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    @2152n

    基本倉庫。i:騙々氏

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    ブラアキ。あらすじ→ある日犬型サブスタンスの攻撃を受けてポメラニアンになってしまったアくん。サウスセクターではそんなポメアキくんを囲んで緊急会議が行われていた。

    ##ブラアキ

    Good boy「ヴィクターの話では時間が経てば戻ると言っていたが……」
    「まずはゲージを用意するべきでしょうか」
    「アキラがご迷惑をおかけして本当にすみません」
    「謝る必要はない。元はと言えば、こちらの指示を聞かず勝手に飛び出したアキラが悪い」

     呆れた視線を向けるブラッド、真面目な表情のオスカー、そんな二人に平謝りするウィル。
     そして件の中央にいる真っ赤な毛玉と言えば。

    「ワンッ! ワンワンッ! ヴーーッ」

     彼の特徴である赤を残した体毛を逆立てて、威嚇をしていた。
     どうやら怒っているようだが、その姿では何の迫力もない。逆に、飛び跳ねる様子を見てオスカーが目を輝かせている。

    「大丈夫だ、アキラ。怖がらなくても何もしな……っ、こら、噛みつこうとするんじゃない」
    「ヴーッ」
    「オスカーさん、多分アキラはオスカーさんの目がアレキサンダーを相手してる時と同じものになっていることに腹を立てているんだと思います」
    「馬鹿にするなと言いたげだな」
    「そんなつもりは……」

     オスカーのその言葉はウィルに対してのものかブラッドに対してのものか。
     おそらく後者であろう。真っ先にゲージの用意を考えたくらいだ。許されれば撫でることぐらいはしていたはずだ。
     三人に取り囲まれ、居心地悪そうに唸るアキラは毛を逆立てている。

    「でも、よりにもよってポメラニアンなんて……」
    「身の丈に合わず威勢だけで無駄吠えが多いこの男にはピッタリの犬種だな」
    「ヴー! ワンワンッ! ワンッ!」
    「すごい、吠えてるだけなのに何が言いたいのか伝わってくる……」

     どうやらアキラとしての意識はあるようだ。真っ赤な毛玉はブラッドの周りを走りながら吠え続けている。姿かたちが違うだけで、普段の光景となんら変わりがない。ウィルは思わず半眼になる。
     足に噛みつこうとするが流石にオスカーにとめられ、今は首根っこを掴まれ宙に揺れていた。

    「アキラ、していいことと悪いことがある。ブラッド様を傷つけるものは、例え犬でも許しはしない」
    「ウーッ」
    「すみません、オスカーさん。後でよく言い聞かせておきます」

     オスカーに凄まれ、流石のアキラも分が悪いと思ったのか萎縮している。
     ようやく静けさが戻った部屋で、ブラッドは考えるように腕を組んでふむ、と首を傾けた。

    「戻るのを待ってもいいが、部屋中をマーキングされるわけにはいかない。やはりゲージに入れておく方が無難だろう」
    「ワンワンッ」
    「アキラ!」

     ブラッドの言葉にまた吠え始めるアキラをウィルとオスカーが窘める。怒りは治まらないのか反抗的な姿を見て、ブラッドは決意したように頷いた。

    「よし、それは俺が預かろう。オスカー、悪いがエサ皿とペットシーツの用意を頼む」
    「ブラッド様が……? いえ、ブラッド様のお手を煩わせるわけにはいきません。アキラは俺がメンターとして責任をもって面倒みます」

     その言葉にオスカーが慌てて首を振る。しかし、ブラッドは呆れたように肩を竦めた。

    「それを言うなら俺もメンターだろう」

     そう言って首根っこを掴まれたままのアキラを覗き込むと、今にも噛み付かんばかりに威嚇してくるその目をジッと見つめた。
     アキラはびくりと体を揺らして目を逸らす。

    「犬は上下関係が重要と聞く。お前ならこの状態のアキラを甘やかしかねない。元に戻れず苛立ちのまま部屋中を荒らされるよりは、監視下に置く方がマシというものだ」
    「ですが」

     メンターリーダーとしても普段から忙しいブラッドだ。これ以上の負担はかけさせまいとオスカーも食い下がるが、その隙を見てアキラが手の中から脱走する。
     猫ではないため、足を滑らせ無様にフローリングに落ちた姿を見て、オスカーとウィルは声にならない悲鳴をあげた。しかし怪我はなかったのか、すぐに立ち上がったアキラは真っ直ぐブラッドに向かって突っ込んでいく。

