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    yaguruma_85

    @yaguruma_85

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    yaguruma_85

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    DomのカイザーとSubの千切です。

    Dom/Subのkicg 青い監獄は五つの棟で構成されている。それぞれが完全に独立しているわけではなく隣り合った棟とは通路で行き来できるようになっており、食堂のように全ての棟から直結で行ける施設もある。
     これらの建物群から少し離れたところに、完全に独立したもう一つの施設があった。管理用の部屋の他にいくつか部屋があるだけの小さな建物だが、セキュリティは一番厳しい。運営の操作によってしかエントランスは開かないし、中の部屋も同様で管理者の権限と利用者のIDが合致しなければ扉が開くことはない。ここはダイナミクス性を持つ者のプレイ用の施設だ。


     人は一定の割合でダイナミクス性を持って生まれてくる。多数派ではないが切って捨てられるほど少なくもない、そんな割合だ。それはスポーツマンも例外ではなく、ダイナミクス性との共存の仕方は古くからスポーツ界の課題とされてきた。特に肉体的な成長期を迎える10代の子どもたちはダイナミクス性が安定せず心身ともに影響が大きい。
     ここ青い監獄にいるのは正にそういった年代の子どもたちだ。さらに閉鎖空間で長期間に渡る共同生活という非日常は性の不安定を招きやすい。そこで絵心が用意した対策は資格を持った相手と専用のプレイルームを用意し、ダイナミクス性を持つ選手に定期的にプレイさせることだった。適度に発散させておけば爆発することはないだろうという一見雑なこの方策は最初批判の的だったが、実際運用してみると意外なほどうまくいった。ダイナミクス性がまだ強く表れていない選手も多いので、プレイ自体は強いものではない。しかし専門知識を持ったDom(あるいはSub)が相手を見て加減しながらプレイすることで無自覚だった不調が改善されたという例すら出てきて、批判は一転して興味深い事例として扱われることになった。


     ダイナミクス性は個人情報の中でもかなりセンシティブなものだ。だから青い監獄の運営内でも選手のダイナミクス性を把握しているのはごく少数で、選手内でもそれを直接聞くのはタブーだという共通認識があった。長く生活を共にしていればなんとなく感じ取れることもあったが、それを口にする者はいなかった。
     それ以外にも細かな対策が取られており、ここでの生活は想像していたよりもずっと快適だ。そう思っていたのに突然の不調に見舞われ、千切は誰もいない廊下を歩きながら舌打ちした。
     千切はSub性だ。とはいえ検査でそう判明していただけで、ここにくるまで自分のダイナミクス性を強く意識したことはなかった。絵心の方策自体は理解できたし何かあったときプロジェクト全体に影響があることも想像できたので素直に指示に従って何度かプレイしていたが、よく分からないというのが素直な感想だった。命令をするDom、従うSub、褒めるDomという一般的なプレイで、内容もKneel、Comeといった基本的なコマンドに留まっていた。それによって何かが変わったとも調子がよくなったとも思えず、淡々と決められたスケジュールでプレイをするだけだった。
     昨晩から少し違和感があった。ひとまず一晩様子を見ることにして、今朝起きて朝食を食べに食堂に入った瞬間、その違和感は決定的な不調になった。それがただの体調不良ではなくダイナミクス性の影響だと思ったのは直感だ。食堂には多くの選手がいて、千切は食事もせずに逃げるようにそこを出た。
    (といあえず絵心に……どうやって? それかプレイルームに直接、ダメだいきなり行っても入れてもらえない、そもそも今誰か待機してるとは限らない……)
     目眩と熱で回らない頭で必死に考えるがまとまらないし打開策も浮かばない。まともに歩くのも難しくなってきて、とにかく医務室に行くことにした。あそこなら24時間誰かが待機しているし、なんとかしてくれるはずだ。
     差し当たっての目標が決まったことで少し意識が明瞭になった。
    「──おい、どうかしたのか?」
