光の行方(仮)「お、お慈悲を…どうか……っ!」
幾億人から聞き飽きたその言葉に、この場の誰が意味を見出そうか。
複数人の兵が向ける切先に、額を地面に擦り付ける男が写る。
「どうかお願いです…!私には妻も子もおるのです…!これ以上は…生活が……」
薄汚れた着衣はところどころ破れ、隙間から真新しい傷が覗く。地に着く震える手に、血と汗がだらりと流れ着いていく。
やがて一人の兵が、ゆっくりと前に進み出た。
「…そうかそうか、お前には妻も子もいるのか」
一人の兵がそう静かに口にした。
ハッと顔を上げた男は「はい、ですから…!」と涙ながらに訴えるのを、兵は刃を向け制止する。
「それは気の毒なことだ。
ならば……
妻と子がいなければ都合が良いわけだな?」
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