兵部吸血鬼パロ頸動脈を探し当てるのは容易いことだ。
何度となく血を吸った目の前の男のそれがどこにあるか、僕はとうに把握している。傾けられた首に口を近づけ、息をするように噛み付く。痛みは無いと知っているにもかかわらず未だ強ばる肉を嗤い、深い香りを味わう。
血を求めるなど醜悪な呪いだと思っていた。
それがどうしてか心躍る。
これが番を手に入れるということか。
ヒトだった時に比べると、幾分か味わいは落ちた気がする。だがこの男がここに、永遠を過ごす同胞として存在することがそれを補って余りある。
「ーーーー、次は君の番だ」
一筋の傷すらたちまち治癒する人外の肌に双つの牙の痕だけが残る。
これは僕のものだ。
陶酔の心地のまま詰襟を寛げる。死んだ身であれ、生に纏わる行為にはいくらかの快楽が伴うものだ。シャツのボタンをひとつ開け、最低限の赦しを与える。僕は甘やかさない主義なんでね。
「来いよ」
まだ若い牙は些か乱暴だ。そして加減というものを知らない。主人の血を吸うことにさしたる生産性はないが、教えてやるのが親の役目というものだ。他意は無い。無いとも。悠久の生に於いて全ては娯楽だ。
ーー生きることも、死ぬことも、試しはしたが溺れたことはついぞなかったか。今となっては悪くないと思っている。
爪を腕に食い込ませ、終わりを知らせたところで名残惜しく牙が離された。
流れ零れた血に白いシャツの襟が赤く染まる。
「へたくそ」
血の残る牙を拭ってやるのも、僕の楽しみだとも。