2022.01.31

　テーマパークで操を見失ってしまった。いくら言い争ったからって、あいつが大人しく待っていないなんて……よくあることだけど。今回は困る。すぐにでも出てきてほしい。
　こうなった原因は三つある。まず、軽い口論をして側を離れたこと。頭を冷やすつもりで、近くの手洗い場に入ったこと。昨夜、寝落ちしたせいでスマートフォンを充電しそびれたこと。それから、ああ、もう一つあった。操は、平均身長のせいで人混みに紛れやすいのだ。いつもなら見つけやすい薄茶色の髪も、こんな場所じゃ保護色になるらしい。
　うんとも言わなくなった板を、少々乱暴にポケットへねじ込む。連絡できないと不便だからって、容子さんが保証人になってくれたのに。一番話す操は大抵側にいるから、調べ物程度にしか使わないし、モバイルバッテリーなんか持ってない。次の機会までには用意しないと。いや、まずはあいつを見つけてやらないと。小さな頃から迷子になっては、しゃがみ込んで甲洋くん、甲洋くんって泣いてたくせに、どこに行ったんだ。
　まさか先に帰ってなんかいないよなと思いつつ、周囲を見回す。ここまでの乗り換えを覚えていないし、そう時間も経ってないから、まだ敷地内にはいるはず。すし詰めってほどじゃないけれど、行き交う人影がそれなりのせいで探しにくい。いっそ、迷子センターに頼ってみようか。それか、ここの電話を借りて、容子さんから直接連絡してもらうとか……。
　考えながら、園内放送のスピーカーを見上げると、タイミングよくジジっと鳴る。パレードにはまだ早い。宣伝する時間でもない。となると、操の他にも迷子がいるのかな。特徴を伝える参考にしようと、耳を澄ます。
『……迷子のお知らせをいたします。背中に犬さんマーク入りの、白のパーカーを着たこうようくん。お城の入り口で、お連れ様がお待ちです……』
　呼び出されてるのは俺と同じ服の子だ。白のパーカーはここの売店にもあるから何人か見かけるけど、マスコットキャラクターに犬はいないから、特徴とするには悪くない。おそろいで着ようって操がプレゼントしてくれたものだ。肝心の操は今日、寒いからって全然別の格好をしてるけど。名前は聞き間違いかもしれないし。
『繰り返します。犬さんマークの、白のパーカーを着たこうようくん。お連れ様がお待ちです。見かけられた方は、お近くのスタッフまで……』
　聞き間違いじゃなかった。こうようくんって俺か。俺だよな。城って目の前にあるやつかな。そういえばパンフレットに迷子センターがあるって書いてあったっけ。
　パーカーをさり気なく脱いで歩く。そっぽを向いてたもんだから、手洗いに行くって言ったのを聞いてなかったのかもしれない。それで、一人になって焦ったのかも。
　口論の内容なんか吹っ飛んでしまった。呼び出しは恥ずかしいが、早く迎えに行ってやらなくちゃ。
　スタッフさんに呼び出してもらう前に、半泣きの操が腹に突撃したのはまた別の話。