銀雪 久しぶりに会ったマトリフはガンガディアを見て笑みを浮かべた。しかし彼はベッドに座ったままで、見慣れた法衣も着ていない。彼の体調が思わしくないのだと気付き、ガンガディアは表情を曇らせた。
「どうしたんだよ。こっち来いよ」
マトリフは苦笑して手招きする。その横に緑の服を着た少年がいて、驚いたようにガンガディアを見上げていた。
「え……師匠……知り合いかい?」
少年はマトリフを見る。マトリフは可笑そうにくつくつと笑い、少年にガンガディアを紹介した。マトリフはガンガディアにも少年を紹介し、その少年が弟子だと言った。すると少年は人懐っこくガンガディアに話しかけてくる。その様子にガンガディアは軽やかな意外性を感じた。
「……君が弟子を取るとはね」
お茶を淹れに行ったポップの後ろ姿を見ながらガンガディアが言う。マトリフは「まあな」と言って首筋を撫でた。
「で、お前はどうしてたんだよ?」
「魔界で勉学に励んでいた」
「勉学ね……こっちは大変だったんだぜ? 三流魔王どころか大魔王まで出てきやがって」
「そのせいで身体を悪くしたのかね」
「もう歳だっての。これでも長生きし過ぎたくらいだ」
ガンガディアはマトリフをじっと見つめる。たった数年会わなかっただけなのに、マトリフは見てわかるほどに歳を重ねていた。肉が落ちたせいか目尻にも頬にも皺が刻まれている。まるで年月が彼を侵食していくようだった。愛おしさと悲しみが同時に胸を満たしていく。
「なんだよ」
「いや……」
ガンガディアはマトリフの髪に手を伸ばす。以前は下ろしていた髪は、後ろへと撫で付けられていた。どうしてもその髪に触れたいという衝動が起る。
「……とても似合っている」
ガンガディアは本心のままに言ったのだが、噴き出すような声が聞こえた。見ればポップが踞って震えている。
「ああ、そうかい」
マトリフは慣れているから軽くあしらう。初めの頃こそガンガディアの賞賛に照れてもいたのだが、いつのまにか言われ慣れてしまっていた。
だがポップはまだ踞ったままで、何かに耐えるように小刻みに震えている。
「君の髪は太陽に照らされた銀雪のようだ」
「あいつのHPがゼロになるからその辺にしとけ」
「まだ言い足りない」
ガンガディアは会えなかった時間を埋めるように賛辞の言葉を並べ立てる。穏やかな午後の陽射しが緩やかに洞窟を照らしていた。