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    nochimma

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    nochimma

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    ワンドロの「リモート」で書こうとしてあんまりリモートしなくなってしまったらくがき モクチェズ バデオラ見た後だとチェの元気具合とかモさんの許容値とかこれくらいでもいいか…!?と思って書いた チェがすごくげんき

    #モクチェズ
    moctez

     大きめのタブレットを横向きに机の上に置いて、アプリを起動してそわそわと待つ。その横には乾きものがメインのつまみとどぶろくの瓶がひとつ、おちょこにはなみなみと白い液体が注がれている。
     時間は夜半、ひとりっきりのしんと静かなセーフハウスの二階の、大きな大きな窓から月明りがこうこうと覗く、ふたりでいつも晩酌をするダイニングに、無機質なコール音だけがしばらく空気を震わせて……、
    『……お待たせしました』
     ぱっと画面が切り替わって、そうして現れた顔と声に、モクマはぱっと表情を明るくした。
    「チェズレイ!」
    『モクマさん。お元気そうでなによりです』
    「へへへ。元気元気。お前さんは何飲むの?」
    『私はアイスワインを。一杯でやめておきますが』
    「そうだねえ、俺も介抱できないしねえ。でもわざわざ用意してくれたんだ、嬉しいなあ~」
    『それはもう、他でもないモクマさんからのお誘いですから』
     言いながら掲げたワイングラスの中で、黄金色の液体が躍っている。
     見つめてモクマの気持ちも、うきうきとダンスを始めそうな心地だ。
     こちらもおちょこを持って、何百キロという遠い彼方へ、遅延なく会話のできる技術に感謝しながら――、
    「――乾杯!」
     最近非合法な活動が目に付く組織への『潜入』で実力行使に出るのにちょうどいい日取りが、情報を掴んだ時にはもう随分と差し迫っていて。今回ばかりは二手に分かれて部下も使って『捜査』するしかないと決まったのが一週間前。モクマは今居るセーフハウスを拠点に組織周辺に耳を澄ませ、チェズレイは隣国まで飛んでボスの関係者から情報を掠めてくることに決まった。
     そんなわけで、二人がバディを組んでからの、はじめての数日間に渡る別離。
     が、ようやく終わって――、明日にはチェズレイもこの家に戻ってくるというのに、どうせお互いに『戦果』を報告し合うならと『リモート飲み』に誘ったのはモクマの方だった。
     仕事が至極順調、予定通りに進んだこと。
     むしろ、思いもよらない新たな情報まで得られたこと。
     街まで出て行く道に生えた大きな木に、実がなっていたこと。
     それが昨日の大雨と風で落っこちてしまったこと。
     商店街に新しいお店ができたこと。
     チェズレイの滞在した街の名物料理が、すこしマイカの味付けと似ていたこと。
     一週間あれば世界は意外と変わるものだ。
     仕事から始まった会話は少しずつ毛色を変えて、別にこれまでメールでも電話でもやり取りはしていたのに、顔を見ているとなんだか話は止まらなくて……、
    「はは……、あーあ」
     くい、と、おちょこを傾けて。濁り酒の風味が身体を駆け抜ける。
     ホテルの清掃の不行き届きが、チェズレイとしてはどうにも許せなかったみたいで。ドレミでスタッフを動かそうとするのを部下に止められたのでじゃあ代わりに総動員で私がいいというまで脇目も振らずに指示通り掃除なさい、なんて言い放ったという、その、あんまりにも『らしい』エピソードにからからと笑いながら。
    (けど、もし、俺がその場にいたら……)
    『モクマさん?』
     考えるのは、そんなことばかり。手酌で酒を注いで、それから溜息。天井を仰ぎ見ると、画面の向こうの、もう寝るだけというような時間だというのに一分の隙もなくきっちりと服を着こんだチェズレイが不思議そうに名前を呼ぶ。
     そんなちいさな声色の変化にすら、今は心を揺さぶられて仕方ない。
