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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    ガンマト。恐怖について

    恐怖の芽「あなたは私を怖いと思ったことはないのかね」
     頭によぎった疑問がするりと口から出たのは、先ほどまでの行為の勢いが残っていたからかもしれない。ガンガディアは軽くなった口を手遅れながら押さえて、横に寝転がっているマトリフを見下ろした。
    「なんだよいきなり」
     マトリフは天井をぼんやりと見上げたまま言った。その身体に幾つもの噛み跡が残っている。ガンガディアがつけたそれは、所々に血が滲んでいた。
     ガンガディアは行為中に興奮して抑制が効かなくなると、欲望のままにマトリフの身体を噛んでしまう。普段日に当たらない白い肌にその噛み跡は痛々しい。ガンガディアは再び反省の念に襲われた。
    「早く回復呪文を」
    「めんどくせぇ。明日でいいだろ」
     マトリフを大きく欠伸をすると瞼を閉じた。そのまま眠るつもりなのかとガンガディアはマトリフの肩を揺さぶる。
    「私は回復呪文を使えない。あなたの身体に傷が残っていると思うと心配で」
    「わかったわかった。ったくうるせえな」
     マトリフは目を開けないまま手を身体に当てた。詠唱もなく回復呪文が発動する。淡い緑の光に包まれたマトリフの身体から、あっという間に傷は消え去っていった。
    「すまない。もう噛まないよ」
     ガンガディアはマトリフの肩口に口付ける。少し握り込んだくらいで砕けてしまいそうな細い肩は、鋭い牙を持つガンガディアの牙に少しも怯えていなかった。
    「前にやったときも言ってたぞそれ」
     マトリフは呆れた様子もない。ガンガディアが行為の最中に牙をその肌に突き立てたときでさえ、一瞬も怯えた顔をしたことがなかった。
     思えばガンガディアは今までマトリフが恐怖を感じている顔を見たことがなかった。命をかけて戦っているときでさえ、マトリフは冷静で余裕の表情さえ浮かべていた。
    「……怖くはねえな」
     ぽつりとマトリフが言った。目を薄らと開けて、何かを思い出すような眼差しをしている。
    「愚図なトロルは恐るるに足りないかね」
    「お前がそうやって自分を卑下するのは好きじゃねえ」
     ぴしゃりと言われて苦笑する。一度ついた癖はどうにも抜けなかった。
    「すまない。だが私があなたより弱いのは事実だ」
    「だったら今のお前がオレを殺す気がねえのも事実だ」
     だから怖くねえと言ってマトリフは目を閉じてしまった。その言葉の意味を咀嚼する。
    「では私があなたと戦っていたときは、恐怖を感じていたのかね」
     あの戦いでの顔は本心を隠した仮面の顔であったのだろうか。マトリフはときに心にも無いことを平気で言うから、何が真実かわからなくなる。
    「当たり前だろ。お前みたいなタイプがオレには天敵なんだよ」
    「しかしマトリフ」
    「うるせえってんだ。オレはもう眠る」
     マトリフはシーツで身体を包むとガンガディアに背を向けてしまった。その小さな身体を見下ろす。力加減を間違えば簡単に握り潰してしまいそうなその身体を、ガンガディアはそっと抱き寄せた。
    「おやすみマトリフ。よい夢を」
     その言葉に答えるようにマトリフの手がガンガディアの指を握った。その温もりが愛おしい。翼を持つ鳥をこの手の中に閉じ込めているような心持ちになる。いっそその翼を手折ってしまいたいが、その翼があるからこそ陶酔するのだ。空へと飛び立ちもせず、この手の中にいることを選んでいる。
     マトリフの呼吸が穏やかに繰り返される。朝はまだ遠く、夜は二人を透明な檻に閉じ込めていた。
     
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