そしてこのあと無茶苦茶4Pした ガンガディアは目の前に並ぶ三人のマトリフを見下ろした。三人だ。よく見れば年齢が異なるのだとわかる。その三人のマトリフがニヤニヤとガンガディアを見上げていた。
ちょっとした時空の歪みから同じ人物が複数人存在する怪奇現象が起こった。そのためにマトリフは三人になり、なぜかそろってガンガディアのところへ来た。一人はガンガディアのよく知るマトリフだ。もう一人はそれより若く、えりあしを刈り上げにしている。もう一人は年齢を重ねたマトリフで、こちらは髪型をオールバックにしていた。
三人が何かを企んでいるのは一目瞭然だ。一人でさえガンガディアを翻弄するのに、三人となればその三倍。いや、もっと大変なことになるだろう。すると一人のマトリフがこう言った。
「オレたちの誰が好みだ?」
「……なんだって?」
「だから、三人のオレのなかで、おめえは誰が好みなんだよ」
あなたが落としたのは金の斧ですか、それとも銀の斧ですか。昔ヒュンケルに読んでやった絵本に書かれた文言が頭をよぎる。いや、マトリフは斧ではないし、泉に落としてもいない。
「私はどの大魔道士も好ましく思って」
「そういうのいらねえんだよ。誰か選べ」
老年のマトリフがピシャリと言う。すると若いマトリフは興味津々と言う風にガンガディアに話しかけた。
「あんたデストロールなんだってな。オレははじめて見たぜ」
若いマトリフは他の二人にはない純粋な眼差しを持っていた。はじめて見るマトリフのそんな様子にガンガディアは気持ちがグラつく。
「おいおい、まさか若いのが好みなのか? おまえは知識が好きなんだろ。だったらオレが一番だよな?」
老年のマトリフがすかさず言う。ガンガディアが知るマトリフよりもさらに深みを増した魔法力、そして老獪な表情はガンガディアを惹きつけた。
「なんだよ……オレじゃねえのか?」
ガンガディアのよく知るマトリフがぽつりとこぼした。その寂しそうな表情にガンガディアはたまらず手を伸ばした。
「すまない。私は真っ先に君に手を伸ばすべきだった」
ガンガディアはマトリフをぎゅうぎゅうと抱きしめる。そして残った二人に言った。
「どの大魔道士も好ましく思う気持ちに偽りはない。だが若い大魔道士よ。君は君の人生を歩み、いずれ私に出会う。そのときを待っている。そして未来の大魔道士よ。君のそばに私がもういないとしても、君が生きていることを私は嬉しく思う。たまに私を思い出してくれ」
三人のマトリフは揃ってガンガディアを見つめた。そしてニヤリと口の端を上げて笑った。
「残念」
揃った声と共に煙が上がる。それがモシャスを解除した時のものだとすぐに気付いた。
ガンガディアは抱きしめていたマトリフを見る。そこには年若いマトリフがいた。そして先程まで年若いマトリフだったのは老年のマトリフで、老年のマトリフはガンガディアがよく知るマトリフだった。三人は年齢の異なる自分にモシャスをしてガンガディアを謀っていたようだ。
「……あぁ」
ガンガディアは天を仰ぐ。マトリフが三人集まればいつもの何倍も面倒くさい。三人のマトリフはニヤニヤと笑ってガンガディアの反応を喜んでいた。
「で、なんだっけ? 未来で出会うのを楽しみにしとけばいいのか?」
年若いマトリフには純粋な視線など存在せず、こちらを揶揄うような腹立たしい表情で笑う。
「ちなみにオレんとこのガンガディアはピンピンしてるぜ。うるせえから連れてこなかったけどよ」
老年のマトリフは指で鼻をほじくりならが憎たらしく言う。
「本物のオレが見抜けないとはな。ま、それだけオレのモシャスが完璧だったってことか」
軽薄に笑うマトリフにガンガディアの額がビキビキになる。どうせ言い出しっぺはこのマトリフだろう。常日頃からガンガディアを小手先で弄んでくる小賢しい大魔道士。もうガンガディアの我慢は限界だった。
「うわっ」
「え?」
「てめぇッ、下ろしやがれ!」
ガンガディアは三人のマトリフをつまみ上げた。ガンガディアからすれば容易いことだ。三人のマトリフはガンガディアの腕に抱き込まれて寝室へと連れて行かれた。