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    yaki_kagen

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    yaki_kagen

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    *未来捏造サマイチ
    *お付き合い中のふたり
    *ワンライお題「まちぼうけ」

    #サマイチ
    flathead

    まちぼうけ

     昨夜からの走り梅雨。
     部屋は蒸し暑く、襟足にかかる髪の毛をゴムで縛って過ごす。いつだかの暑い日に輪ゴムで縛っていると、指鉄砲で与えられた髪用の黒いひもゴムだ。兄妹故なのか、妙なところで細かい恋人は甲斐甲斐しく結び直してくれた。あれもこの時期だっただろうか。
     ここ数日、曇天の空を背負って出かけた恋人は雨が降り始めても戻る気配がなかった。忙しくしている様子はなかったけれど、いつ誰の何が露呈するか分からない世界だ。急な調査で休日が潰れることもあるだろう。まあお互い、差し合わせた休日などあってないようなものだけれど。
     台所で今朝落としたばかりのコーヒーを青いカップに注いで、サーバーをシンクに下ろす。冷蔵庫から板チョコを取り出し、一列折ってすぐに戻した。
     猫のイラストをパッケージにあしらったそれは、恋人の妹からのお土産だった。コーヒーに合うチョコレートなんだって、とチョコレートをあまり口にしない彼に向かってにこやかに告げたのは、きっとなかなか会おうとしないことに対するささやかな報復だろう。家系なのか、兄妹はどうも決めたことにたいする腹の座りが潔い。始めは戸惑っていた彼女も、兄との落としどころを付けようと何度も連絡をしていたのを知っている。
     ガラステーブルにティッシュを一枚広げ、チョコレートの筋に沿って四等分する。とっくに冷めたコーヒー(これをアイスコーヒーと呼ぶとたいへん怪訝な顔をされる)を口にしながら、スマホを手に取った。復刻イベント、SNSのチェック、それから、と計画を立て始めたところでピカ、とLEDがひかった。振動のないそれはメッセージ通知だ。
     チョコレートを口に放り込む。舌の上でホワイトチョコレートを溶かしながら、練り込まれた細かい粒を撫でた。噛むと少し苦いそれが何なのかは知らないが、たぶんこれがコーヒーに合う理由なんだろう。コーヒーと一緒に飲み込んで、メッセージを開く。
     ───これからかえる
     むにむにと口角が上がっていく。外を見れば依然、つよい音を立てて雨が降り続いている。立場上そう濡れることはないだろうが、いくら夏目前とはいえ冷えた身体を温めてやらなくてはいけないだろう。それにきっと、一息もつきたいはずだ。
     ───コーヒーとチョコレート、あるよ
     それだけメッセージを送りスマホをテーブルへ放り出す。おとなしく待ちぼうけを食らっていたのだ。これくらいの無愛想はかわいいものだろう。
     さて、時刻は十四時。
     風呂掃除、お湯をためて、バスタオルを玄関に。それから、アイスコーヒーを作る。
     恋人の帰宅を待つ時間は、そうわるくない。
     
     
     
     * * *
     
     
     
     ゆすいだサーバーに濾し器を乗せ、フィルターをセット。そそぎ口が細いヤカンでお湯をひと回しし、フィルターが浮かないよう湿らせる。ブレンドコーヒーの隣に並ぶ缶から、薄い色の粉を大さじ二杯。違いはよくわからないが、アイスコーヒー用の粉だそうだ。
     ゆっくりお湯をひと回ししたら、軽く揺すって平らにする。ガラスコップをふたつ冷蔵庫に入れて、氷を取り出して戻り、サーバーいっぱいに氷をいれれば準備完了だ。濾し器の粉がふくらんだのを確認して、こんどは“の”の字を描きながら、ゆっくりヤカンを動かした。
     のぼる湯気からコーヒー独特のかおりが立ち始め、サーバーに雫が溜まっていく。氷がパキパキと音を立てるのが楽しい。ここでせっかちにすると、苦いだけのコーヒーになってしまう。八割のお湯がコーヒーにかわったところで、さらに足していく。
     コーヒーはふたり分淹れた方が美味しいと教えてくれたのは恋人だ。それからはむかえる朝がひとりでも、コーヒーはふたり分淹れている。とはいえ普段から嗜んでいるわけではないので内緒にしているけど。
     お湯のなくなったフィルターは水を切って燃えるゴミへ。濾し器をシンクにおろしてサーバーを透かせば、ブレンドよりも濃いブラウンがふたり分たっぷり。氷は半分ほど溶けて、ゆっくりとコーヒーを冷やしている。置きっぱなしの鍋敷きへ載せておき、作りはじめに冷やしておいたガラスコップと炭酸水のボトルを取り出した。
     
