ぽかぽか日和暖かい日差しの中で悠仁はもふもふの柔らかい毛並みに抱きついていた。
「悠仁?暑くないのか?」
「・・・うっす」
小さく返された言葉にパンダは呆れながら頬を掻く。稽古のあと悠仁はパンダにしがみつき、綺麗なアンバーの瞳を隠す様に顔を押し付ける。参ったなと思いながらパンダは空を見上げた。悠仁の誕生日が近づくにつれて何故か悠仁がパンダの側から離れなくなったのだ。ぎゅうとしがみつかれてパンダは更に困惑する。
「どうした悠仁?」
「なんでもないっす」
どう見てもなんでもない様に見えない。伏黒と喧嘩した様にも見えない、野薔薇に叱られたぐらいで悩む玉でもない。真希はあぁ見えて悠仁を気に入って居るし、稽古もつけている。棘が悠仁どうこうする事は無いだろ、いや寧ろ今日も手振り素振りで棘と仲良く話しているのをパンダが確認していた。
「悟か?」
その言葉に悠仁の身体が震えた。
「ビンゴ?何?悟にいじめられたか?」
ふるふると首を左右にふるがふてた子供のような態度にパンダが悩む。そう言えば
「悟、来週の月曜日まで出張だっけ」
「っう・・・」
出張が入る前まで悠仁と旅行に行くと騒いでいたのを思い出す。
「珍しいな悠仁がわがままとか」
「ウッス・・・」
悠仁にわがままを言いたい自覚がある事にパンダは少し驚いた。明るくて元気で根明で善人・・我慢強いところも長所だろうが、それは同時に言いたいことややりたい事を隠す様になる事もある。
「パンダ先輩、体術しようぜ?」
「えっ・・少し休憩したいんだよな俺」
グリグリと顔を押し付けてくる悠仁にパンダは不覚にも可愛いと思ってしまった。
「やろうぜ〜先輩!なぁなぁパンダ先輩?」
目を輝かせて見上げてくる悠仁にパンダはため息をつくと頭を撫でた。
「えっ何?子ども扱い?」
真っ赤になる悠仁にパンダは頭をぽふぽふとその手で撫でる。
「悟に早く帰って来いって言って良いと思うぞ?俺?」
「だって五条先生忙しいのに疲れてるだろうし」
寂しそうにする悠仁にパンダは目をパチパチする。
「う〜ん、人間の事はよく分からんが、お前の我儘なら悟は喜ぶんじゃないのか?」
「えっ?」
「悠仁って我儘言わねぇじゃん?それはそれで悟が寂しんじゃないのか?」
悠仁を見つめていた顔をあげるとパンダの顔の前をヒラヒラと蝶が飛びそれを悠仁も目で追っかける。
「悟も悠仁の事大好きなんだから、それぐらい言って困らせろ」
その言葉に悠仁は目を伏せて頷く
「そうする・・・」
パンダに抱きついたまま悠仁はスマホを弄ると大好きな彼に電話を掛ける。すぐに繋がると嬉しそうな声がして悠仁も嬉しそうな顔になると楽しそうに話し出す。そして小さな声で悠仁が囁く
・・・会いたい、誕生日に旅行行きてぇよ先生・・・
向こうでクスリと笑う音がする。
「すぐに帰るよ待ってね悠仁」
「おう・・・」
ちゅと聞こえる音にパンダが、げんなりしながら悠仁を見つめると悠仁あたふたと通話を切る。
「よかったな悠仁」
「あんがとうパンダ先輩」
ぎゅうとしがみついてくる悠仁にパンダは青空眺めた。春先の風に目を閉じていると寝息が聞こえてきて見下ろす。
「俺・・お前のぬいぐるみじゃないぞ悠仁」
でもその寝顔が先程より嬉しそうでパンダはまた空を見上げる!
「俺、人間好きじゃないけど悠仁はずっと笑っていて欲しいな」
そよそよと風邪か悠仁の髪を揺らす。見知った気配がしてパンダは振り返ると胡散臭そうな男が立っていた。
「パンダ、2日ぶり?その子預かって良いかな?」
「早くしろよ?悟」
パンダの言葉に五条は悠仁を抱き上げた。
「あんまり泣かすなよ」
「甘やかしたいだけどね」
難しんだよと笑う五条の口元が優しくてパンダは頬を掻く。
「俺、パンダだから人間の気持ち分からんけど」
「そう?パンダは十分こっちよりだよ。じぁね」
五条を見送るとパンダはまた空を見る。その目線にまた蝶が飛び今度は二匹舞うように。パンダは願う、どうかあの善人の虎杖悠仁の未来が明るい方に向かう事をそっと感じる胸の痛みを抑えながら