触手 詳細は割愛するが、ダンジョンに入ったら触手に襲われた。マトリフは今まさに身体中を触手に拘束されている。
法衣の上から巻きついている触手は絶えず蠢いていた。手足が引っ張られて体勢が保てず、持ち上げられた身体は床から浮いていた。触手は何かを探すようにマトリフの身体のあちらこちらを嗅ぎ回っている。触手はひやりと冷たく、じっとりと湿っていた。
触手は一見すると植物のようだった。マトリフはそれが魔界の植物だと思い、近付かないようにしたのだが、足元にあった蔦がいつの間にかマトリフの脚に絡みついていた。
逃げたくてももはや手遅れだった。触手はマトリフの全身に絡みつき、身動きが取れなくなっている。さらには毒でも出しているのか、身体は徐々に痺れていた。太い触手に口を塞がれ、叫び声さえもくぐもっている。こうなったら呪文でダンジョンを脱出するしかなかった。
「ッ!!」
マトリフの身体が大きく揺れた。この感覚は魔力を失っているときのものだ。触手が魔力を奪っているのか薄く輝いて見える。
「ふッ、くぅ……」
魔力を奪う呪文も存在するが、それとはまた違う感覚だった。触手は先端の口を開けてマトリフの脚に噛みついているらしく、そこから魔力を吸っている。体内の魔力が奪われていくのを感じるが、そこにはなんとも言えない心地良さがあった。
「……ぁ、あっ……」
魔力が体外へ放出されるのは、射精に似た快感だった。それは脳に直接響くような心地がする。このまま吸われ続けて魔力を失えば逃げ出すことは不可能になるが、この快感を自ら終わられることができなかった。
触手はさらに増えていく。先ほどの植物に似た緑の蔦のような触手は捕食のための罠で、本体はさらに奥にあるらしい。薄赤い肉厚な触手がマトリフに伸びてきた。
マトリフは身体を捻って逃れようとするが、痺れた身体は動かない。そうしている間にも魔力は吸われ続けていた。快感のためか目には涙が滲んでいる。このままでは脳が蕩けそうだった。