【牛乳全滅事件】 最近めっきり寒くなってきて、朝晩が寒さで辛くなってきた。
風見は僕より筋肉量が少ないからより寒く感じるんだろうなと思いながら暗い寒空の中を帰宅した。
明日風見が捜査備品を持ってきてくれる。最近彼はプリンにハマっているらしく、コンビニのプリンを全て制覇したから今度はスーパーに行ってみようかなと言っていた。
それを聞いてふと思った。ここは喫茶店員の腕の見せどころなのではないか。
プリンはポアロのメニューにもあるし、意外と簡単に作ることが出来る。本場の味(?)を風見に食べさせてやろうじゃないかとエプロンを身に着け早速冷蔵庫を開けた。
が、……牛乳が無い。
そういえば昨日のシチューで使い切ってしまったんだったか。
僕としたことが……困ったな。もうスーパーも空いてないし。
そう思いながら先程身に着けたエプロンを外し、今度は車の鍵を手にする。牛乳ならコンビニにもあるだろう。
そう思ってコンビニに車を走らせたのだが、まさかの全滅!?
少し離れた所にも行ってみたが、どうやらテレビの美容番組で牛乳の特集があったらしく、買い占めが起きたらしい。
入荷は明朝……。
仕方ない。事前に買い足しておかなかった僕が悪いのだから、そう思い沈んだ気持ちで帰宅した。
「ハロー……」
「アウ?」
風見の喜ぶ顔が見たかった。そう思いながらハロを抱きしめると、ハロは僕の顔をペロペロと舐めて慰めてくれてた。
君は優しいな。それに温かい。
しばらくハロの温かさに癒されていると、ふとある事を閃いた。
出来たてでないと食べられないプリンがあるじゃないか!
一般的にプリンは冷やして食べるものだから、温かいプリンは外では滅多に食べられないはずだ。
温かい出来たてのプリンを風見に出してやったら、風見も喜んでくれるのではないだろうか?
そう思うと気持ちも晴れてきて、アイデアを与えてくれたハロをワシャワシャと撫で回した。
「ありがとうハロ!」
「? アン!」
そうと決まったら今日はもう夕食などを済ませてさっさと寝よう。明日起きてコンビニに牛乳を買いに行って、風見が着く頃に完成するようにプリンを作るんだ。
その日は風見の喜ぶ顔を思い浮かべながらベッドに入ったおかげか、ぐっすりと眠ることが出来た。
「さあ作るぞ! 」
時刻は朝五時半を回ったところだ。一通り自分の支度を済ませた僕は、台所でエプロンを身に着けて先程コンビニで買ってきた牛乳、それから家にあった卵と砂糖を机に並べて気合を入れた。
まずはカラメルだ。砂糖と水を煮詰めて少し色がついた所で火を止れば、余熱でいい色になる。そこに熱湯を入れてから出来上がったカラメルを容器に移していく。
普段自分のためにプリンを作らないので、今回は茶碗蒸しの器を使う事にした。柄のないシンプルなものだし違和感もそんなに無いだろう。
そして牛乳と砂糖を小鍋で火にかけ、砂糖が溶けたら火を止めて、卵を溶いた容器に牛乳を加える。できたプリン液を濾しながら茶碗蒸しの器に注ぎ、アルミホイルで蓋をして湯煎にかければ出来上がりだ。
アルミホイルを外してみればキレイに固まっていて大満足だ。
さあ風見、いつでも来い!
――ピンポーン
「おはようございます! ……あれ、なんか甘い匂いが」
「いらっしゃい。さあ中へ入って」
風見は仕事で来たということは重々承知しているが、それでもテンションが上がる瞬間だ。
風見から捜査備品である洋服を受け取り、台所の椅子に座らせてスプーンと出来上がったばかりの温かいプリンを茶碗蒸しの器に入ったままテーブルに出した。
プリンをお皿に出しても良かったが、温かいプリンはまだまだ柔らかいため形が不格好になってしまうんだ。
「え、もしかしてプリンですか?」
「ああ。君が最近ハマっていると聞いたからね。たまには手作りもいいかなと思って」
「ありがとうございます!」
風見は感激したように顔をほころばせてスプーンを握った。こういうあどけない表情ができるところが風見の魅力だ。
「まだ熱いから気をつけて食べてくれ」
「はい! ……温かいプリンなんて初めてです! いただきまーす! ……んー!!」
語尾にハートが付きそうな風見の反応に満足しながら、僕はプリンを食べる風見を盗み見ながら風見が持ってきてくれた洋服の確認をした。
一時はどうなる事かと思ったが、風見がこんなにも喜んでくれて本当に良かった。