     そのとき背後から声をかけられた。見るからに体調が悪そうな千切を気遣ってくれているのだろうが、今は余計なお世話でしかない。万が一相手もダイナミクス性を持っていたらさらにややこしいことになるし、申し訳ないがここは気付かなかったふりでやりすごそうと足を止めなかった。しかし肩を掴まれたことで強制的に止められてしまった。ここまでされれば無視することはできず、仕方なく振り向く。そこには目を丸くしたカイザーがいた。
     まずい。
     咄嗟に浮かんだのはそれだった。何がとか何故とかよりも、とにかくまずい、ここを離れなければと思った。くらくらと揺れる視界からカイザーを引き剥がしたいのにそれすらうまくいかない。まずい、早く、ここを離れないと。
    「お前……」
     バレた。カイザーの声色にそれを悟ったが、どうにかできる状態にはすでになかった。医務室に、とかろうじてそれだけは言えたがきちんと届いたかは分からない。
     多分、カイザーはDomだ。カイザーに声をかけられて、肩を掴まれて、至近距離に迫られて、その度に状況は悪くなっている。カイザー自身のダイナミクスのコントロールに問題はないのだろうが、千切がこんな状態だから近寄っただけでこんなにも影響されている。
    「……触れるぞ」
    「え、」
     医務室に放り込んでくれるか、それが無理ならいっそ放置してほしい。そう思っていたのにカイザーがとった行動は真逆のものだった。横抱きで抱き上げられ、文句を言う間もなくカイザーが歩き出す。
     ああ、このまま医務室に連れて行ってくれるのか、案外親切だななどと呑気なことを考えていられたのはほんの数秒のことだった。聞き慣れたドアの開閉音が聞こえて、もう着いたのかと思って閉じていた目を開くが、そこはどう見ても医務室ではなかった。大きなモニターとテーブルと椅子があるだけの、会議部屋のようなところだ。その椅子のひとつに下ろされて戸惑っていると、カイザーはドアに引き返した。ここに隔離して人を呼んでくれるのか。そんな希望的観測を嘲笑うように、ピッと電子音が響いた。
    「……カイザー?」
     記憶に間違いがなければ、それは電子ロックの音だ。なにしてるんだ、と掠れた声で聞いても答えはなく、振り向いたカイザーは無表情だった。
    「お前、Subなんだな」
    「……!」
     質問でも確認でもない、確信を持った断定。続けられたダダ漏れだぞ、という言葉に千切は唇を噛んだ。
    「……うるせえ」
    「プロを目指すならダイナミクスのコントロールは必須だぞ。まだ不安定な年齢なんだろうが、今のお前は異常だ」
    「だからうるせえよ。定期的なプレイはしてた。今日になって、いきなり、こんな……」
     またくらりと目眩が強くなって口を閉ざす。息苦しい。ゆっくりとカイザーが近づいてくるのを感じてそれはますます加速した。目を閉じて俯いて視覚情報を遮断してもたいした効果はない。来るなという声はもはや懇願に近かった。
    「察しているだろうが、俺はDomだ」
    「……だろうな」
    「つまり、ここにはダイナミクスを乱したSubとそれを解消できるDomがいる」
    「何が言いたい」
    「分かるだろう?」
    「……選手同士のプレイは、禁止されてる」
     一般的にプレイは当人同士で同意を得たパートナーでやるか、公営の斡旋施設で専門家の管理下で行われる。青い監獄は特例として専門知識があるDomとSubを待機させており、トラブルを避けるために選手同士でのプレイは禁止されている。それは選手個人や試合結果に悪影響を出さないためであり、世間からの非難を避けるための絶対条件だ。
    「そうだな。だが、今は緊急事態だ。プレイルームに駆け込んだところですぐにプレイできるとは限らないし、そもそもそんな状態で出歩くのは推奨しない。ここで俺たちがプレイしたところでそれを責めることはできないだろう」
    「だからって……!」
     そもそもプレイは相当繊細なものだ。パートナーへの信頼か、施設への信用がなければ到底安心できない。今ここでプレイするということは青い監獄の管理を外れて、ただカイザーだけを信用するということだ。当然、そんなものはない。
    「──頼む、医務室に行かせてくれ。それか、人を呼んでくれ……」
     もうこうなったら意地を張っている場合ではない。カイザーとプレイをするのは却下で、かといってここに放置されるのも困る。今考えられる手段はそのどちらかしかない。
     しかし願い虚しく、カイザーは千切の隣の椅子に座った。
    「──Hyoma,Look」
    「っ!」
     信じられなくて反射的に顔を上げて、すぐに後悔した。まっすぐこちらに向けられた目をまともに見てしまって、そらせなくなった。
    「Stay……Safe wordはblueだ。いいな?」
     よくない、何もよくない!