    「こーら、髪かわかしてこいよ」

     トン、と背中に重みを感じてすぐに、うなじの辺り、Tシャツのえり首がじわり水を吸い込んだ。咎めた声など聞こえないとばかりに、しっとりした髪の毛がくすぐってくる。湯船でしっかり温まった肌は、本来の体温もあってぽかぽかとおれの背中から腹まで温める。
    「いい匂いがすんな」
    「ソーダ割りにしようぜ」
     肩口に顎が乗り、手元に視線を感じてこそばゆい。
     サーバーからコップの半分まで、氷をこぼさないようゆっくりそそぐ。それから炭酸水をグラスいっぱいにそそぎ、はちみつを二周。台所に立ててある菜箸で、三つの材料をゆっくりかき混ぜた。最後にひとくち味見をして完成だ。甘苦くもさわやかに弾ける炭酸が舌にここちよい。
    「いちろう」
     後ろから伸びてきた首と口を合わせる。ちゅ、と唇を舐めて、舌を触れ合わせてすぐに離れた。
    「美味い」
    「ん、まあ、覚えがいいからな!」
    「今朝もわざわざ淹れたみてぇだし、気に入ったみたいで嬉しいなァ」
     ちら、と視線が示すのは、シンクに置かれたままの青いマグカップ。普段は左馬刻が使っているもので、左馬刻は数日ぶりの帰宅で、今日は初めての台所だ。目尻が機嫌の良さを伝えてくるので、未だ解かれない腕の中で目をそらした。耳の先がじわじわ熱を集めているのがわかる。どいてくれと腕をたたくが、それが外れる気配はない。耳の裏で笑う吐息がくすぐったく、身を竦めた。
    「……べつに、コーヒーはふたり分つくったほうが美味いだけだし」
    「二杯も飲んだのかよ。寂しくさせちまって悪かったな」
    「あっ、ぐ、そこまでは言ってねえ!」
    「へぇ……、ちげぇの?」
     思わずグゥと喉を鳴らしてしまう。長いまつ毛を少し伏せて、子犬みたいに(この例えは方々で顰蹙を買うけれど)見つめてくるのは大変ずるい。
    「ち、、」
    「ウン?」
    「ちが、ちがくは、なくもない、」
    「ふ、はっは!そーかそーか、おれも会いたかったぜ、一郎くんに」
     笑い声で震えるのすら愛おしい。小っ恥ずかしさにむくれたくもなるが、こちらがガキ臭いと飲み込んだ気持ちを口にした方が、この恋人様は嬉しいらしい。最近気づいた上にどうしたって応え難いのだけど。けれどそれを上回って、この人の笑う顔が好きだ。
    「おかえり、左馬刻」
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    💒❤❤🐴🍓💯💗💗💗💗
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    yaki_kagen

    DONE*サマイチになる話
    *未来捏造
    「マイノリティ参画共同社会企画」
     書面の中央に打ち出された文章を読み上げ、向かいのソファに座る合歓を見上げた。彼女はひとつ頷き、書類を捲るよう促す。一郎は戸惑いながらも一頁目に目を通し、首を傾げた。
    「………なんでまた俺に?」
     そこには女女、男女、男男と思われる人形の図解が載っていた。読み解くに、男女間だけでなく同性間での権利も平等にしましょう、だろうか。
     そしてそのまま口にすると、合歓はまたひとつ頷き、口を開いた。
    「それもまたひとつの側面です。他にもマイノリティ的な視点で社会に生きづらさを感じている人は多く居ます。十人十色で一概にすることは難しいですが、行く行くは個人の悩みを掬い上げられる仕組みを構築します。先ずは大枠でのマイノリティ、人と人の関係性を認めていく所から始めたい。男女間の関係に不満が薄れてくる未来には必ず表面化する部分です」
    「成る程」
     今日の彼女は、友人でも、センパイの妹でもなく、与党言の葉党幹部として来店している。弟達の巣立った萬屋は、閑散期もありアポイントメントを1週間前にくれた彼女のために1日空けてあった。一体どんな用件かも、事前連絡では今一つ分からな 2298

    yaki_kagen

    DONE*未来捏造サマイチ
    *お付き合い中のふたり
    *ワンライお題「まちぼうけ」
    まちぼうけ

     昨夜からの走り梅雨。
     部屋は蒸し暑く、襟足にかかる髪の毛をゴムで縛って過ごす。いつだかの暑い日に輪ゴムで縛っていると、指鉄砲で与えられた髪用の黒いひもゴムだ。兄妹故なのか、妙なところで細かい恋人は甲斐甲斐しく結び直してくれた。あれもこの時期だっただろうか。
     ここ数日、曇天の空を背負って出かけた恋人は雨が降り始めても戻る気配がなかった。忙しくしている様子はなかったけれど、いつ誰の何が露呈するか分からない世界だ。急な調査で休日が潰れることもあるだろう。まあお互い、差し合わせた休日などあってないようなものだけれど。
     台所で今朝落としたばかりのコーヒーを青いカップに注いで、サーバーをシンクに下ろす。冷蔵庫から板チョコを取り出し、一列折ってすぐに戻した。
     猫のイラストをパッケージにあしらったそれは、恋人の妹からのお土産だった。コーヒーに合うチョコレートなんだって、とチョコレートをあまり口にしない彼に向かってにこやかに告げたのは、きっとなかなか会おうとしないことに対するささやかな報復だろう。家系なのか、兄妹はどうも決めたことにたいする腹の座りが潔い。始めは戸惑っていた彼女も 2679

