愛するもの初めて同級生3人で任務につき、思いの外、と思っていたのは補助監督だけだけれど、予定時間よりもずいぶん早く片が付いて、それならばと直帰ではなく、晩ごはんを食べて帰ろうとした日のことだった。
晩ごはんにも少し早い時間だったので、どこかで暇つぶしをしようと入ったのが、五条が行ったことがないと言う、街中のゲームセンターだった。
ぐるりと廻って、クレーンゲームやら、シューティングゲームやら気になったものをいくつか試した後、
「やっぱりプリクラ、いっとく?」
と、家入が言った。
「プリクラ、って何?」
「んー、写真をシールにするんだよ。今日の記念にいいかもね。で、どれにする?硝子。」
いくつかあるプリクラを覗いて、一番綺麗に撮れると評判の一台に決め、お金を入れると
「どこ向くの?」「え、もう撮ってんの?」「次、下のカメラって、どれ?どこ?」「いやいや、それだと私写ってないから。」「今の半目になってるかもー。」「今度あのポーズしようぜっ。」「早く早くっ。」「え、もう終わり?」
大騒ぎしながらいろんなポーズをとり、それが終わると、今度は落書きする時にも、あーでもない、こーでもないと言いながら、日付や台詞やキラキラを散々盛り付けて、出てきたシールを分けながら、3人でまた大笑いする。
ファストフードで晩ごはんを食べ、また取り出しては、次に撮るときの話をしながら帰路についたのだった。
久しぶりに入った夏油の部屋は、いつもより片付けられていて、少し他人行儀な感じがした。まもなく部屋のものが全て処分されるらしいから、いるものがあるなら先に片付けとけ、と家入に促され、足を踏み入れたものの、どこから手を出していいのか分からなくてしばらく立ち尽くす。
まだ残っている、匂い、気配、残穢。目を閉じ、いったん深呼吸して、ゆっくり目を開けた時、見慣れない箱があることに気付いた。
近寄ってその小さな箱をそっと手に取ると、中に何か入っている微かな音がする。意を決して開けてみると、まず目に飛び込んできたのは、あの時撮ったプリクラのシール。
それから、いつか引き換えに行こうと話したアイスの当たり棒。一緒に観た映画の半券。口直しにと渡したキャラメルの包み紙。帰り道に拾ったどんぐり。お菓子のオマケで付いていたキャラクターカード。プレゼントに結ばれていたリボン。落書きしたノートの切れ端。夏祭りで取った水色のスーパーボールとオモチャの指輪。
ガラクタのようで、何よりも確かな青い春の証が、その箱に詰め込まれていた。
「ほんとうに全部、置いていったんだ…。」
「いらないものではないけれど、置いてきたんだ。必要なものは、改めてこれから揃えればいいからね。問題無いよ。」
そう言って夏油は、新しい生活を始めるにあたって美々子と菜々子に笑いかける。
大義のために必要なものだけがあればいい。
大事なものは、壊さないよう全て置いてきた。
あそこに置いてきたのは、私が愛するもの全て。