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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    ガンマト。敵同士の二人。風邪っぴきマトリフがガンガディアに連れ去られる。作業用BGM「からっぽのまにまに」

    君と一緒にいる未来が見えた気がした マトリフの異変に最初に気づいたのはロカだった。最後尾を歩いていたロカは、前方のマトリフの歩く速度が遅くなっていると気付いた。
    「大丈夫かマトリフ。背負ってやろうか?」
     マトリフは高齢ゆえに体力がない。これまでに何度も彼を運んだ経験があるロカは迷わずに言った。だがマトリフの顔を見てロカは驚く。それはただ体力切れではない顔色の悪さだった。
    「ああ……わりぃ……」
     マトリフは足を止めたが、体がふらふらと揺れていた。そもそも、いつもなら自分から「疲れたから運べ」と言ってくるマトリフである。それが憎まれ口も叩けないのか、帽子を脱いで汗を拭っていた。
    「おい、調子悪いのか?」
     ロカは思わずマトリフの体を支えた。そうでもしないと今にも倒れそうだったからだ。その触れた体が熱い。布越しでもその体温の高さが伝わってきた。
    「どうかしましたか?」
     先頭を歩いていたアバンが戻ってきた。レイラはマトリフの状況に気付き、回復呪文をかけている。しかし回復している様子がない。アバンは手袋を外してマトリフの額に触れると、その体温の高さに眉間に皺を寄せた。
    「風邪でしょうか。近くに村は……」
     ここは山岳地帯で風が強い。目的地がマトリフのルーラで行けないためにここ数日は歩き詰めだった。アバンは地図を確認する。そして指先が止まった。
    「ここから少し行った場所に村がありますね。とにかくそこまで進みましょう」
    「……寄り道したら遅れちまうだろ」
     マトリフは近くの岩に座り込んでいた。手で顔を覆っている。もし体調を悪くしたのが他の誰かなら、マトリフは迷わず体調回復を優先させただろう。熱のせいなのかいつもの判断力すらあやうくなっていた。
    「ほら、背中に乗れよ」
     ロカは屈むとマトリフに背を向けた。マトリフは一瞬躊躇ったものの、大人しくロカの背に乗った。ロカは立ち上がるとマトリフの脚をしっかりと持つ。
    「できるだけ揺らさないようにするけど、何かあったら言ってくれよ」
     ロカが言うとマトリフはこくりと頷いた。そのままロカの肩に頭を預けている。
     そこから数時間かけてアバンたちは村にたどり着いた。マトリフはロカの背でうつらうつらしていたようだ。アバンとレイラは村の医者を探したが、小さな村だからか医者はいなかった。
    「困りましたね」
    「寝てりゃ治る……」
     マトリフがロカの背で言う。だんだん調子が悪くなっているのか声が弱々しかった。
    「そうですね。とりあえず宿屋で休みましょうか」
     村には一軒だけ宿屋があった。マトリフはベッドに寝ることができたが、それだけで回復できるとは思えなかった。マトリフは寒いのか布団にくるまって身を丸めている。ロカは布団を集めるとマトリフにかけてやった。
    「この先に大きな街がありますが、往復には一日はかかりそうですが……」
     アバンが地図を見ながら言う。マトリフのルーラがあれば医者のいる街まですぐに行けるが、そのマトリフ当人が病人だ。歩くことさえままならないのに呪文は使えない。キメラの翼もちょうど使い切ったところだった。この町の道具屋も品切れだという。
     そこでアバンとレイラで医者を呼びに行き、ロカはマトリフの看病のために宿屋に残ることになった。マトリフはパーティーを分断すべきではないと言い張ったが、その案は却下された。
    「何か食べるか?」
     ロカはたずねるがマトリフは首を振る。食欲がないらしい。それどころか吐き気があるのか口元を押さえていた。
    「気持ち悪いのか?」
     マトリフは苦しげに目を閉じている。ロカは水差しを手に取ってコップに水を注いだが、マトリフは小さく首を振ってそれを拒んだ。
    「いらねえ……いいから放っておけ……」
    「けどよ」
     その時だった。遠くで爆発音が響いて窓ガラスを揺らした。ロカはすぐに窓を開けて外を見る。すると村外れで煙が上がっていた。見れば魔物の群れが見える。
    「こんな時に」
     ロカはすぐに剣を手に取ったがマトリフを見て迷った。自分が離れればマトリフが一人になる。今の状態のマトリフが魔物に出くわせばなすすべがなかった。
    「……数は」
    「え?」
     突然言われてロカは戸惑った。マトリフが目を開けてロカを見ている。
    「どれくらいいるんだ?」
    「えっと、ゴーレムが五匹くらい」
    「おまえ一人でできるか?」
    「そりゃ、あれくらいなら一人で倒せるけどよ」
     力勝負で勝てる相手ならロカに分がある。マトリフは体を起こすと追い払うように手を振った。
    「オレのことなんかほっといて行け。一人でなんとかする……」
    「こんな状態で一人にするなんてできないだろ!」
     ロカがつい大声で言うと、マトリフはうるさいという風に顔をしかめた。
    「このお人好しが……魔物が村に入って来たら厄介だろうが。とっとと行って倒してこい」
     マトリフはマントを身につけて杖をそばに置いた。確かに村を襲われては元も子もない。
     ロカは仕方なく剣を掴むと部屋を飛び出した。マトリフを一人にするのは不安だが、町も守らなければならない。
     だが、ロカが魔物たちを倒して戻ってきたときに、マトリフの姿はなかった。すると宿屋の主人が青褪めながら、マトリフは魔物に連れ去られたと言った。
    「ここにも魔物がいたのか!?」
     ロカは魔物を村に入れる前に全て倒した。そしてすぐに戻ってきたのだ。村は荒らされた様子もない。宿屋の主人は恐怖に震える声で言った。
    「大きな……青いトロルが空から降りてきて……」
     その言葉にロカは息を呑んだ。青いトロル。魔王軍のガンガディアだ。

