コンビニ ガンガディアは深夜のコンビニに向かっていた。そこのコンビニは昼間に利用することはあっても、深夜に来るのは初めてだった。
住宅地にぽつんとあるコンビニは、その明るさのために安心感がある。ガンガディアは広い駐車場を横切って入り口へと向かった。
ところがコンビニの入り口で数人がたむろっていた。入り口を塞ぐほどではないが、やや近寄り難い雰囲気を放っている。
それは四人連れの若者だった。まず目立ったのが筋肉質な男だ。長めの髪を束ねて髭を生やし、タンクトップに迷彩のパンツといういで立ちである。その横にいたのは黒髪の青年だった。無精髭を生やしているが、四人の中では一番若そうだ。その隣にいた女性は長い艶やかな髪を高い位置でお団子にしている。意志の強そうな視線がこちらを向いた。そして一番端にいたのは一番年長の男だ。派手なアロハシャツの胸元を大きく開けている。小柄だが纏った雰囲気がそれを感じさせなかった。
その四人が談笑をしながらコンビニの入り口の横にいた。ガンガディアはこれまで真面目に生きてきて、深夜のコンビニでたむろするような人たちとは関わってこなかった。ガンガディアは出来るだけ目を合わさないように四人の横を通り過ぎようとした。
そのとき、ちょうど店内から出てくる人物がいた。サングラスをかけた老人で、老人といっても腰が曲がったりすることもなく、大学の教授のような雰囲気である。独特な髭を生やしており、ガンガディアはその髭を二度見した。そのために老人の行く道を塞いだ形になる。ガンガディアは慌てて道を譲った。
「おっせぇよジジイ」
「遅いですよ父様」
その二つの声は同時だった。思わず見れば先ほどの四人組の、アロハシャツの男と女性が言ったようだった。どうやらこの老人は四人組の連れらしい。
「鉄拳制裁」
老人が言いながらアロハシャツの男の頭に手刀を振り落とした。脳天にチョップを受けた男が頭を押さえて踞っている。
「あんまり遅ぇんで、徘徊老人として通報するところだったぜ」
アロハシャツの男がさらに言う。どうやらこの男は減らず口らしい。無精髭の青年とタンクトップの男が老人とアロハシャツの男の間に入って宥めていた。
「マトリフは明日のおやつ無しだ」
老人の言葉にアロハシャツの男、マトリフは口を曲げた。
「あんたがおやつを準備したことなんてねーだろ!」
「明日の分のおやつのプリンならもうディードックが食べちゃったぞ」
「まぞっほてめぇ、裏切りやがったな!」
「プリンならさっき買ったからガタガタ騒ぐんじゃないよ!」
「姉さんあざっす!」
騒がしくなった四人組と老人にガンガディアはドン引きしていた。関わらなでおこうと思ったのに、ついやり取りを聞いてしまった。
「ジジイは何買ってたんだよ」
マトリフがまた老人に突っかかっている。そのせいでコンビニの入り口が塞がれてしまった。
「おでん」
「どれどれ」
マトリフが老人の持つ袋を覗き込んだ。
「たまごだけかよ」
「おつゆ多めでカラシも付いている」
「コレステロールの摂取量考えろよ」
ガンガディアはコンビニに来たことを後悔していた。やはり肉まんは明日にすればよかった。
「あんたたち邪魔だよ。その人が入れないじゃないか」
女性がマトリフの膝裏を蹴りながら言った。お陰でマトリフと老人が入り口から退いた。
「悪いね」
「いえ、ではこれで」
ガンガディアはさっとコンビニに入ろうとしたが、老人に腕を掴まれた。
「えっ」
「きみ、この後は空いているかな?」
「いや……」
老人は老人とは思えないほどの力でガンガディアを引き止めている。ガンガディアは自慢ではないがかなり鍛えているほうだ。それなのに動けない。
「私たちはこれからボウリングをするのだが、きみも来ないか?」
「通りすがりのマッチョを誘うんじゃねえよ」
「こんな時間からボウリングを?」
このギュータ地区は田舎である。深夜にやっている店なんてこのコンビニくらいしかないのだ。
「私の家の地下を改造してボウリング場にしたから、これから教え子たちとボウリングするのだ。きみも来るといい」
ガンガディアは断る暇なく老人に引きづられていく。結局ガンガディアはコンビニで知り合った四人組と老人とで、朝までボウリングをすることになった。肉まんは買えなかったが、おでんのたまごは貰えた。