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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    クロアジ

    雨が降ったら傘をさしてあげるのが愛だと思うんです それはいつもの憂鬱な午後のことでした。私はたまたま古書店の前を通りかかりました。朝からいいお天気で、でも急に黒い雲が空を走るようにしてこちらへやってきていました。
     そうしたら間も無く雨が降り出しました。人々が雨から逃れるように小走りに駆けていきます。その二人に目がいったのは、その二人が周りのように慌てていなかったからでしょうか。
     その二人は対照的な見た目でした。赤毛で黒い服を着た彼と、白髪で白い服を着た彼。私は自分が雨に濡れているにも関わらず、その二人から目が離せませんでした。
     黒い彼が白い彼へ手を向けていたからです。ただ向けているのではありません。まるで傘をさしてあげているような、そんな手の感じだったのです。
     そして驚くことに、白い彼は全く濡れていませんでした。本当に黒い彼が傘を刺してあげていて、それが透明な傘なのかと思うほどでした。
     しかし私が瞬きをした間に、黒い彼は傘を手に持っていました。まるで最初から傘をさしていたかのようです。きっと光の具合で、そんなふうに見えたのでしょう。
     しかしそのために傘をさす黒い彼の肩は濡れていました。傘を全て白い彼へと向けているからです。濡れそぼった薄い肩は見ているこちらが気の毒に思うほどでした。
     ところが、また私が瞬きをした間に変わってしまったんです。さっきまで濡れていた黒い彼の肩は、まるで何事もなかったかのように乾いていました。黒い彼の背に白い彼の手が優しく触れていました。
     私は小さな奇跡を見たようでした。雨が降り始めたときの、ほんのちょっとした奇跡です。
     二人は一本の傘に身を寄せ合って歩いていきました。どこからか小鳥の声がします。急な雨でしたから、小鳥も驚いたのかもしれません。それとも、二人のために鳴いたのでしょうか。だってどこか嬉しそうな声に聞こえたのです。




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