【hrak】上耳とラブレター 高校二年の夏、生まれて初めてのラブレターを貰った。差出人は、普通科の三年の先輩。付き合ってください、みたいなことは書いていなかったけれど、貰う現場に居合わせた芦戸からは、「ラブレターじゃん!」と囃し立てられた。だから、メッセージアプリのIDが書かれた小さな紙でも、「ラブレター」なのだ。たぶん。
芦戸のことだから翌日にはクラス中に噂が広まるだろうと思っていたのに、意外なことに、その日の夜の寮の談話室でも、翌朝も、学校に行っても、誰からもその話を振られることはなかった。ああ見えて案外気が利く子だから、あまり言いふらされてはいないのかも。それかもしかして、みんなとっくに知っていて、何も言わずに経過を楽しもうということになったのかも。午前中は疑心暗鬼になって周りを警戒していたが、午後にはその緊張も解けていつも通りに過ごした。ただ、まだあの手紙に書いてあるIDに何も連絡できていないことだけが、胸の奥に引っかかっていた。
2028