     あまりにも一方的なプレイの開始に抵抗したいのに動けない。身体の方はすでにコマンドを受け入れているのだ。
    「Kneelだ、ヒョウマ」
     ごくりと唾を飲み込み、呼吸ひとつで覚悟を決めて千切はカイザーの足元に座り込んだ。こうなった以上ある程度プレイするのが得策だ。
     一般的なKneelの姿勢は膝へ負担がかかるのでカイザーの足にもたれかかって三角座りをしたのだが、カイザーは満足気に笑んでgood boyと言った。その瞬間、じわりと胸が熱くなって初めての感覚に戸惑う。プレイは初めてじゃない。Look、Stay、Kneelはいずれもやったことがあるコマンドで、それをこなすたびにgood boyと褒められた。けれどこんな感覚になったことはない。
     戸惑いを受け止めきれないままプレイは続く。カイザーは淡々とコマンドを出したが、いずれも基本的なものばかりでその都度褒めるのも欠かさない。プレイ内容は青い監獄で経験したものと大差なくて、千切は徐々に落ち着いていった。ダイナミクスの乱れが治ってきたのだろうし、おそらくカイザーのプレイも上手い。やり口は滅茶苦茶だし非常に癪だが、感謝はしないといけないと思えるくらいには冷静さを取り戻していた。
    「Stand Up」
     今日初めてのコマンドだ。千切は素直に立ち上がった。
    「Sit」
     え、と小さく声が漏れる。SitはKneelと違って椅子などに座れの意味がある。しかしカイザーがコマンドを出しながら指し示したのは彼の足だった。見た通りに解釈すればそこに座れという意味だが……
    「ヒョウマ、Sit」
     コマンドを重ねられ、解釈は間違っていないのだと分かった。戸惑いつつもゆっくりとカイザーの足の上に座ると、good boyと頭を撫でられた。その声も手付きも試合中のカイザーからは想像できない柔らかさだ。頭から目元、頬と撫でられる。まだ熱が燻る体にはひんやりとしていて心地いい。指先でくすぐるように撫でられると猫にでもなったような気分だった。
    「……落ち着いてきたな」
    「ん……」
    「じゃあ、次で最後だ」
     カイザーの目にも千切の変化は明らかなのだろう。実際、最後と言われて名残惜しく思うくらい千切の心は満たされていた。今までダイナミクスを強く感じることもなかった代わりにこんな風に思うこともなかった。プレイ内容は大して変わりないのにこうも違うのは、千切の状態が原因なのかそれともカイザーが理由なのか。きっと重要なことなのに、今はそれもどうでも良かった。
    「Lick」
    「……?」
     聞き慣れないコマンドに戸惑ってカイザーを見る。聞いたことはあるが、さて何のコマンドだったか。千切の反応を見たカイザーは笑うと、耳を撫でていた指をするりと滑らせて親指を千切の下唇に押し付けた。
    「Lickだ、ヒョウマ」
    「──!」
     意味深な行動と記憶が繋がった。『Lick』──『舐めろ』。
     これは、あまりにも踏み込みすぎたコマンドだ。カイザーはずっと基本的なコマンドだけを出してきた。RollやCrawlすら使わない、かなり健全なプレイだった。それは突発的で応急処置的なプレイだったこととまだ若い千切を気遣ってくれているのだろうと思っていた。青い監獄で行ったプレイだってせいぜいRoll止まりだったのに、ほとんど面識のない相手にできるコマンドじゃない。
    「どうした? それともSafe wordを使うか?」
     やわやわと唇を撫でながら言われてその存在を思い出す。Safe wordは言わば安全装置で、Subがその言葉を発したら即座にプレイを中止しなければならない。行きすぎたコマンドやSubを無視した一方的なプレイを防止するためのもので、青い監獄でプレイするときも毎回必ず決められていた。
     カイザーも例外ではなく、ちゃんと事前にSafe wordを決めていた。blue、簡単な単語だ。もう状態は落ち着いているしここでプレイをやめても問題はないだろう。Lickなんてコマンドに従う必要はない。ないのに。
    「……good boy」