    「アキラッ」

     二人は慌てて手を伸ばすがもう遅い。
     懲りずに噛み付こうと飛びかかるアキラ。今度こそ一矢を報いること出来ると思っていたのだろう――しかし。

    「アキラ、Sit.」

     短いがはっきりとした声が、小さくなった犬の脳を揺さぶる。
     何を言われたのか理解するより先に体が動き、気付けばアキラはブラッドの前に座っていた。

    「……?」
    「Down.」

     ブラッドの口から、今度は別の指示が出る。アキラはまたもやその命令に従って、理解するよりも早く体を伏せていた。

    「偉いぞ、アキラ。よくできた」
    「クーン」

     頭を撫でられ、その心地よさに喉を鳴らす。しかし、その間も自分の身に起きたことが理解できていないのか、アキラは目を丸くさせて首を傾げている。
     ウィルとオスカーはその様子を見て感嘆の息をこぼした。

    「すごい……あんなに煩かったアキラが言うことを聞くなんて」
    「どのような技を使ったのですか」
    「大したことはしていない。上下関係はどちらが上か、知らしめただけだ。意思はアキラでも、本能は犬としての習性が強いようだな」
    「ウー……」

     アキラは納得したのか、悔しそうに唸っている。どうやらブラッドが目を合わせたあの時、体は「こいつに逆らってはいけない」と既に認識していたようだ。
     頭を撫でられ、嬉しそうに尻尾を振りながらもジト目を向けるアキラに、ブラッドは小さな笑みを返すとその体を持ちあげる。

    「これなら問題ないだろう。少しの間連れ回すことになるが、大人しくしているんだ」
    「わうっ」

     ブラッドの言葉に、元気な返事が返ってくる。
     床に下ろしても暴れないアキラを見て、オスカーとウィルもそれ以上は何も言えず「今日は遅くならないようにする」と言って部屋を去った一人と一匹を見送ることしか出来ないのであった。



    ◆◇◆



     その日のエリオスタワーは騒然としていた。
     あのブラッドが、後ろに赤い犬を連れて歩き回っているのだ。注目の的になるのは当然だろう。
     事情を聞いたジュニアは指をさして笑いだすし、レンは小さな声で「あと猿と雉子がいれば桃太郎だな」と呟いてアキラを怒らせていた。グレイは顔を綻ばせて嫌がるアキラを構い倒していたし、ジェイは顔を引きつらせて懐くアキラから逃げていた。日が暮れる頃になると、既に酔いの回ったキースが「お前んとこの赤いヤツ、こんなちっこかったか……?」と首を傾げてきたので、アキラに手を噛み付かれていた。
     とはいえ、そんな騒がしいタワー内でも動じることなく淡々と仕事をこなすのがブラッドだ。
     アキラと交流のあるヒーローたちは笑いの種としてからかっていたものの、他の職員やヒーローは、その異様な光景を遠巻きに見守ることしか出来なかった。
     ブラッドの後ろを、尻を振って付き従う赤いポメラニアン 。
     事情を知らないタワー内の者たちは「何がどうしてそうなった」とツッコミを入れたかったに違いない。

     一方アキラは、どこか得意げにブラッドの後ろをついて回っていた。
     はじめこそ憮然としていたものの、誰もがブラッドを慕い、頼る姿を見て、誇らしくなってきたからだ。
     それは、犬になったアキラに対するブラッドの態度もある。会議中、静かに足元で伏せて待っていたら褒められたし、落ちた書類を拾ってやると感謝された。職員がリード無しで歩くアキラについて指摘すると「この犬は賢いから問題ない」とまで言ってもらえた。
     ブラッドが連れて歩く犬なら、という理由だけで信頼もされた。
     そうなると、承認欲求が満たされるとともに、周囲のブラッドに対する反応を見て「オレの主人はすごいだろ」と鼻が高くなってくる。こんなにも凄いブラッドの犬という自分の立場と、気持ち良く従わせてくれるブラッドの躾で、アキラの自尊心はなみなみに満たされていたのだ。
     最早犬になった屈辱など忘れて、なんなら犬として満足していたアキラは、一通りの仕事を終えてブラッドと共に部屋へと帰ってきた。
     だが、その瞬間、突然崩れ落ちる。