    yaki_kagen

    DONEてででサマイチに遭遇した③のはなし。
    *🐴ピアノが弾けます。
    ねこふんじゃった

     帰宅する人波が増える前の、一瞬の落ち着いた時間だった。駅を抜けていると、どこからかピアノの音がきこえてきた。緩やかに走り出したメロディは、次第に跳ねてテンポをあげる。低い音がタン、トンつまずきながら追いかける。これ、しってる。音の出所を追いかけて、三郎は青と緑の瞳でぐるりと周囲を観察した。どこだろう。ふらふらと足を進めて行くうちに、みっつのメロディはぶつかりあったように跳ねて止んでしまった。
     クツクツと声をひそめた笑い声が聞こえる。いつの間にたどり着いたのか、どこの路線にも繋がっている駅の中にぽっかりとできた広場に、一台のピアノがあった。それに触れる男の人が二人。弾いていたのは間違いなく彼らだろう。肩をぶつけあって、なにかを口にしては肩を震わせている。
     そのうちのひとりは、三郎もよく知っている一番目の兄だった。
     学生服を着て二の腕には赤いバンダナをつけている。この頃はなんだか折り合いが悪くて、顔を合わせることも、話をすることもなくなっていた時期だった。学校の帰りにきたのか、高校生が小学生と同じ時間に終わるのか、それともサボっているのか。いまの三郎には分からな 827

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    PROGRESS全然書けてないです。チマチマ進めます。
    左馬刻が両目右腕右脚を失った状態からスタートしますので身体欠損注意。
    何でも許せる人向け。
    左馬刻が目を覚ますとそこは真っ暗だった。真夜中に目覚めちまったかとも思ったが、何かがいつもと違っている。ここが自分の部屋ならば例え真夜中であっても窓は南向きにある為カーテンの隙間から月明かりがうっすら差し込んでいるはずだ。しかし今は何も見えない。本当の暗闇だった。

    なら、ここはどこだ?

    耳を澄ましてみる。ポツポツと雨の音が聞こえる。あぁ、だから月の光が届いていないのか。
    他の音も探る。部屋から遠い場所で、誰かの足音が聞こえた気がした。
    周りの匂いを嗅いでみた。薬品と血が混ざったような匂い。これは嗅ぎ慣れた匂いだ。それにこの部屋の空気…。もしやと思い枕に鼻を埋める。
    やっぱり。
    枕からは自分の匂いがした。良かった。てことはここは俺の家の俺の部屋か。ならばベッドサイドランプが右側にあるはず。それをつければこの気色悪ぃ暗闇もなくなるは、ずっ…
    押せない。スイッチを押すために伸ばした右腕は何にも触れないまま空を切った。おかしい。動かした感覚がいつもと違う。右腕の存在は感じるが、実態を感じない。失っ…?
    いやいやまさか。落ち着け。枕と部屋の匂いで自室だと勘違いしたが、ここが全く知らない場 6126

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    ※名前があるモブ♂が出張ります、モブいちっぽい瞬間がありますがサマイチの話です。
    カーテンの隙間から薄い紫の空が見える。 まだ日は昇りきっていないが、どうやら朝になったようだ。
     のろのろと体を起こしスマホを手に取ると、時刻は五時を過ぎたばかりだった。
     隣で寝息をたてている一郎は起きる気配がない。
     昨晩は終ぞ正気に戻ることはなかったが、あれからもう一度欲を吐き出させると電池が切れたように眠ってしまった。
     健気に縋りついて「抱いてくれ」とせがまれたが、それだけはしなかった。長年執着し続けた相手のぐずぐずに乱れる姿を見せられて欲情しないはずがなかったが、その欲求を何とか堪えることができたのは偏に「かつては自分こそが一郎の唯一無二であった」というプライドのおかげだった。
     もう成人したというのに、元来中性的で幼げな顔立ちをしているせいか、眠っている姿は出会ったばかりの頃とそう変わらない気がした。
     綺麗な黒髪を梳いてぽんぽん、と慈しむように頭を撫でると、左馬刻はゆっくりとベッドから抜け出した。
     肩までしっかりと布団をかけてやり、前髪を掻き上げて形のいい額に静かに口付ける。

    「今度、俺様を他の野郎と間違えやがったら殺してやる」

     左馬刻が口にしたのは酷く物騒な脅 4404