえの」
    『もちろん既に他の死神が刈っている。しかし造られた怪物には歯が立たなくてな。五年の間に何柱もの死神が挑み敗れている』
    「あ? 死神が減ってるのそいつのせいかよ、道理で一日辺りの狩りが増えてるはずだ。あげく今度は俺がその怪物に挑めってか」
    『まあ、そういうことだ。死を司る者として死から蘇ったものは看過できない、というのが上層部の総意だ』
    「面倒くせえ……」
    何度目か分からないため息をつき、男――死神は再び足場を蹴って進みだす。
    月明かりも届かない深い森の奥の奥。
    不意に視界が開け巨大な古びた洋館が現れた。
    手前で地面に降り立ち、死神は鎌を担いでゆっくりと扉へ近づく。
    「いかにも怪物が棲んでますって様相だな。ブラッド、戻ったら酒用意しとけよ」
    『……まあいいだろう。検討を祈る、キース』
    それきり、蝙蝠は何も話さなくなった。
    指先に止まらせてふぅと息を吹きかけると、蝙蝠だったものは腰に下げているランタンの中に取り込まれていく。
    「さァて、鬼が出るか蛇が出るか、ってな」
    古くかび臭い鉄でできた重い扉を、ゆっくりと押し開けた。




    「ようこそ、彼の博士と私のラボへ」
    「は……?」
    扉を開けて最初に広がるエントランス。そのど真ん中で蝋燭を手にした男に恭しく礼をされ、キースは怪訝そうに眉を寄せる。
    蝋燭の灯りだけでは容姿を全て確認することはできないが、死神の目は暗闇でもある程度は見通せる。
    肌の白い男だった。額から頬にかけて、首筋や胸元など、目に見える素肌の部分は縫い合わせたような歪な傷があり、よく見るとうっすらとそれぞれ皮膚の色が異なる。
    長く白い髪は高い位置で一つにまとめ左から前に流している。
    蒼い目はキースを見て微笑み、モノクルにつけられたチェーンが揺れた。
    着ている服も、シャツやパンツは比較的綺麗だが羽織っている白衣は一部が汚れ、こちらもまた継ぎ接ぎがなされている。
    そして何より、生者にはかならずあり死神であれば容易に確認ができる命の核――人間の心臓にあたる臓器が見当たらない。
    確かに目の前にいるモノは、死を凌駕した怪物らしい。
    「お前が件の『怪物』か」
    「件の……というのが何を指しているのかは知りませんが……。怪物という呼称は、あまり好きではありません」
    「知るか。これから刈る奴の名前なんざ、いちいち覚えてられるかよ」
    怪物はキースを見ながらくすくすと笑う。
    その余裕が、キースを僅かに苛立たせた。
    「おっと」
    無言で薙いだ鎌を怪物は飛び退って交わし、またも楽しそうに笑う。
    「ふふ、ああ。貴方は死神ですね。たまに死神が遊びに来てくださるようになって」
    「遊びじゃねえ」
    舌打ち交じりに再び鎌を振り下ろすが、やはり怪物はくすくすと笑いながら避けていく。
    「面倒くせえな、大人しく刈られろよ」
    「別に構いませんが、貴方が途方に暮れるだけだと思いますよ?」
    試してみましょうか、と呟いて、怪物は自ら切っ先に傷の目立つ白い首を差し出した。
    鎌はそのまま縫い目をぶちぶちと切り裂いて、一閃すると同時に首が飛ぶ。
    怪物が手にしていた蝋燭は滑り落ち、窓からわずかに入る月明かりだけが二人を淡く照らす。
    「っ、げ」
    少し遠くに首は転がったが頭のない状態でも体は平然と動き、首の元へ歩いていく。
    そのままキースが見ている目の前で、首を拾い上げた体は胸に下げている試験管のひとつの中身を首と胴体それぞれの接合部に垂らして重ね合わせた。
    「ほら、このように」
    「……厄介だな」
    通常人間も動物も、首を刎ねれば死ぬ。というか、大鎌で切り付けられて死なない生物のほうがありえないのだ。
    「五年ほど前から、貴方のお仲間が何度か同じよう襲ってしてきましたが、皆こうなのです。首を刎ねるのは勿論、館ごと火で炙られたり、人間でいう心臓を貫かれたり、……まあ他にも色々とされましたが、どれも私という存在を殺す決定打にはなりませんでした」
    「そいつらはどうした」
    「丁重にお帰りいただきましたよ? 中には捨て台詞めいたものを吐いて行く方もいましたが、何と言っていたかは忘れました」
    「は? 死神の数が減ってるのは、お前に負けて殺されたからじゃ……」
    「? 死神も死ぬのですか? あ」
    きょとんと首を傾げた拍子に先ほど接合した部分がずれ、怪物は手で押さえて元に戻す。
    「ふむ。接着剤は一時しのぎでしかありませんから、やはりきちんと縫いましょうか」
    「おい、ヒトの話を……」
    「ああはい、聞いていますよ。死神の数が減っているのですよね。その件に関しては私は何も知りませんから、そういった理由で何度も襲われているということであれば多少不服ですが」
    「それもまああるけど、お前自体見過ごすわけにもいかねえんだよ。死してなお生きるなんざ世界の理に反する。だからお前はどっちにしろ刈りの対象だよ」
    「はあ。そう言われましても、私もせっかく生まれ落ちた身としては狙われたくないのですが……研究も滞ってしまいますし」
    「研究?」
    はい、と続けた怪物は、初めて恍惚な笑みを見せる。
    それは人間を魅了するサキュバスに通じるものを感じさせた。
    「私を生み出した科学者……貴方がたに刈られた博士の研究。それを私は引き継いでいます。私を生んだ理由を、彼はそのためだと論じていましたから」
    「……お前、生前のことは覚えているのか」
    「ん……そうですね。これ以上ここでだらだらと立ち話をするのも何ですし、応接間にでも行きましょうか? コーヒー飲みます?」
    「…………」
    「ふふ、罠なんて仕掛けていませんよ。疑わしければいつでも殺してください、死にませんから」
    悪戯をたくらむ子供のように笑って、怪物がぱちんと指を鳴らす。
    するとそれに呼応して、屋敷中の灯りがついた。
    蝋燭の燭台などとは比べ物にならない眩しさにキースは思わず目をすがめた。
    内装も、古びているものと思っていたが存外綺麗で拍子抜けだ。
    「さあ、どうぞこちらへ」
    「……ちっ。コーヒーより酒がいい」
    「ワインならあります」
    このまま帰っても同僚は酒を開けてはくれないだろうと考え、せめて彼を殺す手がかりでも掴もうとキースは一歩踏み出した。
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