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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    甲操 宿雨傘

    ##甲操

    2021.02.14

    「ふうん、これで甲洋って読むんだ。まっすぐな線が多いね」
    「なんだ、その感想」
     穏やかな昼下がり、紙とペンを差し出して来主が言った。「きみの文字を教えて」。意図が掴めず経緯と目的を分解していくと、竜宮島にいた子どもと、アショーカ庇護のもと避難してきた子どもたち──来主にとってはどちらも見知らぬ子どもではあるが──が、砂浜にお互いの名前を書き合っているのを見て、ふと興味がわいたらしい。一番身近な男の名前をどう書くのか、知らない。知らないなら、教えてもらえばいい。即断即決は少年の長所だ。
    「ねえ、こういう文字にも意味があるの?」
     知りたい、に与えられた答えからまた次の質問を見つける来主と話すのは、少しだけ骨が折れる。とはいえ俺もそれなりに振り回される時間を楽しんでいるのでお互い様だ。何を聞かれてもいいように答えを用意した時に限って追撃をしてくれないのだから、まだまだこいつの行動は読めそうにない。
     今回もそうだ。俺の名前の意味を知りたがるなんて思わなかった。口を二つ動かして、呼んでくれる名の意味を、訊ねられるなんて。
    「前の俺が名前をつけてもらうとき、総士に色々説明してもらってたんだ。せっかく書けたんだから、甲洋の字の意味も教えてよ」
    「今のお前の名前の意味じゃなくて?」
    「もう知ってるからいいもん。ね、どんなの?」
    「……こっちがかたい殻とか、よろいって意味で、こっちは大きい海だったかな」
     昔、名前の由来をしらべてみようという宿題のために、図書室で辞書を開いたのを思い出す。平坦な印象の文字に豊かな意味が込められていると知るきっかけは嬉しかった。与えられた親からの情に、好奇の目を向けてよいのだと言ってもらえたような気がしたから。けれど俺以外は皆、照れくさそうにしながら誇らしげに、親からの言葉をたどたどしく読み上げていた。一人で調べていた俺とは違って。
     だから「それじゃあつぎは、かすがいくん」と呼ぶ声に、辞書の文言を書き写したノートを慌てて閉じて、伝聞をなぞるようにそれらしく諳んじた。
     海のように広く大きな心で、誰かを守る人になれるように。一言だって言われたことはないものを、愛されている子どものふりをして。
     思えばあれから、親の皮を借りて己に枷を施していたのだろう。あれかしと与えられる愛を夢見て、そうなれたならきっと大事にしてもらえるだろうと信じ込んで……発表した言葉の通りに繕った自分の姿を振る舞い続けていた。昔の話だ。
    「海? 海ってこんな漢字もあるんだ。この、左の三つがうみの意味になるの?」
    「そのものじゃなく、派生の文字だな。さんずいっていって、海だけじゃなく、水に関連する漢字につくんだ」
    「型の変容ってこと? 人間って種類を増やすのが好きなのかな」
     なにか納得したらしく、うつむいて複製を続ける。手本に書いてみせた俺の字を囲むように書きつける来主の文字は、書き順はめちゃくちゃだし、大きさもバラバラだ。
     彼の手から現れる俺の名前が、紙一面を埋めていく。来主の手に俺の名が馴染んでいく──
    「ね、それじゃあ空の漢字は? 海があるんなら、空にもあるんだよね」
     そら。翔子が消えた空。書いて、と差し出されたペンを受け取って、思い付くままに、字を一つ、紙に増やした。翔子は飛んだ。彼女の妹になったカノンも、舞うようにくうに浮かんでいた。
     来主もいつか、彼女たちのように、空に還るのだろうか。
    「……はね?」
    「ああ、違う、間違えた。空自体の漢字じゃないんだけど、少し思い出して」
     翔。羽を広げて空高く飛ぶ、力強く羽ばたいた彼女に似合うことば。飛んでほしくなどなかった。ベッドに横たわるままでいいから、生きていて欲しかった。そんなのはエゴイズムだ。島が見せてくれた姿でとっくに理解している。彼女は彼女の意思で空へ上がった。死ぬつもりなどなく、生きて、一騎を出迎える為に。
    「ふーん? でも、きれいな文字だね。思いっきり空で遊んでるみたい」
    「……うん。この字、気に入ったのか?」
    「うん! 今日もたくさん教えてくれてありがとう!」
     こちらこそ、すくい上げてくれてありがとう。
     また一つ、伝えられない想いが募る。
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