    「ブラッド様、おかえりなさ……アキラ、どうしたんだ」
    「日中の様子を見るに、おおかた自分が犬になりきっていたことを悔いているのだろう」

     ブラッドの予想は当たっていた。部屋に戻りオスカーの心配そうな顔を見た途端、アキラはアキラであることを思い出したのだ。
     入り口でだらりと床にふせる姿を呆れた目で見ながら、ブラッドはオスカーが淹れてくれたコーヒーに口をつける。そしてソファに座ると、動こうとしないアキラに向かって口を開いた。

    「Come here.」

     途端に顔をあげて、ブラッドの元に走り寄る赤い毛玉は、ソファに飛び乗ると主人を見上げる。そして舌を出して嬉しそうに尻尾を振るが、ハッと思い出したように顔をしかめた。

    「喜んだり落ち込んだり……忙しないな」

     ブラッドはそんなアキラの頭を優しく撫でる。微笑みを浮かべてこちらを見るアメジストの瞳は、無鉄砲な行動に送られるいつもの呆れた目とは大違いだ。
     アキラはへにゃりとブラッドの膝に頭を預けて、動かなくなった。

    「お手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

     肩身狭そうに眉を下げるオスカーに、ブラッドは言う。

    「気にする必要はない。アキラは大人しかったし、こちらの指示も素直に従っていた。職員たちもお利口な犬だと褒めていたぐらいだ」
    「くぅ~、クン、クン」

     撫でる手が止まったブラッドへ甘えるように、アキラは鼻をすり寄せる。それに瞑目したブラッドは、また手の動きを再開させて笑みを浮かべた。

    「……それに、動物と触れ合うのは悪いことではない。アキラも普段からこれぐらい素直であれば、甘やかしがいがあるのだがな」
    「そうですね、随分懐いているようで安心しました。ただ、元に戻った時のことを考えると気になりますが」

     オスカーは眉根を寄せる。アキラの意思が残っているのなら、戻った時に羞恥から暴れる可能性もゼロではない。ふと、彼の行動は普段から犬と変わりないな、と思ってしまった。
     しかし、ブラッドは首を振ると、コーヒーを片手に立ち上がる。

    「これに懲りて少しは大人しくなるだろう。……オスカー、残りの書類を片付けてくる。悪いが餌を与えておいてくれ」
    「分かりました」

     意識としてはアキラである以上、果たして犬の餌を食べるのかは分からないが、犬になってから飲まず食わずだったのだ。流石に大人しく従うだろう。準備を始めるオスカーに吠えるアキラを嗜め、ブラッドは静かに自室へと向かった。



     アキラを連れ回しながらの行動だったため、まだいくつかの仕事は残っている。しばらく集中し、業務に取り掛かっていたブラッドだったが、ようやく一息ついたところで顔をあげ、背後にある気配に気付いた。
     振り返れば、扉の隙間から赤い毛玉がこちらの様子を窺っている。

    「大丈夫だ、入ってきても構わない。ただし、オスカーの部屋にある檻には近付くな」
    「ワンッ」

     許可を得るなり飛び出してくるアキラにブラッドは思わず苦笑を漏らした。
     オスカーの部屋を見ると、檻の中からアレキサンダーが針を立てている。見たことのない動物に警戒しているようだ。アキラは本能でそれに興味をそそられながらも、指示通り檻には近付かず、代わりにブラッドの部屋を走り回ると、最後には足元へとすり寄った。

    「甘えん坊で落ち着きのないやつだ」

     足をかけて立ち上がり、尻尾を振りながら見上げてくるアキラに、ブラッドは前足の脇に手を差し入れて持ち上げると、膝の上に乗せてやる。
     嬉しそうにフンフンと頭を押し付けてくる姿を見ながら、どうしようなく愛しさがこみ上げて、ブラッドはその頭頂部に唇を寄せた。タワー内で過ごしていたはずなのに、ふわふわと揺れる毛並みからは太陽の匂いがする。

