仙人の恋人1ばさり……と白い布が、目の前に広がった。
視界がふさがれたと思うと、線香のような匂いが鼻孔をくすぐった。
さっきまで生臭い不快な臭いしかしなくて、怖いとしか考えられなかった。
その匂いが懐かしくて、恐怖しかないはずの状況なのに安心した。
紫の雷がその人の手で操られると、恐怖の対象は吹き飛んでいった。
「大丈夫かい?」
「え?」
白い人は、まるで春の花々を思い浮かばせるほどの顔をしていた。
その瞳は、穏やかで濃い月の色をしていた。
腰に手を添えられて、くるっと化け物から背を向けられて歩く。
「本当に、君は邪崇に追われるのが好きだね」
「は?」
「とにかく、ここから出ようか」
子供に言い聞かせるように告げながら、歩き出す。
細いと勝手に思っていたけれど、力強い手で腰を支えられて強制的に歩かされる。
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