プール 若者のはしゃぐ声が聞こえる。跳ねる水音は軽やかだった。陽射しはさんさんと降り注ぎ、夏の匂いが漂っていた。
だがマトリフの視界は真っ暗に閉ざされていた。腕は胴体ごと縛られている。その姿は楽しげなプールサイドには似つかわしくないものだったが、自業自得でもあった。
アバンたちは揃ってプールに来ていた。知り合いからオープン前に誘われて、貸切状態で遊んでいたのだ。マトリフも水着を着て遊ぶのかと思いきや、プールサイドに陣取って、目の保養とばかりににやけて若者たちの水着姿を眺めていた。だがその視線だけでも御用となった。マトリフは目隠しをされた上にチェアに縛り付けられてしまった。
「ちぇっ……」
せっかくの楽しみを奪われてマトリフは不貞腐れた。そのマトリフに影が差す。マトリフも気配に気づいて顔を上げた。
「どうしたのかね、大魔道士」
その声に来たのがガンガディアだとわかる。マトリフは肩をすくめてみせた。ガンガディアも大体の察しはつく。
「かき氷を貰ってきた。食べるかね」
「縄を解いてくれるならな」
「それは君の行動次第だが」
「わかったよ。お行儀良くすりゃいいんだろ」
マトリフがそう言うと体を縛っていた縄が解かれた。次に目隠しも取られる。マトリフは眩しさに手で目を覆った。するとガンガディアが太陽を遮るように立った。
「イチゴ味とブルーハワイだが、どちらがいい?」
ガンガディアも水着を着ていた。両手には大きなかき氷を持っている。
「ブルーハワイ」
手渡された大きなかき氷にスプーンを立てた。ガンガディアはマトリフの隣に座ってかき氷を食べ始める。
「おまえも泳ぐのか?」
「客目線で感想が欲しいと言われたのでね。これも仕事の一環だ」
このリゾート地を手がけたのはハドラーの会社だ。そこの社員であるガンガディアに誘われてマトリフは来ていた。
「じゃあこれ食ったらあのスライダーに乗ろうぜ」
マトリフはすぐそばにあるドラゴンの姿を模したスライダーをスプーンで指し示した。先ほどアバンとロカが乗っていたものだ。派手な水飛沫を上げてる音と、はしゃぐ声が聞こえていた。
「君は泳げたかね?」
「だから一緒にやろうって言ってんだろ」
口を開けて笑うマトリフの舌が青く染まっていた。手に持ったかき氷はじわりと溶けていく。