     ***

     ガンガディアは小さな宿屋を見下ろす。勇者一行がこの村に訪れたが、アバンとレイラだけが村を離れたと報告を受けていた。戦力が分散されている好機を逃さないために、ガンガディア自らが赴いてきた。部下に村の外れで暴れさせて様子を伺うと、戦士だけが飛び出していった。ならば宿屋に残るのは大魔道士だけということだ。ガンガディアは思惑通りに事が運んで笑みを浮かべた。
     ガンガディアはトベルーラで宿屋の前に降り立った。突然空からきたガンガディアに村の者たちが悲鳴をあげる。
    「大魔道士」
     ガンガディアの声からやや遅れて、宿屋の窓からマトリフが姿を見せた。いつもの帽子は被っておらず、窓枠に手をついて俯いている。
    「魔物の相手は戦士に任せっきりかね。それとも私が来ると予想していたか?」
     ガンガディアは内心の興奮を抑えるために眼鏡に手をやった。ガンガディアはずっとマトリフと戦いたいと望んでいたからだ。それがサババ以降は消息が掴めず、居場所が知れてもいつもマトリフのルーラで逃げられていた。
    「ああ……おまえか……」
     マトリフの覇気のない声にガンガディアは感情が激昂する。歯牙にも掛けないと言わんばかりの態度に、ガンガディアの額には血管が浮かぶ。
    「おや、相手が私では不服かね。これでも君の呪文への対策はしてきたのだがね」
    「……ご苦労なこった……はぁ……ちょっと待っとけ」
     マトリフは緩慢な動きで窓枠に足をかける。そのままふらふらとトベルーラで飛んできたと思ったが、ゆっくりと下降して地面に落ちた。
    「……何をしている。飲酒でもしているのかね」
     ガンガディアはマトリフの様子がどうもおかしいと気付いた。マトリフは立ち上がれないのか地面に手をついている。
    「ちょっと待って言ってんだろ……」
     回復呪文の光がマトリフを覆う。どこか怪我でもしていたのかと思ったが、回復呪文の光がやんでもマトリフは立ち上がらなかった。それどころか余計にゼイゼイと息を荒くしている。あまりの様子にガンガディアは訝しげにマトリフを見下ろした。
    「戦う気がないのかね」
    「うっせぇ……くそ……」
     マトリフはなんとか立ち上がった。だがやはり様子がおかしい。いつもの余裕たっぷりの表情はなく、立っていることさえ苦しいようだった。手には魔法力が集まっているが、それが呪文として形成されることはなく、不安定に揺らいでいた。
    「……もしかして体調でも悪いのかね」
     ガンガディアはマトリフが人間であると思い出した。最初から知ってはいたが、それを強く意識した。人間は外部からの刺激に弱く、病気になりやすいという。あれほど強大な呪文を操れるマトリフでさえ、ただの人間のように病には弱いということか。
    「……だったら、どう……」
     マトリフの体が大きく傾いた。糸が切れた操り人形のように無防備に倒れていく。
     ガンガディアは思わずその体を手で掴んでいた。そして掴んだ体があまりにも細くて驚き、掴む力を弱めた。そうしなければ折れてしまうと思ったからだ。
    「大魔道士?」
     マトリフの目は閉じていた。意識がないようだ。ガンガディアはそこで、これは大魔道士を殺すまたとない機会であると気付いた。今だけではない。先ほどからマトリフの調子が悪いと気付いていたのだから、ここぞとばかりに攻撃すればよかったのだ。今なら指先だけで殺せるだろう。意識がないのだから反撃してこない。防御力などガンガディアからしたら皆無と言っても過言ではなかった。
     ガンガディアは手の中のマトリフを見つめる。目を閉じて何の反応もない。手に力を込めようとして、ガンガディアはそうでは無いと気付いた。
     ガンガディアはただ大魔道士を殺したいのではない。勝負に勝ちたいのだ。豊富な呪文と知恵を操る大魔道士に、純粋に勝ちたいのだ。
     ガンガディアは意識のないマトリフを見下ろす。ガンガディアはその体を壊さぬように握ると呪文で飛び上がった。

