【hrak】上耳が波打ち際で遊ぶ 上鳴は、海をあまり見たことがないと言う。
「あんまり! あんまりだから! ちょっとはあるから!!」
その弁明を聞くのは、もう三度目だ。
──「ちょっとはある」の割には、もう何時間もこれなんだけど。
耳郎は、口にするとまた諍いの種になりそうな言葉を溜息に変えて吐き出した。
砂浜の貝殻を拾って集めたり、砂の上に絵を描いたり、気まぐれに砂浜を歩くヤドカリを突いたり。小学生かと思うような遊びを延々と繰り返している。まだ海水浴には早い季節だが、本格的に泳げるようになればきっと上鳴は一日中でもビーチにいるだろう。
「ねえそろそろ帰んない?」
上鳴がスニーカーのままで波と追いかけっこを始めたところで、見るに見かねて耳郎が声をかけた。
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