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    yaki_kagen

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    yaki_kagen

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    *サマイチになる話
    *未来捏造

    #サマイチ
    flathead

    「マイノリティ参画共同社会企画」
     書面の中央に打ち出された文章を読み上げ、向かいのソファに座る合歓を見上げた。彼女はひとつ頷き、書類を捲るよう促す。一郎は戸惑いながらも一頁目に目を通し、首を傾げた。
    「………なんでまた俺に?」
     そこには女女、男女、男男と思われる人形の図解が載っていた。読み解くに、男女間だけでなく同性間での権利も平等にしましょう、だろうか。
     そしてそのまま口にすると、合歓はまたひとつ頷き、口を開いた。
    「それもまたひとつの側面です。他にもマイノリティ的な視点で社会に生きづらさを感じている人は多く居ます。十人十色で一概にすることは難しいですが、行く行くは個人の悩みを掬い上げられる仕組みを構築します。先ずは大枠でのマイノリティ、人と人の関係性を認めていく所から始めたい。男女間の関係に不満が薄れてくる未来には必ず表面化する部分です」
    「成る程」
     今日の彼女は、友人でも、センパイの妹でもなく、与党言の葉党幹部として来店している。弟達の巣立った萬屋は、閑散期もありアポイントメントを1週間前にくれた彼女のために1日空けてあった。一体どんな用件かも、事前連絡では今一つ分からなかったためだ。そしていま説明を受けた上でも分からない。
     合歓は兄を思わせる意志の強い眼差しで一郎を見ているが。
    「……それで、今日はどういった依頼ですか………?」
    「端的に言うと、一郎くんとお兄ちゃんに企画モデルになってもらい、というのが今回の依頼です」
    「モデル、………ラップで曲を作るってことか?」
    「いいえ、男男関係のモデルです」
    「男男……」
    「私が言うのもおかしいけれど、同性間の先輩後輩、仲間、ライバル、恋人、ある程度の年の差……どの側面の関係性をみてもインパクトと結果がある。2人がモデルになることで、一部分でも参考になる人は多いと判断して候補に上げさせてもらいました。今日はその説明に、」
    「ちょ、ちょっと待って」
    「どうしたの?」
    「恋人、って」
    「ああ!お兄ちゃんからよく話は聞いてるよ!色々あったから、またふたりが一緒になってくれて本当に嬉しい。もしかしてお兄ちゃん、私に話してること何も言ってなかった…?」
     お仕事モードからスルッと友達モードになった合歓が花のように笑い、小首を傾げる。いやいや待って待って。どこを見ていいかわからず、見せられるような顔もできている自信がない。手の平で顔を覆って俯くと、合歓から心配げに呼ばれた。耳が無性に熱い。
    「つ、」
    「うん?」
    「付き合ってない、です」
     いち、に、さん。沈黙が落ちたところに合歓がコホンと咳払いする。見上げると「私もお兄ちゃんと話すのは月に1回くらいなんだけど」と前置きしてしっかり目を合わせられた。
    「ここ1年、週に1回ご飯を食べて、どちらかの家にお泊まりして、デートしてるんでしょう?」
    「で、でー…とって……ほどでも」
    「お兄ちゃんの話、2割がMTC、1割が二郎くんと三郎くん、7割が一郎くんなの。次のお出掛けどこにするか相談もされることもあったし、………お兄ちゃんはそのつもりだと思う、んだけど、」
    「……左馬刻がデートって言ったのか?」
    「……私はデートとして話してた、けど」
     通りでこの頃出掛ける先々が妙に色めき立ってると思った!デートスポットじゃねえか!いや確かに俺も『行楽日和!おすすめのドライブデート特集』参考にしたけど!けど!
    「おれ…左馬刻と付き合ってる……のか……?」

