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    gt_810s2

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    gt_810s2

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    「もしもし」
    「……もしもし、晋助です」
    「…………あぁ」
     無言が嫌悪を示していた。受話器越し、数年ぶりに聞いた父親の声は昔よりも年を食って聞こえた。高校を辞めると言った時の溜息交じりの諭す言葉、首を縦に振らない俺を殴り激昂した怒鳴り。小学生の時、塾をサボって道場に入り浸っていたのがバレた頃からやたらと厳しくなった父親の意図が、今ならわかってやれる気がする。前世でも今世でも、父親は俺を叱ってばかりだった。やはり俺と父は相容れないらしい。
    「長い間連絡を取らず申し訳ありませんでした」
     息を呑む音に驚愕が含まれているのがわかった。こんな風に父親に頭を下げたことは一度もない。口頭だけでもだ。勘当されてでも己を貫いた過去を後悔したことは一度もない。今さらそれについて謝罪したところで十日の菊だ。
     今更、分かり合えるはずもないのだ。ただ、この状況を長く続けていられないこともわかっていた。
    「話をする時間が欲しい」
    「金の無心なら時間の無駄だ。他を当たってくれ」
    「……銀時の家で暮らしていた。今度家を出る。保証人の欄に名前を書いて欲しい。もし万が一、家賃を滞納した場合に請求される家賃三ヵ月分は書類と一緒に預けるから、万が一の時にも迷惑をかけない」
     本当は就職費用に貯めた金だった。タダ同然の家賃だったアパートと比べれば、恐らく一人暮らしでかかる費用は酷いものになるだろう。夜間のアルバイトを始めるべきかもしれない。それでも今、銀時のもとに戻る訳にはいかなかった。
     思いの外簡単に了承が返ってきた。赦しを請うつもりはないし、向こうも俺を今更許すつもりなどないだろう。それでいい。保証人の話は口実だ。ただ、示しておきたかった。前世でも今世でも、俺たちは会話をしてこなかったような気がする。この感傷は過去の俺が抱き続けてきたものなのだろうか、それとも、恐ろしい過去に怯えたこの俺自身の意思か。
    「どうだった」
    「週末に行ってくる。その足で決めてくるから安士しろ、世話になったな」
    「……本当に銀時には何も言わないつもりか」
    「顔を見りゃあ全て話しかねないんだ、この口は」
    「そんなにも恐ろしい男だったのか、その前世のお主というのは」
    「あぁ、とんでもねえろくでなしだったよ。万斉、お前も聞きゃあビビッて逃げてくぜ」
    「そりゃあ恐ろしい。世界を滅ぼした魔王にでもなっていたか」
     肩を竦めてからソファーに腰掛けると、万斉はギターを弾き始めた。三味線を奏でる、今よりもう少し成長した万斉の姿と重なる。
    「お前は例え俺がその魔王って奴になっても、俺を見捨てちゃくれないんだろうな」
    「まさか。拙者はいの一番に逃げ出すでござるよ。……あぁ、いや、いっそお前に取り入っておいた方が長生きできるかもしれないな」
     お前はどこにも行かなかったよ。そう言うのはやめておいた。魔王なんて大それたものじゃない、ただ、てめえ勝手な俺が俺のために生きた道筋を、お前は着いてきてくれた。お前はそういう男だった。
     針が集まって心臓のかたちをとったようだ。そういう苦痛が、過去の俺から送られてくる。
     俺は恐らくお前のそばにもいない方がいいんだろうな、万斉。
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