朝も、昼も、夜も、チェズレイのメイクは崩れない。
例えば世の女性は、化粧は毎日落とさないとすぐに肌が荒れてしまうなんて言っていたけれど、彼にそういう懸念はないんだろうか。
「チェズレイの目元のそれって、メイク……だったよな?」
「ええ、よろしければ、触れてみますか?」
「え、いいのか?」
「他でもないあなたですから……触れてみたいなら、どうぞお好きに」
思わせぶりな嘯きにどきりとしたけれど、チェズレイに他意がないことはわかっている。
潔癖症のきらいがあるということは、本人からも聞いていたし、モクマさんからも言われていた。けれど、彼は僕に対しては、どれだけでも障壁を取り除く気持ちでいてくれるらしい。
許しを得た誘惑に抗えず、おそるおそる手を伸ばす。
肌には触れないように気を付けながら触れてみると、目元に散らした宝石のような装飾は、滑らかで気持ちの良い手触りだ。どこかさらさらした感触は、自分の肌とはだいぶ違う気がする。
「これって、どういうものなんだ? 刺青……とは、違うんだよな?」
「そうですねェ。インクを皮膚に流し込むところまでは同じですが、定着させているわけではありません。目に近い場所に刺青の施術は少し難しいので」
「なるほど」
汗ばむくらいの陽気だというのに、指先に触れるさらさらとした感触はただ心地良くて、そもそもチェズレイの肌質なのか、それともメイクを施しているからなのか。
肌に浮き立つ微かな盛り上がりや凹みが、微細な彩をはじき出している。
つい、触れながら考え込んでいたらしい。
辿る指先に、手袋越しにチェズレイの手がそっと重なった。
「ボスが気になるのでしたら、アートメイクだけでなく他の場所へ触れていただいても構いませんよ」
趣味が悪い、と思ったはずなのに、我知らずの内こくりと喉が鳴る。
ゆるされた行為は、あまりに魅惑的だ。
僅かに指先をずらせば彼の頬の感触を知ってしまう。思わず触れた手に震えが走ったことを、きっと気付かれたはずで、それでも蠱惑的な菫色は笑みの形を崩さない。
触れた箇所から馴染むような、甘い熱に指先が痺れた。