睦月 いつの間に初日は澄み渡った空の高いところで、燦燦と輝いている。毎年、今年こそは初日の出を拝もうと思いつつ、ついベッドの中で年越しをしたまま、眠りに着くのが遅くなってしまう。当然、初日が昇るまでにご来光が拝める場所まで辿り着けた試しはない。
まあ、いいか、私が見ていなくても日は昇るし、それ以上に見ていたい情景がある。
準備してあるおせちを食べたいし、雑煮も食べたいし、悟に食べて貰いたい。昨夜は無理もさせたしと、初めにこそりと起きた室内は、途中で空調を切り冷え切ったままだ。それでも情事の余韻が色濃く残る。寒いけど空気を入れ替えないと、厳かな雰囲気も何もあったものじゃないな。そして何より、毛布に包まれた気怠い雰囲気の悟に、またイタズラをしたくなる。
僅かに窓を開けて暖房を入れると、気持ち良さそうに寝入る悟を眺めてから、仕込みは整っているキッチンに向かった。
「すぐるー」
「おはよう」
僅かに不機嫌そうな声が聞こえる。返事をすると、背後にぴたりと張り付いてきた体はあたたかくて安心する。事前に連絡もなく、目覚めた時に私が隣にいないと僅かに不安を募らせるからか、甘えん坊になるのが可愛い。そんな身勝手なことをちらりと脳裏に過らせながら、後ろ手にくしゃりと髪を撫でた。
「おはよ」
ふにゃりと猫みたいなあいさつの後、首筋に顔を埋められて、湿った唇が落とされた。ちゅっとリップ音を響かせると離れていった体に、満足したんだなと笑みが零れる。
「ごはんするから支度しておいで」
「おうっ」
お重に並んだおせちと、ふわりと湯気の立つ雑煮は私が適当に作る関東風だ。
対面に並ぶと、声と視線を合わせた。
「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
各々おせち料理に箸を着けながら、でもさ、と悟が口を尖らした。
「シてる時にも言われたよな、正月の挨拶。もう、いいんじゃね」
「まあ、それはノーカウントで」
「だいたいさ毎年、来年は初日の出行こうって言うのに、いつも傑が離さなくて、寝るの真夜中過ぎじゃん」
伊達巻が甘くておいしいと、続けて食べながら、不満そうに言い募る。そのわりに、牡丹が綻ぶような艶やかな笑みを口元に浮かべている。
「それは悟が可愛いし、強請るからだろ」
「人のせいにしないでくださーい、傑せんせ。去年だって恵と約束したのに起きられなくて遅刻して、白い目で見られたじゃん」
「あれは、申し訳なかったよね」
冷ややかなジト目を思い出しながら、笑ってしまった。
「そんなコト、思ってないだろ、オマエ。寝坊したワケ、バレてたっぽいし」
「私たちいい大人だから、いいんじゃない。ほら、睦月って睦み合う月って意味だからね」
我ながら、黒豆のように艶やかで甘い声だと笑いながら、悟の左手を取ると、恭しくキスをした。