    「だが、それがお前の魅力だろう。……早く戻るといいな」
    「ワンッ」

     元気な返事が聞こえてくる。
     同時に、ブラッドの周りをぶわりと雲煙が立ち込めた。膝の上に重みを感じたかと思うと、白の中から見慣れた赤が姿を現す。

    「……」
    「…………」
    「……」
    「…………わん」

     沈黙に耐えきれなくなったアキラが小さく鳴く。
     しかし、すぐに正気に戻ると顔を髪色と同じに染め上げて、ぶわりと毛を逆立てた。

    「……じゃねぇっ! くそ、最悪のタイミングだ……!」

     よりにもよって、ブラッドの膝の上で戻るとは。
     子供のように膝の上に乗せられて、抱きこまれた状態のアキラは、居心地悪そうにもぞもぞとしている。

    「おい、ブラッド。戻ったんだから下ろせよ」
    「……」
    「ため息なんかつくんじゃねぇっつの」

     ジト目を向ければ、少しだけ眉を下げたブラッドが悲しそうな目を向けて、ため息をついた。犬の方が良かった。そう言いたげな空気だ。
     それにムッとしつつも、アキラを離す気のない手に焦りが生まれる。身を捩っても押さえつけられ、簡単に逃れられそうにはない。ブラッドの意図が分からず、アキラは困惑のまま口を開いた。

    「なぁ、ブラッ――」
    「Stay.」

     言葉を遮って突き刺さる声。その言葉を理解する前に、声はピタリと止まり、体は抵抗を止めた。

    「っ」

     自分の意思ではない、ブラッドの指令に従ったのだ。犬として付き従っていたせいで、体はまだ彼の言葉に服従してしまう。
     そう気付いたアキラは徐々に耳を赤くさせ、目の前でくつくつと喉を鳴らす男を睨みつけた。

    「これからは犬のようにコマンドで指示した方が良さそうだな」
    「て、めぇ……」

     反応がよほど可笑しかったのか、珍しく目尻に涙を浮かべるブラッドに屈辱がこみ上げる。我慢の限界だと言わんばかりに身を捩ると、頬を乱暴に掴まれて、薄い唇が眼前に現れた。

    「Stay.」
    「ん……」

     キスをされる。そう理解して身を引くも、触れ合う寸前、ブラッドの有無を言わせない声に、抵抗を奪われた。
     冷たい。そう感じながら重ねられた口付けは、すぐにアキラの熱を伝えて混じり合っていく。角度を変え、何度も繰り返されるうちに、下腹部に重みを覚えて、アキラは逃れるように首を背けた。

    「ふっ、んん……は、ぁ。……ん? おい、お前なんで――」

     恋人同士なのだから、口付けはおかしいことではない。しかしアキラは、オスカーも、そしておそらくウィルもいるこの部屋で、この状況で、甘い戯れが始まったことを不思議に思った。
     まだ付き合って日は浅いが、彼はいつも恋人としてのアキラを甘やかし、根をあげるほど蕩していく。しかし、それはプライベートという限定された時だけだ。

    「Stay.」
    「んっ」

     公私混同を嫌う彼の行動に矛盾を覚えていると、また動きを止められ、唇が触れ合う。背筋をつい、と指で撫でられ、アキラは思わずブラッドの胸元に縋り付いてしまった。
     これでは側から見ればアキラがキスを強請っているように見えてしまう。羞恥がこみ上げ、アキラはせめて部屋のドアが開かないことを祈った。オスカーは二人の関係を知っているが、見られるとなると話は別だ。
     長い口付けのあと、満足したブラッドがアキラの額に己の頭を擦り付ける。まるで猫のような仕草にくすぐったさを覚えていると、間近のアメジストが赤みを帯びてこちらを見た。

    「昼のアキラは賢かった。……が、交戦中、指示を聞かず突っ走った悪い方のアキラには仕置きが必要だとは思わないか」

     そう言って細められた目は、アキラの開きかけた口に合わせて伏せられる。

    「正直に言えば、元に戻らないのではないかと心配した。一日中気が気ではなかった。……と、言えば理解してもらえるだろうか」

     その言葉に、反論が喉まで出かかっていたアキラは無理矢理それを飲み込むしかなかった。ここで甘えてくるのは卑怯だ。十も離れた大人と駆け引きなど出来るはずがない。
     アキラは顔を青くさせ、赤くさせ、忙しない表情を見せると、しばらくしてようやく小さな降参を口にした。

    「ぐ……うぅ…………わん」
    「Good boy.」

     頭を撫でられ、悔しさを覚えながらも、ないはずの尻尾が嬉しそうに揺れる。
     アキラは二度と犬になんかなりたくないと、ブラッドに自分から甘え始めた。
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