食べてないな、と思考が逸れてしまい、大倶利伽羅は顔をしかめて腰を上げた。部屋を出れば庭から雨音がしてくる。大粒の雨なのか、ぽたぽたと雨粒が葉に跳ねる音までした。子どもなら心がおどるところかもしれない。足を止めて、庭を見た。縁側、の形を取る廊下の一部分。その向こうに小さな庭がある。手入れはあまりしていないが、それほど荒れてもいなかった。雨音が大きく聞こえているのはどこだと探し、見つけたのは塀のそばに並ぶ朝顔だ。屋根の先の雨どいから、ぽた、と落ちた滴が、葉にぶつかっている。そんな造りになっていたのかと今さらに知り、大倶利伽羅は目を眇めた。
『悪くはないんだが、あれだな。きみの書く花は、――絵に描かれた花のようだ』
ふいに浮かんだのは、あの朝顔を置いていった張本人の声だ。また溜め息を吐きそうになり、大倶利伽羅は踵を返すようにして台所に向かう。