     ***

     マトリフは意識を取り戻した。ぼんやりとした視界に、青い背が映る。ガンガディアだと思って起きあがろうとしたが、頭が少し浮いた程しか動けなかった。
    「気がつきましたか」
     その声に視線だけを動かす。そしてそこが屋内であり、声をかけてきたのが青年だと気付いた。青年は青いマントを身につけており気遣わしげにマトリフを見ていた。他には誰もおらず、さっきマトリフがガンガディアだと思ったのはこの青年の青いマントのせいらしい。
    「っ……」
     なぜ自分がここにいるのかわからずマトリフは混乱する。自分はガンガディアと戦おうとしていたはずだ。マトリフは外の様子を伺おうとするが窓は遠かった。だが戦闘の喧騒は聞こえてこない。
    「ここは病院です。もうすぐ薬が届きますよ」
    「オレは……なんでここに?」
    「街外れに倒れているのを見つけたので、ここまで運んできたのです」
    「あんたが?」
    「ええ」
     すると部屋に白衣を着た男が入ってきた。男は医者らしく、手に持った盆には薬が乗っている。男はマトリフの熱を測ったり脈を取った後に、薬を飲んでよく休むように言った。青年は盆に乗った薬をマトリフに渡す。風邪によく効く薬草と、体力を回復させる薬草を煎じたものらしい。
     青年はマトリフの背に手をそえて起こすと、水を渡してくれた。マトリフは顔を顰めながら苦い薬を飲み込む。それが済むと青年はまたマトリフに手をかしてベッドに寝かせた。
     青年は水に濡らした布を絞るとマトリフの額に乗せた。その甲斐甲斐しい様子に、マトリフは視線だけで青年の姿を追った。
    「……オレのほかに誰かいなかったか?」
     青年は動きを止めるとゆっくりとマトリフを見た。
    「誰かとは?」
    「青いトロル」
    「……見ていませんが」
     青年は毛布を手に取るとマトリフにかけた。その手つきが思いにほか優しく、マトリフは熱のある頭でまとまらない考えを巡らす。すると青年が立ち上がった。
    「私はこれで……」
    「待ってくれ」
     立ち去ろうとした青年の手をマトリフが掴む。青年は酷く驚いたように目を見開いていた。青年はマトリフの手を見ながらも振り払えずにいる。マトリフはその手をできる限りの力で掴んだ。
    「……いいのか」
    「何がでしょう」
    「敵に塩を送るような真似をして」
     いくら姿形を変えたとしても魔法力は変わらない。そしてマトリフはガンガディアの魔法力を覚えていた。だからこの青年がガンガディアであるとわかっていた。
    「何のことだか」
     青年はマトリフの手を外すと布団へと戻した。そのまま背を向けて部屋を出ていく。ガンガディアの意図はわからないが、マトリフにとってはありがたい状況だった。このままガンガディアが去ってくれれば、何事もなく終わる。
     だが、マトリフは動かぬ体でベッドから降りた。素足が板張りの床に触れる。
    「理由くらい言えよ」
    「……万全の状態でない君に勝っても嬉しくない」
     ガンガディアは振り向かないままで言った。取り繕う事をやめたらしい。
    「そんな事が言える余裕があんのかよ」
     マトリフは膝に手をつきながらガンガディアを見上げる。人間に化けてはいるが、表情はガンガディアのままだった。その目付きも、苛立ちで血管を浮き上がらせるところも同じである。ガンガディアはマトリフの腕を掴んで床に押し倒した。
    「思い上がるな」
     ガンガディアはマトリフの顔の横に拳を叩きつける。鼻先が触れ合うほどの距離にガンガディアの顔があった。激昂のせいでその姿がデストロールに戻ってく。マトリフは頬に笑みを浮かべてそれを見ていた。
    「そんな状態の君は私が憧れた大魔道士ではない」
    「いいぜ、治ったらオレがお前を燃やしてやる」
     マトリフは愉快な気分だった。突然に押し倒されて後頭部を打って胃の中身をぶち撒けそうだったが、その激情の瞳が自分を映していることに笑みが浮かんだ。
     そのとき階下から声が聞こえた。
    「何かあったようですね」
    「見に行きましょう」
     その二人の声にマトリフはこの街がどこか知った。ガンガディアもその声の主に気付いたようだ。ここは医者を探したアバンとレイラが立ち寄った近くの街らしい。
    「早く行けよ」
     マトリフがガンガディアに言う。駆け足で階段を上がってくる足音がする。ガンガディアは立ち上がると窓に進んだ。
    「またな」
     ガンガディアはそれには答えなかった。マトリフを一瞥すると開け放った窓からキメラの翼を使って去っていく。
    「どうしました」
     扉を開けて入ってきたアバンに、マトリフは手を上げる。アバンは村に残っているはずのマトリフが床に倒れている事に目を丸くした。
    「どうしたんですか。どうやってここへ?」
     アバンに手を貸してもらってマトリフは立ち上がる。開け放った窓から風が入ってカーテンを揺らしていた。飲んだ薬のせいかひどく眠い。アバンに説明しなくてはと思うが、瞼は殆ど閉じかけていた。
    「へへ……親切なトロルが助けてくれてよ」
     マトリフは夢と現の間で遠い光景を見た。それは波の音が聞こえる洞窟で、ガンガディアと一緒に過ごす光景だった。おかしな夢だと思う。だがそんな未来がいつか本当になるような気がして、マトリフはその夢を見ようと目を閉じた。