     視線をそらしたまま、ゆっくりと口を開く。
    「……なあ、チェズレイ。……俺たちさ、同じ道を行く約束をしたじゃない」
    『ええ』
    「お前さんが俺以外を殺さないか、見張る約束して、それは一生モノで……」
    『……なんですか、改まって。酔っていますか?』
    「うんにゃ。酔ってないよ。
     ……一生もの、だからさあ。だから、ちょっとくらい会えなくても、全然平気だと思ってた。おじさん、お別れのプロだし、待つのは得意な方だしね」
     また、ぐっと。飲み干して、喉を焼く熱。
     視線を戻す。へにゃり、眉が下がって、情けない笑み。
    「……けど、ダメだった。お前さんが隣にいない酒はもう、味気なくって……。ルークに教えてもらった『リモート飲み』だけど、一人酒よりはずいぶんとマシだが、全然……」
     酒は、美味しい。酒に、罪はない。
     問題は自分だ。こんなことになるなんて、ここまで焼きが回ってるなんて、想像もつかなかった。
     笑みとおんなじ声色で言えば、チェズレイはぱちぱち、瞬きをした後で。
    『……なるほど』
     ワイングラスを置いて、顎に指を添えて。うーんと、考え始めてしまったので……、
     そこで、モクマははっと、自分がとんだ、子供じみたどうしようもない駄々をこねていることに気付いた。
    「って、こんなこと言っても困らせちまうだけだよね。すまんすまん、つまり明日が待ち遠しいっちゅうことで!」
     なので、慌てて明るい声をだして取り繕ったのだけれど……、
    『……ふふ』
    「!」
     だけど、チェズレイの顔は、呆れには濁らなかった。
     どころか、その薄くてかたちのいい唇は楽しそうに弧を描いて。
     ぼう、と、妙に薄暗くて黄色いライトに照らされたチェズレイの笑みの美しさに、モクマの目は釘付けになる。
     ひらいた口からは、誘うような、あまくて蠱惑的な声。
    『……会いたいですか? 画面越しではないわたしに』
    「う、うん」
     問われて、考える間もなく、呆然と頷く。言葉が零れる。
    「――会い、たい。会いたいよ、チェズレイ。お前に、はやく」
     おちょこを置いて、前のめりになって、追い立てられるような声で言う。
    ――言ったところで、どうしようもないのに。
     だって隣国からこっちへ戻る飛行機も高速列車も、最終便はとっくに出発しているはずで。たった半日、眠って起きたら、朝一番の便で、彼は帰ってきてくれるはずなのに。
     それでも、言わずにはいられたかった。
     会いたい、会いたい。電気信号に変換された冷たい真似っこの声じゃなくって、本当の、あのうつくしい旋律に。抱きしめるといい匂いのする身体に。触れて、確かめたい――、
     しかして、そのモクマの願いは……、
    『……フ、そうですか。それでは――』
     叶えて差し上げましょう、ニンジャさん!
    「!?」
     声が、二重に聞こえた。
     え。なんだなんだと考える前に、っていうか、なんだ、今気づいたけどこのめちゃくちゃ大きなプロペラ音は!?
     思わず立ち上がる。聞こえたのはこの部屋で一番大きな、満月の良く見える大窓から。それがびりびりと、空気の振動に耐え切れず震えて……、
     ……ばりーーーん!!!
    「!?」
     震えて……目の前で……なんか……、盛大に大破した。
     は。それで、同時に現れたのは……、
    「あ、あし!?」
     モクマの目が点になる。
     そう、出てきたのはまさに脚だった。しかも、ものすごく長い、どこまでもが脚で……ついできらりと光る蝶々の文様の裾に蛇の巻き付いた杖、黒い手袋に金に輝く尻尾と白皙に嵌まるアメジスト……、の、世界一楽しそうな輝きといったら!!
     月と轟音をバックに、床に散乱するガラスの上にスタっと降り立ったのは……、まあ、考えるまでもなく……、
    「ちぇ、ちぇ……チェズレイ!?!?」
    「ええ、私ですよ、モクマさん。ただいま戻りました」
     モクマのひっくり返った声に、どこまでも優雅な仮面の詐欺師は、にっこりと笑って応じて見せた。

