シンには嫌いなものが多い。
爽やかな青空も嫌い、陰鬱な地下も嫌い。優しいひとも、自分をごみを見るような目で見てくるひとも嫌いだ。
その嫌いなものの中に最近、ひとり増えた。
その人物は敵対しているエリオスのヒーローの一人で、彼の能力はシンのそれとすこぶる相性が悪い。体格も、純粋な腕力もおそらく適わない。
そして何よりシンが気に入らないのは、彼がジェイ・キッドマンとよく一緒にいて、シリウスにも気に入られているという点だ。
「ヴィクター・ヴァレンタイン……、ハ、愛と勝利、大層なお名前だ」
エリオスの彼の公式プロフィールを眺めては悪態をつき、キャラメルマキアートを口に運ぶストローを噛み砕く。
噛みすぎて曲がりくねったストローではスムーズに甘い味を飲めなくて、さらにいらついた。
白銀の髪、白い肌、しなやかな体つき、涼し気な碧い瞳、聡明な頭脳。
すべてが気に入らない。
八つ当たりをしようとシャムスを探したが、目に見える範囲にいなくて壁を蹴りつけた。
そんな時だ。ヴィクターがシンの前に現れたのは。
「……」
絶句するシンに気づいているのかいないのか、シリウスは柔らかく微笑んでヴィクターの手を引いて現れた。
「ヴィクター・ヴァレンタイン。今日から僕たちの同志だ。今は少し、疲れていて意識が朦朧としているが……仲良くするんだよ」
シリウスの言葉どおりヴィクターの目は焦点が合わず、シリウスに支えられてなんとか立っている、という状態だ。
「……はは、シリウス、何やったんだよ」
「何も。僕の手を取ったのは、彼の意思さ」
乾いた笑みを浮かべそうこぼすと、シリウスはいつも通りの笑みを崩さずにそう答えた。
どう見ても連れ去ったようにしか見えないが、それを咎める道理はシンにはない。
それよりも重要なのは、シリウスがそれほど彼に興味を抱いているという事実だ。
やはり気に入らない。
意識が混濁しているというなら、ちょうどいい。
に、と口元が吊り上がった。どちらが上か、叩きこんでやる。
「……なぁシリウス。俺がそいつの面倒見てやるよ」
「おや……シャムスの面倒は嫌がるのに」
「だってあいつ言うこと聞かねーもん。それに比べて? そいつはなんか大人しそうだし、聞き分けよさそうだし? シャムスよりはナカヨクできそうっつーか?」
「ふむ……。まあ、ヴィクターは賢いからな。シンが望むならいいよ。ただし、今日はもう彼は休ませてあげないといけないから、明日からな」
「OK~、よろしく、ヴィクターサン?」
反応のないヴィクターを下から覗き込んで、だらりと下がったままの手を取って握手をした。