     薄く口を開いた千切はSafe wordを発するのではなく、恐る恐るカイザーの指先を口内に迎えていた。カイザーは無理に指を押し込もうとはしないから、舐めるには千切が舌を伸ばすしかない。乾いた指先、硬い爪。舐めるというより舌を押し付けるだけだったが、カイザーは繰り返し褒めてくれた。そのうち最初の躊躇いも戸惑いも忘れて、戯れるように軽く吸い上げたりもした。カイザーはそれも褒めてくれる。やってみれば思ったよりも簡単なことだった。案ずるより産むが易しとはこのことか、なんて頭の片隅で考える余裕すら生まれた。
     それにしても、いつまで続けるのだろう。親指を千切の口に、それ以外の指で頬を包むように支えたままカイザーは動こうとしない。目線だけで問うと、カイザーはゆっくりと手を離した。ああ、おしまいか。非日常が終わる安堵と名残惜しさとを感じながら軽く口を開ける。
    「まだだ」
    「!?」
     完全に気を抜いていて、何が起きたのかすぐには分からなかった。何だ、カイザーの指が口に──舌を指で摘まれている。軽く引っ張られて呻き声が漏れた。
    「これは初めてか? まあティーンにするプレイなんてそんなものか」
    「う……」
    「安心しろ、これ以上はしないさ」
     その言葉通り、強く引っ張られるようなことはなかった。その代わり解放されることもなく、徐々に痺れてくる。
    「Stay、ヒョウマ」
     苦しいと目で訴えたら逆にコマンドを重ねられ、口が自由にならずSafe wordを言うこともできない。呼吸が短くなっていく。飲み込めない唾液が溢れて口の端を伝い落ちていき、カイザーが目を細める。その瞬間、何かが焼き切れたような感覚があった。
    「──っ」
     身体に衝撃が走り、気付けば床に転がっていた。カイザーに押されて体勢を整えることもできずそのまま落ちたのだ。呆然と見上げると、カイザーもまた驚いた顔で千切を見下ろしていた。
     先に動いたのはカイザーだった。
    「……すまない、怪我はないか?」
    「あ、大丈夫、だと思う」
     夢から覚めたような心地だった。プレイ中に感じていた酩酊感のようなものは一瞬で消え去り、眩暈などの不調もなくなっている。ダイナミクス性を持つ者にとってプレイがどういう意味を持つのか、初めて実感した。
     立ち上がったカイザーが手を差し伸べてきたので千切も手を伸ばそうとして、カイザーの手に付着したものに気付いた。
    「おい、お前の方が怪我してる」
     親指の先に傷がつき血が滲み出ていた。滴り落ちるほどの怪我ではないようだが、指先の傷は地味に痛いし長引きやすい。
    「ああ……たいしたことない」
    「医務室行くか? 絆創膏くらい貼っといた方が」
    「これくらい舐めときゃ治る。……ヒョウマ、Lick」
     明らかにコマンドとは違う、単なる揶揄いに千切はなけなしの心配を投げ捨ててカイザーを睨んだ。
    「悪趣味すぎるだろ」
    「心外だな。責任を取ってもらおうと思っただけなのに」
    「責任?」
    「おいおい、人に怪我させておいてとぼける気か?」
    「え……」
     責任、怪我をさせた。
     滲んだ血はまだ生々しくそれほど時間が経っていないことが分かる。ここに来る前に怪我していたのならとっくに乾いている筈。つまり。
    「……俺?」
     無我夢中だったので記憶が曖昧だが、言われてみれば強く歯を噛み締めた気がする。そのとき口の中にあるものを気遣う余裕なんてあったはずがなくて、そのままカイザーの指を噛んでいたらしい。
    「ああ、お前にキズモノにされてしまった」
    「キズモノって、そりゃむしろ」
    「ん?」
    「……なんでもない」
     キズモノにされたのはむしろこっちだ、と言ってやりたい。でもカイザーとのプレイのおかげで落ち着いたのは事実だし、蒸し返したら余計に面倒なことになる予感がする。
     千切はカイザーの手を取らずに立ち上がり、助かったと礼を言った。
    「思うところはあるけど、感謝しとく。ありがとな」
    「どういたしまして。念のためドクターには報告しておけよ」
    「そのつもり」
     思えば昨晩に前兆はあったが原因は分からないままだ。年齢故の不安定さと言われればそれまでだが、報告はしておくべきだろう。ただ問題は。
    「……お前のことも報告するけど」
     緊急事態だったとはいえ、選手同士のプレイという重大なルール違反をしてしまった。状況が状況だし相手は海外選手だという大人の事情もあるから叱責はされないと思いたいが、カイザーも呼び出されて事情を聞かれるくらいはするだろう。