    「実はちょうど飛行機の最終便のキャンセルが取れたので帰ってきていまして……、空港からはヘリで運ばせました」
     すこしでも早くお会いしたかったものですから。
     さいわいこのセーフハウスは人里離れた場所に建てられているので、この物音が事件になることはなさそうだけれど……、とりあえず夜風のよく通るようになってしまった部屋は置いておいて、階下のリビングのソファに座って。
     悪びれなく言うチェズレイに、モクマは今更酔いが回ったのか頭がくらくらするのを感じた。
    「え、だってさっきまでの通話、背景ホテルだったよねえ? まさか……催眠!?」
    「フフフ。モクマさん……ご存知ないのですか? リモートで通話できるアプリには、人のみを自動で切り取って背後の風景を好きなものに変える機能があるんですよ」
    「へえ~、チェズレイはさすが詳しいねえ……って、そうでなくって! そんじゃ音は!? ヘリの中で電話してたにしちゃあさすがにちと静かすぎたんじゃない!?」
    「……。……まァ、そちらはお察しの通り催眠ですが……」
    「やっぱ催眠じゃん! そんな簡単に使ったらいかんでしょ!」
     確かに画面越しでも催眠掛けられるっていうのは知ってるけど! いつだ? あのホテルの話の時か? ああおかしいと思っていたんだいくら綺麗好きのチェズレイでもそんなに簡単に一般人に催眠かけようとするはずがないから……っ、
     とはいえ自分にもそんな軽い感じで掛けられては困る。肝心な時に催眠かけられて守らなかった、では自分で自分が許せない。叱ったらチェズレイは眉を下げてかなしげな、いつものあの顔になって……、
    「だって、モクマさんが久々に見る私の顔に随分と興奮しておられる様子だったので……、今は下衆以外にはおいそれと催眠もかけられないでしょう? どれくらい婉曲的な表現でも掛かるか試したくなってしまって……、ワンチャンいけるかな、とか思ったらいけてしまったものですから……」
    「ぐっ……」
     哀れっぽい声で言われた言葉にたじろぐ。……それはまあ、確かに心当たりがなくも……だいぶありまくりな感じだったので……。
     それにしても催眠、めちゃくちゃに鳴り響いていたプロペラ音をすべて意識から外すとはさすがである。音に関してはどの会話がトリガーになっていたのか、話しすぎて今では思い出せないけれど……、
     ん? そこまで考えて、はたとモクマは気づく。
    「……あっ、じゃあまさかあの窓割ったのも催眠!? なんだ〜」
     さすがのお前さんでもそこまでせんよな……なんだなんだと胸を撫で下ろしたら……、
    「……」
    「……あれ? チェズレイさん?」
     チェズレイはぴたりと黙って、嫌な予感……。
     問いかけると眉はみるみる下がって、ああちょっと前に見たあの顔……ッ!
    「……あァ、お許しくださいモクマさん……。私もあなたに剥き出しの『会いたい』という欲をぶつけられて、昂りを禁じ得ず……、あなたを驚かせたい気持ちが先走ってしまいました……」
     くすんくすん。かわいい声を出しながら、ここ一番かわいい顔で小首を傾げる。
    「……怒ってますか?」
     ……。
     はーーーー。
    「俺相手にはいいけどさあ、まったく……」
     やれやれ。大きなため息をつきながら、そっと泣き真似をする手を取って、黒い手袋を外していく。
    「それより、……怪我してない? ガラス身体で割るなんて……、」
    「ええ。この私がそんなしくじりをするとでも?」
    「昂っとるお前さんは危なっかしくてね」
     言いながら、じろじろ。不躾に素肌に触れても、チェズレイは何も言わなかった。すこしは無断で相棒に催眠をかけた負い目があるのか、それとも酔っているのか、あちこち触れていく無骨な手も眺める目線も、いつもよりは熱っぽく。
    「フフ……、それではやはり、いつ何時も、守り手さんに見張っておいていただかないとね」
     続けた声は、さっきの割れた窓から覗いたまん丸の月のよう、なんとも満足げな響きをしていた。
     それからそっと、手を取られて、手のひらと手のひらを重ねられる。斜めにずらして指を絡めて、視線がひたりとあって、にやりと勝ち誇ったような微笑み。
    「そのためにも……これから、別行動はよしましょう。寂しがり屋のニンジャさんを泣かせたくはないですし」
    「はは。そりゃ願ってもないことだが……、お前こそ、俺の答え聞く前から近くにいたくせに。俺が意外と寂しがってなかったらどうするつもりだったの?」
     ……いやまあ確かに、寂しかったのは事実だけれど! さっき自分で思いっきり告白もしちゃったけれど!
     でも自分ひとりだとも認めたくなくて、ちょっと平静を装って応戦してみると。
    「……」
     ……まってましたとばかり、にやり。チェズレイのきれいな顔に浮かぶ笑みが妖しさを増した。
    「いえ、それは……毎晩寂しそうに背中を丸めてお酒を飲む姿を見ておりましたので……、もう、哀れで哀れで……」
     それで、ゆったり歌うように言われたことに……、
    「なっ!? 見てたの!?」
    「ええ。私たちの家ですよ。監視カメラのひとつやふたつ無い方が不自然でしょう。実を言えばガラスも、ゆうべの風で物が当たってヒビが入っていたのです。で、どうせ張り替えるならとドラマティックな演出に活用させていただいた次第で」
    「あっそう……ガラスはともかく、カメラはあっても相棒が一人でいる時に見ないと思うがねえ……」
     返すツッコミに覇気がない。予想外もいいところのジャブだった。もはやぐうの音も出ずにしおしお、ノックダウンされて今度はモクマが泣き真似をする番だ。
     いやだって、それこそ自覚があるから。昨日も一昨日も、酒を飲むよりもため息ついていた時間が多いくらいだったから……、そう言えば確かに、昨日ガラスになにか当たっておっきい音がしたっけ。それで入ったヒビにも気づかないなんて、とんだ腑抜けだ。守り手たるもの、相棒はもちろん、この帰る家だって、彼が愛するものすべて、目を配ってないといけないのに。
     ああもう、不甲斐ないし、この子にはいつまでたっても勝てそうにない。いや、べつに勝ちたいわけでもないけれど。
     そこに、チェズレイがひょこりと上目遣いに覗き込んでくる。
    「……さすがに怒りましたか?」
     で、また、それ。
     ……これは最近のチェズレイのブームだ。怒らせて新しい顔が見たいのか、どこまで許してくれるのか探っているのか、単に振り回してみたいのか、はたまた甘えているのか、ふつうに素なのか……、モクマには相変わらず、この頭のいい綺麗な子の考えていることは読めないけれど。
     考えても仕方ないので、素直に返す。それくらいしか、できないので。せめて誠実に、本心を。
    「いんや。自分の不甲斐なさには反省しきりだが……、それは別として、そのお陰でお前さんが早く帰ってきてくれたなら、覗いてたことは許しちゃお」
    「……。……甘いですねェ……、っ!」
     にこにこ笑って返せば、なんとなく不服そうな顔。たぶんこれ、照れてる、気がする。希望的観測かな?
     ……に、手を伸ばして。頬を包んで口付けたら、急な接触に開かれる目がぱちぱちと瞬いてかわいい。
     そう、だって、しかたないのだ。
     至近距離。目と目を合わせて、にっと微笑む。
    「ま、誰にでもと、いうわけではないですがねえ?」
     もちろん、道から外れたことをしたら叱ってやる。さっきの浮かれて割ったガラスだって、危ないから似たようなことがあってもやめようねと約束させた上で、二人で片付けよう。
     だけど。それが終わったら、もう一度改めて乾杯して、おしゃべりして眠りたい。
     なんてったって、おじさんねえ。歩いていく道々、一歩一歩、どんどんね、
    ――お前さんが、とびっきり可愛くなっちゃって、もうね、仕方がないんだよ。