     
     * * * * *
     
     
    「一郎」
     珈琲の入ったマグカップを持ってきたのは左馬刻様。そして俺は左馬刻様お手製の夕飯をきれいに平らげて、家主より早くお風呂をいただき、左馬刻様が付けたテレビを眺めながら髪をタオルで拭いている。なぜならこの後、左馬刻様がドライヤーで乾かしてくれるからだ。その間、俺はテレビを眺めながら入れてくれた珈琲を飲む………と言うのが、ここ数ヶ月のお泊まりでのルーティンだった。すっかり馴染んでいたが、いくら左馬刻が、あの左馬刻様が身内の世話焼きが趣味だからって後輩のどうでもいい男にそんな甲斐甲斐しく世話を焼くか?!
     ということに、先日の合歓ちゃんからの依頼内容を聞いた日に気づいてしまった。
     そんなはずない。出会った頃の左馬刻さんですら、手作りの飯は食わせてくれただろうけど、寝る前の準備まで手伝うような人じゃないはずだ。かわいい妹か恋人ならまだしも。恋人なら。
    「一郎?眠いんか」
    「あ、や、ダイジョブデス!」
     珈琲サンキュ、と受け取れば、左馬刻は「ん」と頷く。ぶっきら棒に聞こえるが、唇が薄っすら上向いて微笑んでいて機嫌が良さそうだ。
     そういえば、マグカップが赤色と青色になったのっていつからだっけ。
     乾かすぞ、と左馬刻が言うのに生返事を返して珈琲を飲む。それまでは風呂から上がると水のペットボトルを貰って、風呂から出た左馬刻に珈琲がいるか聞かれていた。揃いでもなんでもないマグカップだったはずだ。
     カチ、とドライヤーが切られる音とともに口を開く。
    「このマグカップ、どうしたんだ?前まで違うやつだったよな」
    「あ?今更かよ。それ使い出して半年くらい経つぞ」
     陶器屋に顔だした時に買った。コードを巻きながら左馬刻が答える。
    「買ってきてくれたのか。………俺のために?」
    「おう。いい色だろ」
     あ、いま顔上げれない。耳がめちゃくちゃ熱い。でも左馬刻の顔も見たい。「なぁ、」あんたって、と続けようとして顔を上げたが、左馬刻は「風呂行くわ」とすでに背を向けた後だった。
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    yaki_kagen

    DONE*サマイチになる話
    *未来捏造
    「マイノリティ参画共同社会企画」
     書面の中央に打ち出された文章を読み上げ、向かいのソファに座る合歓を見上げた。彼女はひとつ頷き、書類を捲るよう促す。一郎は戸惑いながらも一頁目に目を通し、首を傾げた。
    「………なんでまた俺に?」
     そこには女女、男女、男男と思われる人形の図解が載っていた。読み解くに、男女間だけでなく同性間での権利も平等にしましょう、だろうか。
     そしてそのまま口にすると、合歓はまたひとつ頷き、口を開いた。
    「それもまたひとつの側面です。他にもマイノリティ的な視点で社会に生きづらさを感じている人は多く居ます。十人十色で一概にすることは難しいですが、行く行くは個人の悩みを掬い上げられる仕組みを構築します。先ずは大枠でのマイノリティ、人と人の関係性を認めていく所から始めたい。男女間の関係に不満が薄れてくる未来には必ず表面化する部分です」
    「成る程」
     今日の彼女は、友人でも、センパイの妹でもなく、与党言の葉党幹部として来店している。弟達の巣立った萬屋は、閑散期もありアポイントメントを1週間前にくれた彼女のために1日空けてあった。一体どんな用件かも、事前連絡では今一つ分からな 2298

