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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    甲操 叶わない夢
    暗い

    ##甲操

    2021.11.19

     戦いは、命の終わる音がする。あれは、憎しみに飲まれた子の未来が消える音だ。ただ、生まれた場所に還るだけだったのに。もう、僕はあれが死だと知っている。存在の終わりを、僕が食べた子の消滅が、あの子の世界の終わりなんだと知っている。
    「今日も、助けてくれてありがとう」
     眠る甲洋の背中に囁く。誰よりも警戒心が強いぶん、安心できると確信した場所での眠りは深い。今、なにを言っても、明日の彼は覚えていない。
     初めて、この無防備な姿を見せてもらえた時は、彼も死んでしまうのかと胸が締め付けられたっけ。
    「……今日も、おかえりって抱きしめてくれて、ありがとう」
     背中越しに鼓動がきこえる。どくん、どくんと強く耳に響く。彼が生きている証。僕の世界を鮮やかにしてくれる拍。戦場では聞かれない、命の続く音。
     僕にも、いつか終わりの時が来る。どんな音がするのかな。赤い海に戻ったなら、甲洋の心臓を感じられなくなるだろう。さびしくていやだな。僕の世界の終わりに聞く音は、これがいい。
     甲洋に抱きしめられたまま眠りにつけたなら、意識の消える時まで鼓動に揺れていられるだろう。そうしたら、いなくなることもこわくなくなる。眠る時のようにまどろんで、触れたままお別れができる。
     甲洋は、泣くだろうか。さよならの時は、どんな言葉をくれるだろう。僕のいる間は強がって泣こうとしないかも。心臓だけが慌てたみたいに、ばくばく、大きく鳴ったりして……。
    「……眠れないのか」
     心に注ぎ込む音じゃない。起きてしまったらしい甲洋が、ゆっくり僕に向き直ろうとする。
    「こ、っち、向かないで」
    「どうして」
    「いま、甲洋の目、見たら、泣いちゃいそうだから」
     大丈夫。心は閉じていた。言葉は聞かれたって問題ない。パジャマを握ると動きが止まる。歯がゆく、悔しがる心が伝わる。言わなくたって苦しめてしまってる。
    「お前の不安、わけてくれないの」
    「悲しませ、たく、ないから……」
     助けてと言うのは簡単だけど。僕の転生は決まっていることだ。変えようのないものを伝えて、もう少しで、生まれた場所へ帰れる彼らの負担を増やしたくはない。
    「抱き締めさせても、くれない?」
    「……ごめんね。今日は、このままがいい」
    「そう。気が変わったら教えて」
    「うん、ごめん。……おやすみなさい」
    「おやすみ。来主も、ちゃんと寝ろよ」
     甲洋の、無理に鎮めた心の海が凪いでいく。海を凍らせるように、冷たく固くなっていく。
     決まった未来だとしても、クロノスが見せてくれた惨状だけは、きっと回避してみせる。おかあさんの大事な子がつながった器。おかあさんとの想い出が満たされていた器。あの子だけは、島に返さないと。
     額を寄せる内側に響く、命の終わる音。命の始まる音。
     ……赤い海で与えられる僕の終わりには、聞けない音。せめて、耳に焼き付けよう。夢の中でも、鮮明に思い出せるように。
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