    おしまい!
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    nochimma

    DONEあのモクチェズJD/JK長編"spring time"(地球未発売)の待望のアフターストーリー!わかりやすいあらすじ付きだから前作をお持ちでなくてもOK!
    幻想ハイスクール無配★これまでのあらすじ
     歴史ある『聖ラモー・エ学園』高等部に潜入したモクマとチェズレイ。その目的は『裏』と繋がっていた学園長が山奥の全寮制の学園であることを利用してあやしげな洗脳装置の開発の片棒を担いでいるらしい……という証拠を掴み、場合によっては破壊するためであった。僻地にあるから移動が大変だねえ、足掛かりになりそうな拠点も辺りになさそうだし、短期決戦狙わないとかなあなどとぼやいたモクマに、チェズレイはこともなげに言い放った。
    『何をおっしゃっているんですか、モクマさん。私とあなた、学生として編入するんですよ。手続きはもう済んでいます。あなたの分の制服はこちら、そしてこれが――、』
     ……というわけで、モクマは写真のように精巧な出来のマスクと黒髪のウィッグを被って、チェズレイは背だけをひくくして――そちらの方がはるかに難易度が高いと思うのだが、できているのは事実だから仕方ない――、実年齢から大幅にサバを読んだハイスクール三年生の二人が誕生したのだった。
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