    「別にそれくらいは構わないさ。だがひとつ提案がある」
    「提案?」
    「ああ、正式にパートナーにならないか?」
    「……は?」
    「プレイの相性は悪くなかったと思うが」
    「いやいやいや」
     今度は何を言い出すんだコイツは。
    「だから、選手同士のプレイは禁止されてるだろ」
    「パートナーなら話は別だ。ここで出会って正式にパートナーになったから今後もプレイをする。おかしな話じゃないだろう?」
    「おかしいだろ」
     おかしい、絶対におかしい。断固として否定する千切にカイザーは不思議そうにした。
    「何故だ? おそらくだがお前の不調の原因はここでのプレイだ。合わないプレイを繰り返すことほど不健全なことはないからな」
    「合わないって、なんで分かるんだよ。別に変なことなんてなかったぞ」
    「それはお前がここのプレイしか知らないからだろう。俺とプレイしてみてどうだった? いつもと違わなかったか?」
    「それは……」
     否定できなかった。黙り込んでしまっただけで十分だったのか、カイザーは口角を上げた。
    「悪い話じゃないと思うが?」
    「……いや、お前にメリットないだろ」
     カイザーが言うことが事実だったとして、千切にはダイナミクス性が安定するという大きなメリットがあるがカイザーはそうではないだろう。Dom性ということはカイザーもここのプレイルームに定期的に通っているはず。選手同士でプレイするとなれば、たとえ許可が下りても色々と面倒なことがありそうだしわざわざそんなことに付き合ってもらう義理もない。
    「メリットならある。ヒョウマとのプレイは良かった」
    「え……」
    「ここのプレイルームも悪くはないが、満たされもしない。最低限の処理のようなものだ。でもさっきのプレイは良かった。それが俺のメリットだ」
     こういうとき、世のSubはどう反応するのだろうか。悪かったと言われるよりはいいが、かといって喜ぶことでもない気がする。
    「あー……今日のところは保留で。医務室行ってくる」
    「送ろうか?」
    「いらねえ」
     考えるのが面倒になって、とりあえずここを離れることにした。カイザーもそれ以上は追及してこず、電子ロックを解除する。廊下から入ってきた空気が妙に新鮮なものに感じられた。
    「……じゃあ、またな」
    「ああ」
     またな、と返された言葉が耳にまとわりつく。それを振り切るように千切は歩き出した。
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    Replies from the creator

    yaguruma_85

    DONEお題をいただいたngcgです
    プロポーズするngcg うえ、と千切が急に声を上げて、凪はゲームを一旦中断してどうしたのと声をかけた。気分が悪くなったのだろうか、そういう感じとはちょっと違った気がするけど。その予想通り、これ見てくれとスマホの画面をこちらに向けた千切は顔色が悪いこともなくいたって健康そうだ。ただそのきれいな顔を嫌そうに歪めているだけで。
    「なに、動画?」
    「そ、たまたま関連で出てきたから見てみただけなんだけどさ」
     千切が画面をタップして動画が始まる。街角のカフェのテラス席で一組の男女が仲良く話しながらお茶を飲んでいるという何の変哲もない日常の光景だ。これがどうしたんだと思っていたら、男女の他のお客さんたちが一斉に立ち上がった。何事、と女性の方は驚いていたが男性の方は平然としていて、それどころか彼も立ち上がって、そして何故か一斉に踊り出した。何コレ。座ったまま目を白黒させている女性を取り囲んで踊るってホラー? ダンスが終わったところですっとカフェ店員が近寄ってきた。トレーの上にはコーヒーではなく小さな花束と小さな箱。それを受け取った男性が女性の前に跪いて箱をパカッと開けると、そこには輝くダイヤがついた指輪。感極まった女性が涙しながらそれを受け取り二人は抱き合い、踊っていた人たちや店員、さらには通りすがりらしい人たちも拍手喝采……
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