     ***

     ガンガディアは本棚を前にして立ち尽くしていた。あのままキメラの翼で地底魔城へと帰ってきて、自室へと閉じこもっていた。
     ガンガディアの手は本棚に並んだ背表紙に触れたまま動かない。本を見ながらも考えていたのはマトリフのことだった。今になって、やはり殺しておくべきだったのではという思いが駆け巡る。それが魔王軍にとっては最良の選択だった筈だ。ガンガディアは私欲に流されて任務を全うできなかった。
    「おい、ガンガディア。戻ったのか」
     扉の向こうからハドラーの声がする。ガンガディアは扉を開けてハドラーを迎え入れた。
    「申し訳ありません。大魔道士を殺し損ねました」
     ガンガディアは項垂れる。重い罰も覚悟していた。あの状況で取り逃がしたなど、許されないことだった。ハドラーは意気消沈したガンガディアを見て表情を変えた。
    「……ふん、それほど強いのか。その大魔道士とは」
    「強いです」
    「ではオレが行ってきてやろう。まさか続けて魔王自らが来るとは思ってもみないだろうからな」
     意気揚々と踵を返したハドラーに、ガンガディアは咄嗟に肩を掴んで止めていた。
    「なんだ」
     ハドラーが振り返ってガンガディアを睨む。
    「失礼しました。ですが今は……」
     ガンガディアの脳裏にマトリフの様子が浮かぶ。治療を受けたとはいえ、そんなに早く回復するわけではないだろう。熱に赤く染まった顔でこちらを挑発する様に笑う顔が思い出される。なぜかマトリフはガンガディアを怒らせた。そのせいでモシャスが解けて本来の姿に戻ったというのに、それを喜んでいるようだった。理解できない。命を賭して遊んでいるのか。
    「今は……奴らも追撃を警戒しているでしょう。こちらに居場所が知れたので移動していると思われます」
    「……ふん、つまらん」
     ハドラーはそう言うと去っていった。勇者一行への出撃はやめたらしい。そのことに安堵してガンガディアは息をついた。そしてその事に頭を抱える。またマトリフを助けるような事をしてしまった。
     ガンガディアは眼鏡を取り去ると咆哮を上げた。なぜか胸が熱くなる。マトリフの事を考えると血液が沸騰するようだった。それが身体中をめぐってあらゆる感覚が呼び覚まされていく。冷静さなど解けきって流れていってしまった。
    「大魔道士!」
     これは怒りだ。焦燥だ。いつかあの大魔道士をこの手で叩きのめして、そうして一握りの幸せを得るだろう。
    「待っていろ……私がこの手で殺してやる」
     ガンガディアは習得した呪文でマトリフを倒すことを想像した。マトリフの顔が苦痛に歪む。己の無力を感じて死んでいくのだ。
     するとガンガディアは胸に痛みのようなものを感じた。不思議に思って胸に手をやる。まるで潮が引くように気持ちが冷めていった。
     ガンガディアは胸をおさえていた手を見る。その手が先ほどマトリフに掴まれたことを思い出した。マトリフの熱い手にガンガディアは何かを感じた。だがそれが何かを知る前に失われてしまった。その正体を知ることはない。
    「すぐに会うだろう……長くは待つつもりはない」
     ガンガディアは一冊の魔導書を手に取る。マトリフを倒すにはこの呪文が不可欠だった。だが目は文字を滑る。やはりマトリフのことが頭から離れないのだった。


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