【栄養にオキシトシンも追加で】 最近、衰えを感じる。特に肌とか。
よくは知らないが、何歳からかお肌の曲がり角だと女性たちが話しているのは知ってるが、それが三十路なのだろうか、と痛烈に実感している。
だって隣にいる降谷さんの肌はピッチピチなのだ。きっと水もパッと弾くし、触れば弾力があってもちもちしていることだろう。
しかし羨ましいかと言われると……ちょっと悩む。
僕は男だから、そこまで美意識がある訳では無いし。でもかといって"老い"を感じるのはいい気がしないのだ。
まあ、肌以外は一応鍛えてはいるから、体力面には自信があるのだが。
悩んでいると言えば悩んでいるし、悩んでいないと言えば悩んでいない。
なんとも曖昧な思考。
「……それは体質もあるだろうけど、主に食生活……というか、生活習慣の違いじゃないか?」
別に相談しようと思って話した訳では無い。ただ単に近況報告をしている内に、そう言えばと思い至ってポロッと肌の事を話したら、降谷さんからそう返ってきた。好きな人に肌の相談とか、降谷さんの家に来てまで何をやってるんだ僕は。
でもそうか、食生活に生活習慣……。
「君はよく店屋物やコンビニ弁当で食事を済ませているし、徹夜が多いから睡眠も足りない。寝ている間には成長ホルモンという物質が分泌されて……」
降谷さんによると、店屋物やコンビニ弁当にはビタミンやミネラル、食物繊維が不足しているらしく、栄養としてはいまいちなのだそうだ。そしてそれらの栄養を使って寝ている間に体の中で夜間工事みたいなことが行われているらしい。僕にはそれらが足りないから肌も悪くなっているとか。
「でも降谷さんだって睡眠時間二時間なんてザラですよね」
「それはそうだが、僕はその分栄養のあるものを食べているし、体質的なものもあるのかもしれないな」
うーん。結局体質が大きいのではないだろうか? と思いつつも、そうか。僕には栄養が足りていないというのには納得だ。
かと言って自炊なんてしないし、……サプリメントで補うか?
顎に手を当ててうんうん考えていると
「君、サプリメントで補おうとしてるだろう」
と図星をつかれてうっと言い淀む。
「……よくお分かりで」
「サプリメントもダメという訳では無いが、そればかりに頼るのは良くない。やはりバランスの良い食事から栄養を摂取したほうがいい」
そこまで言うと降谷さんは言葉を一旦止めて、「だから、」と僕に向き合う。
「僕と一緒に食事をするのはどうだろう。君は自炊をしないし、一人分も二人分も作る手間は同じだ。昼は弁当を作ろう。時間が合わない時は冷蔵庫に入れておくから、レンジでチンして食べてくれればいいし」
「えっ!? いや、それはさすがに降谷さんの負担が大きいのでは!?」
「言っただろう? 一人分も二人分も作る手間は同じだと。僕は風見が僕の料理を美味しそうに食べてくれるのを見るのが好きだし、早速今晩から一緒に食べよう」
「しかし……!」
「まあ、僕が勝手にやることだから、風見が食べたくないのなら仕方がない。余った君の分は捨てることになるが……」
僕が食べなくても作ること前提なんだ……。も、勿体ない……。
まあ降谷さんはこうと決めたら結構頑固だし、僕にとっても悪い提案という訳でもない。それに好きな人との時間が増えることは嬉しい事だし。……せめて材料の調達は僕に任せてもらおう。
「わ、分かりました。よろしくお願いします」
「うん。じゃあうちの子と遊んで待っててくれ。すぐに作ってくるから」
「はい」
そうして降谷さんはワンちゃんを僕に預けて台所へ向かった。
まさか肌の話からこんな事になるとは思わなかったけど、棚から牡丹餅というか嬉しい誤算というか。
どちらにしろ、降谷さんからの嬉しい提案を僕が断るなんてことは無理な話というわけだ。