大学の正門から伸びる坂。そこを上がった先の一つ目の曲がり角で、あっ、と声が出てしまった。遠くの山と、背の高い建物と、夕陽。その光景の真ん中に、大倶利伽羅がいる。
「伽羅ちゃん…!」
小さく呼んだ名には、ゆるく首を倒すようにして応えてくれた。歩幅を大きくしてそばに行けば当たり前のようにとなりに並んでくれる。
「どうしたんだい、めずらしいね」
「……あんたが、帰る頃合いかと、探した」
「ふ、そうなんだ。ありがとう」
「………」
礼を言うことかと、思われている気がして笑ってしまった。でもうれしいのだからいいだろう。まさか大学の帰りに一緒に歩けるとは思ってなかった。二人で近くまで来たり、遠くから全体を見たりはしたが、これは初めてのことだ。
「あ、鶴さんには会えたかい?」
「――あぁ」
いままで柔らかな表情をしていたのに、鶴丸の名前を聞いた途端にくっと眉間に皺が寄る。反射みたいなそれに、つい笑ってしまった。
鶴丸から聞いたという話をして以来、こうして会いに行くときは言ってくれるようになったのだ。あのときはそれは嫌そうな顔をされたが、光忠が笑ってばかりいるからか、最後には諦めるように溜め息を吐いていた。
光忠はいままでどおりでいいとも言ったのだが、鶴丸が嬉しそうだったとこぼしたせいだろう、まるで頑なな顔で「会ってくる」と教えてくれる。
「……光忠」
「うん?」
なんだいと隣を見れば、するりと指が絡んだ。おどろく光忠を見て、その指がゆるみ、外れて、手の甲を撫でてくる。
「伽羅ちゃん?」
「…手には、ふれてもいいか」
「え?」
急にどうしたんだろうか。そう思っているうちに、大倶利伽羅の手は離れてしまった。ふわりと気持ちのいい風が通る。夕陽が傾いて、足元の影が伸びた。地面の上では、二人の影は重なっている。
「――あんたの、嫌がることはしない」
「!」
「…外で、あんたにふれたくなったときは、どうすればいい」
呟くようにそう言って、目の前でむうと眉が寄せられた。