【出し抜く者を出し抜く男とそれに昂ぶる男】
モクマはひとつ深呼吸をしてから、紺色の扉をノックした。返事も構わず、ドアを開く。
「チェズレイ、お茶にしよ。いい茶葉入ったよー」
書斎の奥で長身の男がパソコンに相対していた。
細身の眼鏡フレームの奥にある菫色の瞳がゆっくりと持ち上がる。青白い光に照らされた頬は肌の白さをより際立て、血の気が薄い。
モクマはチェズレイの目の下に沈着している蒼を見て、ひそかに眉を顰めた。
チェズレイが苛立たしげに細い息を吐く。
その呼吸だけで、進捗がよろしくないことをモクマは悟る。収穫を焦っているのは分かる。だが、五日間も暗い部屋に籠もりきりで最低限の食事を摂ることしかしておらず、根を詰めている様子を見てはモクマも譲れない。
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