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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    甲一 山茶花をくださいませんか
    お誕生日おめでとうテキスト

    ##甲一

    2021.09.10

    「ああ、やっぱりここにいた。弓子先生が保健室に来ないって探してたぜ」
     新緑を向こうから照らす日差しを遮るように、甲洋が視界に現れた。まばたきをしてみても、俺を見下ろしているのは甲洋だ。それなりに大きな木の根元の、窓から隠れるような場所に座り込んでいたのに。どこから見つけられたんだろう。
    「……甲洋」
    「なんだよ、いつもより歯切れが良くないな。調子、悪いのか?」
    「べつに……いつもどおりだよ」
     心配、してくれてるんだろう。声を潜めて言ってから、すとんと隣に座る。黄土色の上着が脚に敷かれていくのをぼんやり眺める俺のほうを見たまま、でこぼこに飛び出した根の、ちょうどはまるところを探すように体を揺らしながら、おしゃべりな口は動き続ける。
    「せっかく昼までだったんだから、絡まれる前に帰ってやればよかったのにさ」
    「呼び出されたら、行くだろ。甲洋だってさ」
    「一方的に取り付けられた約束だけどな」
     時間はたっぷりあるんだから、ひとつずつにすればいいのに。「まわりからの心配をあんまり無碍にするとそのうち校内放送で呼び出されて騒ぎになるぜ」、などと大げさに言って、一度うつ向いた。何秒もしないうちに、また目が合う。さっきよりも少し、顔がこわばっている。俺も、なんとなく背筋を伸ばした。
    「喧嘩して、珍しくふらついたってのに、なんでもないって振り切ったんだって? 見てた衛以上に投げ飛ばされたっていう剣司のほうが気にしてたって、知ってるか?」
    「大したことじゃ、ないから。喧嘩にも、なってないと思うし……」
     実際、取っ組み合いは原因じゃない。どこかを悪くしたせいでもなかった。ちょっと考え事をして、なんとなく答えが浮かんだ気になって、上を見ているうちに視界が揺れた。倒れたわけでもないから、振り向かずに平気だよと言い返して、適当に走った。それで伝わるだろうと踏んだのだけど、間違えてしまったかもしれない。甲洋まで使って探すなんて。
     悩みと、いうほどでもない考えには、甲洋がいた。今朝の下駄箱の様子なら、日が暮れる前には一緒に帰れるだろうかとぼんやり見上げて、さいころほどもない石を踏んだ。なだらと思い込んで足元を見ていなかっただけだし、実際は空の青いうちに俺の前に現れた。今日は読み間違う日なんだろう。たぶん。
    「あ、ははっ。そっか、そうだよな。果たし合いって、喧嘩じゃなかったな」
     ぽかんとして、すぐに、跳ねるように笑う。おかしな事は言わなかったはずだけど。これまでにも時々、こういう反応があった。なにかしらを気に入って笑うらしい甲洋の気が済むまで見ていると、決まって「笑って悪かったよ」と付け足して、次の話が始まる。
     今回も同じだった。俺が空を見上げ直した横で、はあ、ひいと深呼吸をして、ところどころ剥がれた幹に背中をくっつけている。
    「喧嘩じゃないって、剣司が聞いたらどんな顔すると思う?」
    「さあ。怒るんじゃないの」
     また笑いそうになって、拳で口にふたをする。くつくつ笑いながら立ち上がった黄土色の隅には、苔のかけらが付いていた。倣って俺も立ち上がる。まだ、空は隅まで青い。明日にはもっと綺麗な空になるだろう。もうすぐ、本格的な夏が来る。
    「とりあえず、弓子先生に元気ですって報告はしてこいよ。なんなら、ついて行ってやろうか?」
     おかしそうに歪めたままの目の隅に、ぬぐいそこねた塩水が残っている。拭いてやりたいけど、俺も地面を触っていたから、やめておく。
    「甲洋に用事がないなら、頼もうかな」
     代わりに頷いて、返事までした。来てもらえれば、帰り道をそのまま合わせられるだろう。探す手間も省けるし。
    「……やっぱり、熱でもあるんじゃないの? 病は気からっていうけど、お前の場合は逆っぽそうだし……」
    「ないよ。心配性だな、お前」
    「剣司ほどじゃないよ……」
     なんでもない会話を、続けてみたり、途中で切り上げて、宙ぶらりんのまま別の話題に移ったり。そういうのを、咎められないでいられるから、甲洋といるのはそれなりに心地がいい。
     帰り道でわかれたら、寂しくなるだろうか。今みたいにねだってみたら、家まで来て、くれるだろうか。
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