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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    甲操 与えられぬヒラエス

    ##甲操

    2021.10.31

    ご投票ありがとうございました♡
    https://twitter.com/okeano413/status/1453039796868116481t=soXg8WqYVZio-GMfjIE1AQ&s=19
    「明日死ぬなら」


    「コアは生まれ変わるものなんだって」
     両手を広げて防波堤上を進みながら、夕陽の中に浮かぶ白雲を示す。俺達の帰る場所、だけれど、来主にとっては最期を与えられる場所でもある。
    「……知ってるよ。直接、この目で見たことはないけど……」
    「理解はしても、実感はないでしょう。僕もね、この世界のどこにも証を残せないんだなって、まだぼんやり思うだけなんだ」
     羽佐間先生の待つあたたかな家に、わだかまりを残したまま帰りたくないと橙の空を眺める来主にこうして連れ出される頻度はそう高くはない。こうして並ぶたびに細い石を歩くのは危ないと伝えても降りようとしないから、諦めて隣を歩いている。
    「おかしいよね。その為に生まれたのに、僕の理解が追い付いていないなんて」
    「…………」
    「そうかな。きみだって、群れになにか囁かれてるでしょ。役割も果たさず留まりたがらないように頼まれてるんじゃないの?」
    「……だとしても、俺の決める事じゃないよ。お前の意思が定まらないうちに、言うつもりもない」
    「やっぱりねだられてるんじゃない。聞かなかったことにしてあげるから、頑張って隠しててね」
     もしも傾いでしまったら支えようと自己満足で伸ばした腕に、少年の揺れる手は触れない。透明な膜に隔てられているかのように。腕を伸ばせば、今にも抱き締められるほどそばにいるのに。
     彼が逝く日も、破れないなにかに阻まれて、見送るしかないんだろう。
    「ボレアリオスが、早く帰ってこいって言ってるのか?」
    「うん。でも今じゃない。いつか役割を終えたら、必ずここへ還るようにって」
     生まれる前から定められたものは、死と呼ぶのだろうか。紛れもなく彼の命はここにある。心だって、誰かを写し取ったきりのものじゃない。来主操は生きている。製造元だからと、パーツのように扱っていいはずがない。
    「甲洋、こわい顔してる。僕の為に怒ってくれるの?」
    「別に、お前の為じゃない。自分の無力を突き付けられてるだけだ」
    「優しいんだね。うれしいよ、それでも。僕を大事にしてるから怒ってるんだって知ってるからかな」
    「……からかうなよ」
    「本心なのに」
     変えようもないものへ怒りを抱いたところで、虚しいだけだ。彼は、彼らコアは、ミールに生と死を、命の循環を伝える役割を与えられて産まれた。あの、赤い海が還る場所でもある事を理解はしている。心が、現実を拒んでいた。
     ルヴィだって、いつかアショーカに還るだろう。乙姫も、織姫ちゃんもたどった道を彼は往く。
    「……僕の命はそういうものだから、死ぬのは怖くないんだ」
     隣を、見上げても目が合わない。分かち合う事すら、俺には、許してくれないのだろうか。
     丸い後頭部をこちらに向けて、平坦に発する少年はどんな顔をしているのだろう。命の終わりを……己の世界の終わりを、どんな心で受け入れるのだろう。
    「ねえ、甲洋」
     沈み際の夕陽はとりわけ視界を焼く。歩く為に作られていない頼りのない壁に立ち止まって、感情のひとつも乗せぬ瞳で少年が俺を見下ろしている。
    「僕が死ぬって決まったら、その前に君の毒で殺してよ」
     従って、たまるものか。
    「君が殺してくれるなら、コアじゃない僕の命も、肯定される気がしてさ」
     そんな喜びを、与えてたまるものか。
    「……ああって、頷くと、思う?」
    「まさか。甲洋は断るでしょ。そしたら、冗談だよって笑って話を終わらせられる」
     声に色が乗る。言葉通りに微笑んで、俺の視線を引き剥がすように顔を上げた。
    「怖くないのは、ほんとうだよ。みんなとごはんが食べられなくなっちゃうのは残念だけど」
     少年が離れていく。後ろ手を組んで、向かい風の中を進む。終点にはなにもない。追いかけなければ。ひとときも彼を孤独にしたくはない。
    「……きみの隣を誰かに譲りたくないな……」
     今日の海は穏やかだ。囁きさえ、かき消してくれないほどに。風下にいるものだから、しまいそびれた言葉は余さず耳に届く。
    「来主。降りて来て」
    「今日はもう帰るよ。クーのごはん、作らなきゃ」
    「来主」
    「……なんにもないよ。なんにも言ってないよ」
     従ってやるものか。飛び乗った防波堤の上を俺も往く。こんなところを歩くのなんて初めてだ。
     薄い体を抱き締めても、適切な言葉は浮かばない。気休めを与えてやる事も、俺にはできないけれど。この先の未来でなにがあろうとお前しか見ていないと伝えても、来主の安らぎにはならないだろうけど。
    「僕のこと、忘れて過ごしてよ。ときどき、こんなのがいたなって、思い出さなくても、いいから」
    「いやだ。絶対に忘れないし、毎日どんなふうに過ごしたか聞かせに行ってやる」
     鼓動が背中越しに伝わる。雫が腕を濡らした。こうまで寄り添っても、少年の心には触れられない。間際まで、きっと触れさせてはもらえない。
    「……約束してくれないと……きみを置いていきたくなくなっちゃう」
    「……未練のない終わりなんかないんだよ。納得できないって言っていいんだ。俺がぜんぶ聞くから」
    「言わないよ。……言えない」
     証がどこにも残らないはずがあるもんか。命はここにある。同じにならない音が交わる。この音を、静かな声を、誰が忘れても俺が覚えている。
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