ストロベリームーン真夜中にふと目を覚ますと、カーテンの隙間から青い光が差し込んでいた。そういえば、今晩は満月だと誰かに聞いた気がする。
「親友」が同じベッドの上で安らかな眠りに落ちているのを確認し、起こさないよう、光に誘われるようにそっと布団から抜け出した。
薄いカーテンをそっと捲り、窓を開けてベランダに出ると、昼間降った雨のせいか、梅雨独特の湿り気がＴシャツ一枚の身体に纏わりつく。見上げると切れ切れの雲の隙間から、月が顔を覗かせていた。
部屋から持ち出した煙草に火を点けふかす。呪霊の味を誤魔化すために始めた煙草だが、今紫煙を燻らすのは、すぐに高揚する心や欲望を落ち着かせるためのおまじないや儀式のようなものでもあった。落ち着かせるついでにと、立ち昇る煙を見ながら、最近測りかねている「親友」との距離について思いを巡らせ始める。
隣で笑っている顔を、クルクルと変わる表情を可愛いと思うようになったのはいつからだろう。相手はこの世で最強の呪術師だというのに、庇護欲を掻き立てられるのは、なぜだろう。不必要だと今まで切り捨てられてきたことを、まるで乾いたスポンジのようにみるみる吸い込み、まだまだ足りないと駄々をこねるそれすらも、愛おしいと思ってしまうのはどうしてだろう。もうとうに「親友」の枠からはみ出してしまっているのに、その言葉にがんじがらめになっている気もする。
風に吹かれ、雲間に月が隠れ、束の間、薄暗い闇の帳がおりてくる。と同時に、このままではいられない、いつかは離れてしまうのに、と予言のような言葉が口をつく。
だけど。
わがままだとわかっている。けれど。

夏の始まりを告げる満月。
雲の切れ間からまた顔を出して、心の奥底を見透かすような光がさす。逃げるようにそっと部屋に戻ると、美しく静かな寝顔の「親友」に祈るように口づける。
そうしてまた夜は更けていく。