    yaki_kagen

    DONE*未来捏造サマイチ
    *お付き合い中のふたり
    *ワンライお題「まちぼうけ」
    まちぼうけ

     昨夜からの走り梅雨。
     部屋は蒸し暑く、襟足にかかる髪の毛をゴムで縛って過ごす。いつだかの暑い日に輪ゴムで縛っていると、指鉄砲で与えられた髪用の黒いひもゴムだ。兄妹故なのか、妙なところで細かい恋人は甲斐甲斐しく結び直してくれた。あれもこの時期だっただろうか。
     ここ数日、曇天の空を背負って出かけた恋人は雨が降り始めても戻る気配がなかった。忙しくしている様子はなかったけれど、いつ誰の何が露呈するか分からない世界だ。急な調査で休日が潰れることもあるだろう。まあお互い、差し合わせた休日などあってないようなものだけれど。
     台所で今朝落としたばかりのコーヒーを青いカップに注いで、サーバーをシンクに下ろす。冷蔵庫から板チョコを取り出し、一列折ってすぐに戻した。
     猫のイラストをパッケージにあしらったそれは、恋人の妹からのお土産だった。コーヒーに合うチョコレートなんだって、とチョコレートをあまり口にしない彼に向かってにこやかに告げたのは、きっとなかなか会おうとしないことに対するささやかな報復だろう。家系なのか、兄妹はどうも決めたことにたいする腹の座りが潔い。始めは戸惑っていた彼女も 2679

    yaki_kagen

    DONEてででサマイチに遭遇した③のはなし。
    *🐴ピアノが弾けます。
    ねこふんじゃった

     帰宅する人波が増える前の、一瞬の落ち着いた時間だった。駅を抜けていると、どこからかピアノの音がきこえてきた。緩やかに走り出したメロディは、次第に跳ねてテンポをあげる。低い音がタン、トンつまずきながら追いかける。これ、しってる。音の出所を追いかけて、三郎は青と緑の瞳でぐるりと周囲を観察した。どこだろう。ふらふらと足を進めて行くうちに、みっつのメロディはぶつかりあったように跳ねて止んでしまった。
     クツクツと声をひそめた笑い声が聞こえる。いつの間にたどり着いたのか、どこの路線にも繋がっている駅の中にぽっかりとできた広場に、一台のピアノがあった。それに触れる男の人が二人。弾いていたのは間違いなく彼らだろう。肩をぶつけあって、なにかを口にしては肩を震わせている。
     そのうちのひとりは、三郎もよく知っている一番目の兄だった。
     学生服を着て二の腕には赤いバンダナをつけている。この頃はなんだか折り合いが悪くて、顔を合わせることも、話をすることもなくなっていた時期だった。学校の帰りにきたのか、高校生が小学生と同じ時間に終わるのか、それともサボっているのか。いまの三郎には分からな 827

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    もろごりら

    PROGRESS全然書けてないです。チマチマ進めます。
    左馬刻が両目右腕右脚を失った状態からスタートしますので身体欠損注意。
    何でも許せる人向け。
    左馬刻が目を覚ますとそこは真っ暗だった。真夜中に目覚めちまったかとも思ったが、何かがいつもと違っている。ここが自分の部屋ならば例え真夜中であっても窓は南向きにある為カーテンの隙間から月明かりがうっすら差し込んでいるはずだ。しかし今は何も見えない。本当の暗闇だった。

    なら、ここはどこだ?

    耳を澄ましてみる。ポツポツと雨の音が聞こえる。あぁ、だから月の光が届いていないのか。
    他の音も探る。部屋から遠い場所で、誰かの足音が聞こえた気がした。
    周りの匂いを嗅いでみた。薬品と血が混ざったような匂い。これは嗅ぎ慣れた匂いだ。それにこの部屋の空気…。もしやと思い枕に鼻を埋める。
    やっぱり。
    枕からは自分の匂いがした。良かった。てことはここは俺の家の俺の部屋か。ならばベッドサイドランプが右側にあるはず。それをつければこの気色悪ぃ暗闇もなくなるは、ずっ…
    押せない。スイッチを押すために伸ばした右腕は何にも触れないまま空を切った。おかしい。動かした感覚がいつもと違う。右腕の存在は感じるが、実態を感じない。失っ…?
    いやいやまさか。落ち着け。枕と部屋の匂いで自室だと勘違いしたが、ここが全く知らない場 6126

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