世界は、まるで「シュウ」
呼び掛けた。そっと手を伸ばした。
その手が、彼の背中に追いつく前に。
影が、ゆっくりとこちらを向いた。
その手は虚しく空を切った。
「なに?」
鈴のように愛らしい音色が、耳の奥で鳴った。
いつまで経っても新鮮で、不意に泣きそうになる。
400年生きていても、こんなことは初めてだった。
かけがえのない、愛しい人。
背中にかかった、虹のような羽。
全てがきっと、彼を彼としているもの。
「なんでもない」
口にして、その瞬間に笑った。
気がつけばあと少しで流れていた涙を誤魔化すように。
眼の前の彼は、大きな瞳を微かに見開いた。
そして不思議な表情を浮かべた。
「…どうしたの」
それは、泣き笑いみたいな顔。
眉はハの字で、瞳は涙を湛えているようで。
499