誘惑「ここにいたのかね」
ガンガディアはようやく探し当てたマトリフに駆け寄る。地底魔城は迷路のように入り組んでおり、人を探すのには苦労する造りだった。
マトリフは手に酒瓶を握っていた。足元には空の瓶が転がっている。また食糧庫からくすねてきたのだろう。
「会議があると伝えていただろう。あなたが来ないからハドラー様がお怒りだ」
「マジでお前ら会議とかしてんのかよ」
馬鹿にしたように笑うマトリフは酔いために顔を赤らめ、緩んだ眼差しをこちらに向けていた。その表情にガンガディアは動揺するが、マトリフに悟られないように押しとどめる。
「あなたも魔王軍の一員になったという自覚を持ってもらいたい」
ガンガディアはマトリフの手から酒瓶を取り上げる。不満そうな声が上がるが、それもいつものことだ。
マトリフはガンガディアとの戦いに負けて魔王軍に降った。それなのに毎日酒ばかり飲んで、会議すら出ない有様だった。このままではいつハドラー様の怒りが爆発してもおかしくない。
「さあ立って。急げばまだ会議に間に合う」
「なんだよ、まだ終わってなかったのかよ。お前こそなに抜け出してんだ」
「あなたを探すために大事な話し合いを抜けてきたのだよ」
立ち上がる気のないマトリフをが掴み上げ、肩へと担いだ。
「……色気のねえ抱き方」
ぼそりとマトリフが呟く。ガンガディアは気にせず部屋を出て階段を降りていく。
「なあ」
マトリフが間延びした声を出す。マトリフは担がれた肩で揺られながら、すぐそばにあったガンガディアの耳に触れてきた。
「会議なんかより……もっとイイコトしようぜ」
言いながらマトリフがガンガディアの鋭い耳を甘噛みしてきた。
ガンガディアは足を止める。顔中に血管が浮かび上がっているのが自分でもわかった。だが誘惑に乗ってはいけない。
するとマトリフは股間をガンガディアに押し付けた。
「酔ってるから勃たねえけどよ……後ろなら好きにしていいんだぜ」
昨夜みたいにな、と駄目押しのように囁かれた。
ガンガディアは込み上げる欲望に唸り声を上げて拳を壁へと叩きつけた。その振動が地底魔城全体に伝わっていく。壁は大きく崩れ、砂塵がもうもうと立ち込めた。
「……今は駄目だ。大事な会議がある」
するとマトリフはつまらなさそうに肩をすくめた。
「じゃあオレは会議は欠席な。昨夜のせいで腰が痛え」
「そ、そうなのかね」
「そうなんだよ。なんだか身体も熱くってな……まだお前のデカチンがここに入ってる気がする」
ゆっくりと腹をさするマトリフに、昨夜の姿が重なる。ガンガディアはまた咆哮を上げて壁を殴りつけた。このままだとガンガディアのせいで地底魔城が崩落しそうだ。