文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day01 太陽は山の奥へと隠れ、空は紺青と朱による美しいグラデーションを見せていた。校舎の屋上から遠くに揺れる海原を見つめていた汐見は、屋上に巡らされた柵に凭れて大きなため息を一つ吐き出す。
「おつかれ」
「お前もな」
からからと笑いながら疲れを滲ませた息を吐き出す汐見へと労いの言葉を掛けた空閑に、汐見は小さく笑い言葉を返す。卒業証書を受け取ってから数ヶ月、季節は夏へと差し掛かる頃で。互いに高校指定のジャージを纏う彼らは、次の進学先への渡航までの間をこの場所で過ごす事を決めていた。
実家に帰るよりも、渡航までの約半年をこの場所で知識を深めた方が有意義だという結論に達したのは何も彼らだけではない。彼らよりも前に卒業していった先達であったり、同学年で本校への進学を決めている者の一部も同じような選択をしており――学校もまた、それを受け入れる体制が整えられていた。
普段はアルバイトの一環としてパイロットコースの後輩達への指導を手伝っている彼らは今日、講堂のステージへと引っ張り出されていたのだ。
「てか、そもそも誰だよ卒業生発表なんて演目作った奴」
「名前も分からない先輩でしょ? 伝統だって言うけど、あれはないよなぁ」
毒付くように吐き出した汐見の言葉に空閑は肩を竦める。国際航空宇宙学院日本校高等部では、年に一度の学校祭が催されていた。そして、空閑と汐見は元担任であり現在の上司とも言える吉嗣により、学校祭のステージでパフォーマンスをせよという厳命が下されていたのだ。
そして汐見がフェルマーへその内容を相談した結果、気付けば彼らは若者に人気だという男性アイドルユニットの真似をする事となってしまっていた。
完璧主義かつ負けず嫌いの気がある汐見と汐見のやることは大体全肯定する空閑が揃った上、元凶であるフェルマーと面白がってそれに乗った篠原が手を尽くした結果、学校祭のステージに現れたのは本家ばりの衣装を身に纏い歌もダンスも完璧にマスターして見せた空閑と汐見で。
最初に面白がってステージの枠を取った吉嗣の予想を大幅に上回った大盛況で幕を閉じたその発表に、ほとほと疲れ果てた二人はこうして夕暮れ時の屋上へと逃げ現在に至るのだ。
「でもまぁ、最後だしな」
「そうだねぇ」
来年、彼らはこの場所には居ない――本来であれば、今もこの場所に居なくて良い身分になってしまっている。空は深い紺青が太陽の名残を喰らいつくそうとしており、学校祭も終わりを迎えるような時刻が迫っていた。
雲ひとつない空閑の瞳とよく似た紺青の空に、大輪の花が開き消える。それは学校祭のフィナーレとなる花火が始まる合図で。
色とりどりの光の花弁が開いては散っていく空を眺めながら、空閑は再び口を開く。
「最後の夏、めいっぱい楽しもうね」
この学び舎で見る最後の打ち上げ花火を見つめながら、汐見は口元にだけ小さく笑みを浮かべて頷いた。